#110(16日目・夕方・ユンユン)
「お姉様、はぁ~お姉様、お姉様」
「え? 俳句??」
「はい?」
「いや、うん、なんでもない」
昨日から明らかに小麦の様子がおかしい。
夕方。いちはやくログインした小麦と2人きりで話?をしていた。
「そういえばユンユンさんは、お付き合いしているお姉様とかいらっしゃらないのですか?」
「え、あ、うん、いないよ。私はノーマルだから」
「ふっ…」
え? 今、鼻で笑われた??
というか、気まずい! なんなのこの空気!!
私としても同性愛を否定する気はない。むしろ大好物だと言ってもいい。しかしそれは、あくまで妄想の中での話で現実世界にまで持ち出すつもりはない。
それに私自身は男性が好きな普通の女の子…、はちょっと無理がある歳にさしかかってきたけど…、とにかく! 私の恋愛対象は男性だけで、同性にたいして劣情をいだくことはない。いや、まぁ…、男性同士が絡み合っているところに激しい劣情をいだくのもどうかと思うけど…。
「えっと…、小麦、何か悩み事でもあるの? 私でよかったら、相談にのるけど」
いや、相談されても困るんだけど…、だからといって放置もしていられない。私はこの動画に生活をかけている。小麦があいかわらず個性の塊なのはいいが…、さすがに呆けられていては動画として使えない。
「 …そういえば、ユンユンさんはセインさんと知り合いなのですよね?」
「え!? あ、うん、知り合いって言うか…、まぁ知り合いかな?」
小麦が男性を気にかけるのが、あまりにも意外で驚いてしまったが…、とりあえずもう少し話を聞いてみる。セインとは毎日会っているものの、本人の事はあまり知らない。私が一方的に毎晩のオカズに使っているだけの関係だ。
「そのセインさんが…、実は! 私の憧れのお姉様だったのです!!」
「 …え!? セインって女だったの!!?」
「はい?」
「え? いや、だからセインお兄ちゃんが憧れのお姉様だって…」
「何を言っているのですか? セインさんは殿方ですよ? お姉様のお兄様というだけです」
「あ、うん、そうだよね。うん…」
頭痛い。アルミやミコトは、よくこの子と友達になれたよね…。2人は同性愛者じゃないみたいだけど…、もう、なんなのコレ。
とはいえ…、小麦がお姉様?のことを気にかける切っ掛けを作ったのは、まず間違いなく私だろう。あの時は何も考えずに適当なことを言ったけど…、タイムリープできるものなら全力であの時の私を止めてやりたい。
「それで、なんとかしてお姉様にお近づきになりたいのですが…、私はシャイなので、お姉様の前だと上手く話せません」
「そう…」
シャイって内気って意味だよね? わりと行動力あるように思えるけど。
「それで、今日もお姉様に話しかけようとしたのですが…、上手くいきませんでした。はぁ~」
しっかり行動しているじゃん!!
しかし、セインの妹って、どっちだろう? 2人とはあまり面識はないのでよくわからない。たしか…、アイさんはかなりキツイ性格で、見つかるとゲスト権を剥奪されるから夕方までにはギルドホームを出たほうがいいってスバル君が言っていた。
ニャンコさんのほうは…、よくわからないけど、有名なロールプレイヤーであり、キャラを作っているので本当の性格まではわからない。一応、陽気な性格で協調性のない自由人らしいが…、セインの言うことは聞いている様子だし、実は結構ブラコンなのかもしれない。
「えっと…、その、リアルの事情に立ち入る気はないけど…、とりあえず"2人"はL&Cプレイヤーなわけだし、攻略を進めていけば、おのずと接点も生まれると思うよ?」
こういう相談は本当に苦手だ。昔、「お悩み相談コーナー」をやった時も散々苦労した。はじめは安易に無難なことを言っておけば依頼者が勝手に自己完結してくれると思っていたが…、実際は、ひたすら無難な言葉を探し続けるストレスの溜まる作業だった。
今回なら、間違っても「2人にあわせてあげる!」なんて言葉はNGだ。会ってどうなるか分からないし、会わせられなかった場合も責任のとりようがない。個人情報も迂闊に教えられないので出来るアドバイスは非常に限られる。
なにより…。
「そうなのですか?」
「もちろん! セインお兄ちゃんも言っていたけど、お兄ちゃんが私に協力できないのは"実力がともなっていないから"。つまり、肩を並べるにあたいしないと思われているからなの! 2人はこのゲームを本気で極めようとしているから…、それに釣り合うプレイヤーになれば、ちゃんとコチラを認めてくれるわ!」
「なるほど…、つまり、お姉様に釣り合う実力を身につける必要があるのですね!?」
「そう! そういうこと!!」
私にとって大切なのは"自分の生活"であり、動画だ。小麦には悪いけど…、動画に専念できるようなアドバイスしかしてあげられない。
結局、都合のいい言葉で小麦を言いくるめる事しかできない自分に自己嫌悪しつつも…、なんとかその場をやり過ごした。
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