#109(16日目・午後・セイン3)

「おい! あのPC、"夜エリア"に入っていくぞ!!」

「マジかよ。つか、ソロで夜とか、ガチもガチだな!?」


 さんざん寄り道していい時間になってしまったが…、俺は1人で旧都ダンジョンに来ていた。


 ちなみに夜エリアとは、旧都の黒い靄がかかっているエリアの総称で…、ココには通常のエリアと同じコピーマップが広がっている。違いは出現する魔物で、厄介な能力持ちや純粋に強い上位種が出現する。分かりやすく言えば、"ハードモードエリア"だ。


「まさか来るのがここまで遅くなるとは…、やはり、予定は崩れるものだな…」


 つい、愚痴が漏れる。


 当初の予定では、とっくにココの攻略に取り掛かっていたはずなのだが…、ニャン子や自警団の一件で、大分攻略が遅れてしまった。たぶんだが、もう何人かはココの攻略に着手しているだろう。別に最速攻略を目指しているわけではないが…、やはり先をこされるのは気持ちのいいものではない。


「Gururururu…」

「出迎えご苦労。早速で悪いけど、死ね」


 出迎えてくれたのは"ゾンビウルフ"。早いくて低い、まぁそれだけの相手だが、放置しておくと最高に面倒な相手でもある。


 今回用意した武器は、右手に万能の[スティレット]、左手に防御用の[十手]、そしてスイッチ先は火力特化の[炎のチョッパー]にした。


 夜エリアは死霊系も出現するので無属性物理攻撃は無効化されてしまう。そのために火属性をエンチャントした[チョッパー]を用意した。この短剣は斬撃特化の重短剣で、日本人的に言えばナタの一種になる。[バンク]との違いは、特殊能力が無くなった代わりに純粋な攻撃力が増加している点だ。アンデッドや死霊系は明確な弱点がないので、クリティカルはステータスを下げるデバフ目的でしか使えない。かわりにダメージソースとして純粋なダメージ量と属性を兼ね備えた[炎のチョッパー]を用意したわけだ。


 足の速いゾンビウルフを処理すると、次は"ゾンビソルジャー"や死霊系の"ゴースト"が後れてやってくる。出現する魔物は推奨レベル40以上だが…、まだこの程度はあいさつ程度にすぎない。


 臆することなく、冷静に、ゴースト、ウルフ、ソルジャーの順で確実に処理していく。危険なのはバランスよく強いソルジャーとの戦闘中に、無音のゴーストに背後をとられるパターンだ。


 死霊系は基本ステータスこそ低いが、無音であり、属性のない装備を無視する厄介な特性を持っている。これに気づかず背後をとられると…、組み付かれて大幅なデバフを受けてしまう。そこに素早いウルフの攻撃で局部破壊をもらって…、トドメとばかりにソルジャーの追い撃ちが飛んでくる。


「まぁ…、こんなもんか」


 ともあれ、今更この程度の相手に手こずってもいられない。体力が高いのはソルジャーだけなので、属性装備と落ち着いた対処が出来れば、ソロ攻略は充分可能だ。


「(パチパチパチ)や~、お見事お見事。ソロでも余裕のようですね」

「へけけ、さすがは王都を救った英雄っすね~」


 ザコを処理したタイミングを見計らって、2人組みのPTがあらわれた。最初は俺が死ぬのを待ってドロップを拾う"死体漁り"かと思ったが…、どうやら俺のことを知っていて声をかけてきたようだ。


「自分は"ブラウス"です。以後お見知りおきを」

「俺っちは覚えているよな? "丸んこ"だ。封鎖事件の時はど~も」

「セインさんですよね? ちょっと話、いいですか?」


 あらわれたのは封鎖事件の時にアイたちが倒した丸と…、もう1人の丁寧口調は知らないが…、まぁ同じ穴のムジナだろう。


 どうでもいいが、ブラウスって女性もののシャツだよな? どう見ても男性PCだが…、語感だけでキャラネームを選んだパターンか?


「人違いだ。狩りの邪魔をするなら…、斬る」

「わ~、まったまった。これ以上デスペナはマジ勘弁。手短に話すから、装備のメンテでもしながら聞いてくれよ」

「ふざけるな。メンテナンスのスキをオマエラに任せられるか。勝手に喋って、さっさと失せろ」

「ですよね~」


 メンテナンス中の護衛を買って出て、無防備なところをPKするのは定番の手口だ。とくに旧都はクルシュナから近いのでC√PCが多い。だから魔物だけでなく、PCにも警戒する必要がある。


「失礼。それでは簡潔に。近々、また自警団を襲う作戦が持ち上がっています。セインさんも、よろしければ参加しませんか? もちろん、自警団をキルする側として」

「 …興味ない」

「まぁまぁ、今回のは安全なんですよ~。指名手配される心配のない作戦なんでオススメですよ! 知ってますよ? ダンナが自警団と対立してること」

「多少なら報酬はだせますが…、セインさんも、このまま自警団の横暴を野放しにしていいとは考えてないのでしょう? せめて転送サービスの検問だけでも辞めさせないと。そう、思いませんか?」


 コイツラが勇者同盟と繋がりがあるのは、まず間違いない。はじめは勇者の紹介で俺を勧誘しに来たのかとも思ったが…、クチブリから察するに、どうやら俺を勧誘しにきたのは本当に偶然のようだ。


 まぁ勇者同盟はアレでも表向きはクリーンな組織。C√とかかわりがあることを悟られないように、代役を立てて指示を出しているか…、あるいは情報だけ流して偶発的に事件をおこしているのか…。


「今の自警団をよく思っていないのは確かだが…、俺は他人の世話を焼くほどお人好しでも無ければ、暇でもない。別に止める気はないから勝手にしてくれ。コッチはすでに対策済み。協力する必要は感じない」

「そうですか、気が変わったらいつでも連絡してください。それでは」




 アッサリ引き下がる2人。どうにもキナクサイ話だが…、とりあえずその後は、何事もなく狩りをしてすごした。

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