#111(16日目・夜・セイン)

「そいえば、兄ちゃん」

「ん?」

「"ビワスール"の方は行かないにゃ?」

「あぁ、あっちの優先順位は低いな。行くとしても60超えてからで充分だろ?」

「ん~、兄ちゃんがそういうなら…、まぁいっか」


 夜。日課の船長討伐も終え、俺たちは旧都に来ていた。


 船長狩りはこれからも続ける予定だが、とりあえずパイレーツガチャはこれ以上やっても旨味は少ない。珍しい装備が手に入るとはいえ、所詮はDランクであり、汎用性などを考えても狙うならCランクだ。


「兄さん。どこに行くか決まっていますか? まだ決まっていないなら、拳闘士がいても役に立たないエリア…、"騎士団"なんてどうでしょう?」

「にゃ~ん、にゃんこは、拳闘士じゃなくてニャンコだにゃ~。さり気なく置いていこうとしないでほしいにゃ~」


 騎士団には動く鎧の"リビングアーマー"などの、有力な装備をドロップする魔物が多く配置されているが…、とうぜん難易度も相応に高い。幸いなことに、無機物特攻の[モールエッジ]があるので少しくらいはやれるだろうが…、ダメージソースが俺1人というのは危険だ。ここは無理せず、順番に装備を揃えていくのがいいだろう。


「それなら先に、重斧か刺突系鈍器が欲しいところだな。リクエストはあるか?」


 基本的に無機物系はひたすら硬い。斬撃耐性も高いので、軽量攻撃と斬撃属性は殆ど役に立たない。重斧なら重量のデメリットはあるが、純粋な単発火力はトップクラス、足の遅い相手なら避けられる心配もないので安心確実だ。


 [ピッケル]をはじめとする刺突系鈍器は防御貫通能力がある。扱いは難しいものの速さを重視するならコチラも選択肢に入る。


「それなら汎用性を考えてピック系、[バトルピック]か、[ウォーピック]でしょうか?」

「あぁ、それだと入手は炭鉱になるな…」


 ピック系はゾンビワーカーのレアドロップだ。そろそろ注意もそれただろうし、モールキングを狩るついでに戻ってもいいが…、レアなので一晩で手に入る保証はない。ここは素直に露店で買うのが1番だろう。


「兄ちゃん、にゃんこの[モールクロー]が保留になっているの…、お忘れでは?」

「すまん、思い出せそうにないな」

「しっかり思い出してるにゃ!?」


 人目の多いダンジョンのボスを狩るのは地味にリスキーだ。ボスドロップを横取りしようと邪魔される可能性や、情報をネットに晒されるなどの危険がある。せめて、気を引くような大きな事件が起こってくれれば…。


「とりあえず今日はどうしようもないから、"貴族街"にいくぞ。急ぐものはないが、面白いものが色々手に入る」

「はい」

「うぃ~」




 やってきたのは旧都・貴族街。ここには下位の悪魔の"インプ"や少数ではあるものの"ドッペルゲンガー"などの他では見られない魔物が出現する。


「そう言えば兄ちゃんたち、なにに転生するにゃ?」

「ん? あぁ、"魂"のことか?」

「そそ、必要なら、コツコツ集める必要があるにゃ」


 インプは悪魔系であり、悪魔系に転生するのに必要な[悪魔の魂]をドロップする。魂とは、転生条件にもなっているキーアイテムで…、アイテムと言う形でドロップするものの、売り買いなどはできず、PT内で分配されることもない。入手した時点でポイントとして蓄積される。つまるところ転生用の特殊経験値だ。転生先によって必要数は変化するが1番確実に転生条件を満たす…、急がば回れ的なアイテムだ。


「まぁ手に入れば嬉しいが、面倒だからそっちの条件でいくつもりはない」

「そか、まぁ狩場が限定されるのは面倒だからにゃ」


 異種族転生には3通りの方法がある。

①、魂を集める。1番面倒ではあるが、同系統の魔物を倒せばいいだけなので、レベリングついでに条件を達成できる。デスペナなどが多いPCは、気づいたら条件を達成しているパターンも多い。


②、対応した部族のクエストをこなす。C√では数少ないクエスト要素。それなりに面倒ではあるが、地味で時間のかかる魂集めよりは手っ取り早くて自由度が高い。


③、対応した部族の族長との決闘に勝利する。シンプルでC√らしい条件。難点は1対1なので後衛職は実質攻略不可能な点だろう。そもそも難易度がかなり高いので、腕試し的な扱いになっている。


「兄さん、ドッペルゲンガーです! ここは私が!!」

「にゅわ!? アチシは本物にゃ! 笑顔で追いかるのはやめてにゃ~~」

「仲良しだな…」


 わりと本気で攻撃しているようにも見えるが、とりあえず2人が楽しそうなので良しとして…、俺は肝心のドッペルゲンガーを対処する。


 ドッペルゲンガーは最初にターゲティングしたPCの姿に変化する半霊体の魔物だ。半霊体なので半減されるものの、無属性攻撃も通用する。防御力が低いので無属性装備でも倒せなくはないが…、やはり属性武器でいくのが無難だろう。


「さて、わざわざ倒しやすい人型になってくれるとは、親切なオバケだ…、な!!」


 ニャン子に変身したドッペルを淡々と処理する。マンガなどでは厄介なコピー能力だが、L&Cでは姿を真似るだけであり、仕草や声などはマネできない。だからよほど油断していなければ看破できる。


 一応、スキルや装備もコピーできるが、ステータスは元の数値が優先されるので…、弱いPCをコピーすると本人よりも強く、逆に強いPCをコピーすると劣化コピーが出来上がる。この特性を利用して、有効な攻撃スキルを持たない支援職にタゲを持たせて封殺するテクニックもあるが…、そう言うのは面倒なので俺はやらない。ようは戦闘AIを凌駕すればいいだけの話だ。




 結局その後は、ひたすらインプを狩って狩って、狩りまくって終わった。

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