#114(17日目・午後・セイン)
「おい、そこで何をしてる!」
「にょわわぁ!?」
昼過ぎ、いつものようにギルドホームに向かうと…、なぜかホームの外(テラススペース)で、ニャン子が中を覗いていた。
「完全に不審者だな。通報するぞ」
「不審者扱い!? いや、そうじゃなくて! ギルドに、知らない人がいるにゃ!!」
「知らなくはないだろう? ユンユンとかとくに…。そもそも、ギルドの設定でゲスト枠は確認できるだろ?」
「そうじゃないにゃ! そうなんだけど、言いたいのはそういう事じゃないにゃ!!」
どうやら、ゲストが我が物顔でくつろいでいる中に入る勇気がないようだ。そう言えばコイツ、わりとガチなコミュ障だった。
「入る勇気がないのは分かったから、サッサとついて来い。ぶっちゃけ面倒くさい」
「ひどっ!?」
アイツラが入り浸るようになってから結構たったと思うのだが…、どうやら今の今まで、まったく接点がなかったようだ。
「おい、玄関に猫がいたぞ」
「あ、セイン、こんにちはって、あ! その、お邪魔しています」
「あぁ、にゃんころ仮面さん、お邪魔しています」
「うぇ、あの、うん!」
なにが「うん!」なのかは知らないが…、とりあえず改めて自己紹介をする面々。
「なるほど、セインとゲーム以外の話はしないんですね…、なるほど…」
「あぁそうだ。ちょうどいいニャン子!」
「にゃ?」
話が徐々に本題から脱線するタイミングを見計らって、さっき思いついたアイディアを提案する。
「おまえ、ちょっとスバルと勝負しろ」
「ふぁ!?」
「え!? 師匠、それはあんまりです!!」
ニャン子は予想していたが、予測できなかったのはスバルの反応だ。武人気質なスバルなら、絶対に喜ぶと思ったのに…。
「知るか。とりあえず、お互い勉強になるはずだから、ちょっと殺し合え」
「うわ、すごいセリフ。でも、私としてもちょっと興味あるかな? スバル君、ここは活躍してポイントを稼ぐチャンスだよ!」
煽るユンユン。まぁコイツにしてみれば、面白い画を撮るチャンスだ。
「よし、じゃあ最初の対戦相手はユンユンにしよう」
「ちょまっ!?」
「ぐしし、さすが兄ちゃんにゃ」
ユンユンの驚く顔を見てケラケラと笑うニャン子。コイツの場合、初対面の相手と"話し"をするのは苦手だが、"試合"ならさほど問題ない。
「なんでいきなり勝ち抜き戦をやる話になっているのよ。私に勝ち目、ないじゃない…」
「いや、上位プレイヤーとデスペナ無しで手合わせできる機会なんて普通はないぞ? なに贅沢いってるんだ」
「贅沢って…、まぁ言われてみれば、そうかも? いや、でも私、後衛職なんですけど?」
「オープンワールドのMMOで後衛を理由に接近戦を拒否するのは"甘え"だ」
リアルタイムのオープンワールドゲームだと、戦闘中でも平気で他の魔物やPCが割り込んでくる。いくら後衛職といえども、1人であるていど対処できなくては…、あっという間にデスペナで首が回らなくなる。
「ぐっ、じゃあ、ハンデくらいちょうだいよ! あと、ご褒美も!!」
「あ、それならボクも!!」
「ぐしし、じゃあアチシも!!」
面倒な流れになった。あわよくば、今日の対決をウヤムヤにしようと思っていたのに…、これでは余計に面倒なことになりかねない。
「おまえら、図々し過ぎ! それに悪いが俺は余興に時間をさくつもりはない」
「ぶーぶー、言い出したのはそっちじゃない」
「よくわからないけど、そ~にゃそ~にゃ~」
もう、コイツラを無視して狩りに行きたい気分だが…、考えてみれば悪い話ばかりではない気がする。ようは勝てばよかろうなのだ。
「あぁ~、わかったわかった。ちなみに何が欲しいんだ? ハンデはルール的に必要ないように思えるが…、まぁ要求しだいだな」
「ん~、私はやっぱり、動画関係かな。ちょっとでもいいからニャンコロさんに出演してもらえると助かるんだけど…」
「あのあの、ボク、贅沢は言わないので…、普段の試合に、あくまで緊張感をもたせるために負けたらペナルティーをあたえると言うか、"お仕置き"みたいなものがあったらいいかなって!」
「たとえばどんなのにゃ?」
「それはその…、腕立て伏せをするから、セインは上に座ってもらうとか…、走り込み中に罵倒をあびせて、発破をかけたりとか…、あとあと! シンプルにお尻叩き!!とかでも!」
「あいかわらずスバルはノリが体育会系だな…」
「じゃっかん、別のスメルもするにゃ~」
「そうか?」
よくわからないが、スバルの方は特に問題はなさそうだ。問題はユンユン。使い方によっては情報操作などに使えるが…、コチラの行動や装備の情報がもれるリスクがある。ちょっとくらいなら問題ないだろうが…、多用は避けるべきだろう。
結局、その場で話し合った結果。
①、ダイスをふって挑戦者を決める。挑戦者は基本的にスバルとユンユンの二択だが、俺やニャン子もコレに参加してもいい。
②、挑戦者が対戦相手を指名する。基本的に俺かニャン子が選ばれることになるが、この場に集まったPCなら誰を指名してもいい。
③、ハンデやお互いの報酬を決める。これによって無茶な要求をしても拒否したり、ハンデを無しにできる。
「それで確認なんだけど…、この勝負、ボクとセインの勝負とは、別件って事でいいんだよね?」
「それは状況次第だな。基本ルールは同じなんだし、1日に2回も挑戦されたら面倒だ」
「えぇ…、それじゃあ、挑戦機会が減っちゃうよぉ…」
「まぁそのかわり、ハンデや別の要求も通せるわけだし…、そんなに悪くないんじゃないか?」
苦しいか? 俺としてはスバルと対戦する回数を減らすか、いっそのことハンデ付きで負けて、「本当は俺の方が強い」状態のまま試合の話を終わらせたい。
「えっと、それじゃあ! 負けた時のペナルティーを増やしたり、使う武器を指定してもいいんですか!?」
「え、あぁ、うん、別にいいんじゃないか?」
武器を指定されるのは痛手だが、その分ハンデをつけたり、逆にあっさり負けて「武器のせいで負けた」って事にもできる。
スバルは1対1なら既に、下位のランカー程度は軽く凌駕する実力を持っている。まだ実戦を考えると足りない部分はあるものの…、とりあえずギルドに入れたり、PTメンバーとして同行を許しても足手まといにはならないだろう。
今のスバルに必要なのは"ひた向きな努力"ではなく、イレギュラーに対応する"知識と経験"だ。
こうして、昼の試合に新たな条件が加えられた。
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