#112(16日目・夜・ラナハ)

「そんな! 私はそんなつもりでは!?」

「キミには自警団としての自覚が足りない。キミは1人のプレイヤーであると同時に、栄えある自警団の団員だ。個人的な活動を否定するつもりはないが…、プライベートな時間も、自警団の一員である事実は変わらない」


 夜。帰宅してVRを立ち上げると、"自警団の呼び出しメール"でボックスが埋め尽くされていた。用件はもちろん昨日のセインさんとの一件に関するものだった。


 セインさんと戦ったことは、あくまで個人的な問題で…、彼が自警団と正式に決別したのは別問題。昨夜は遅かったこともあり決別した事だけを伝えてログアウトした。しかし、どうやら誰かが戦闘の様子を隠し撮りしていたらしく…、自警団は大騒ぎになっていた。


「団長、あまりラナハちゃんを責めないであげて。たしかにラナハちゃんのしたことは凄く問題があるけど…、その…、ほら! 社会に出たことのない学生さんは、まだ経験不足っていうか…、事の重要性を、まだよく理解していないんですよ!」


 さっきから、フォローしているようで、むしろ蹴落としてくるミーファ。私が学生なのは事実だが…、バイトくらいならやっているし、ギルドの仕事に関しては私の方が確りやっている。ミーファは「モデルの仕事があるから」と言って頻繁に休むが…、実際のところは怪しいものだ。


 しかし、彼女は世渡りが本当にうまい。まわりの人をおだてて自分の代わりに働かせたり、問題を起こしても上手く言い逃れたり、誰かしらが擁護してくれる。不器用で融通のきかない私にはマネのできないところだ。


「たしかに、子供相手に大人げなかったかもしれないな」

「 ………。」


 さっきからストレスでブチ切れそうだ。私の胃と、精神、悲鳴を上げるのはどちらが先か…。


「そうですね。あまりリアルを詮索するのはよくないですけど…、今後はギルドの入団条件に、年齢制限や個人情報の提示を検討する必要があるかもですね」

「 ………。」


 昔から私はどこへ行ってもこんな感じだ。集団に馴染めないと言うか…。部活に入ってもチームメートとうまくコミュニケーションがとれずに、実力とは関係なくレギュラーから外される。バイトでも、自分の仕事はキッチリやっているのに「連携がとれていない」とか「雰囲気を悪くしている」とか言われてしまう。


「たしかに。あまり厳しくはしたくないが…、最低限の常識も守れないでは話にならない。はぁ~、困ったものだ」

「 ………。」


 実際その通りのところがあるので私も否定しきれない。しかし、だからと言って好きでもない相手と興味のない話で盛り上がったり、他人にプライベートな部分を詮索されるのは我慢ができない。そもそもなんでアイツラは、意味もなく私生活を詮索してくるんだ! 答えなかった私が悪いのか? 詮索してきたアンタラに非は無いのか!?


「そう気を落とさないでください、団長。肩でも揉みましょうか?」

「いや、気持ちだけ受け取っておくよ。今は動画の問題だ」

「 ………。」


 それが嫌でネットゲームをはじめたのに…、結局どこへ行っても同じような問題を起こしてしまう。自警団に入ったのも、はじめはマナーの悪いプレイヤーが許せず、自警団の活動を応援していただけにすぎない。それが気づけば、見込みがあると言われて役職までもらってしまった。それでマジメに仕事に打ち込んでいたはずなのに…、気づけば孤立している。


「キミもなんとか言ったらどうかね? 今回の件はキミの軽率な行動がまねいた失態なんだよ」

「ですから、セインさんとは本当に手合わせと言うか…、同意の上の真剣勝負だったわけで! すなおにそのまま発表してもらえれば!」

「そういう問題ではないんだよ…。そもそもなぜ、勧誘しろと命令した彼を簡単に離反させている? 絶縁の話を持ちかけられて、なぜそこで引きとめず…、あまつさえ真剣勝負をする流れになるのだ?」

「ラナハちゃん、人付き合いが苦手なのはわかるけど…、もう少し、引きとめたりとかしないと、すぐにバラバラになっちゃうよ? 自分のことばかりじゃなくて、もうすこし皆のことも考えれると、いいかな~」


 「どのツラ下げて!!」と言う言葉を必死でこらえる。悪い噂を流して組織からセインさんを追い出したのは、他でもない、彼女の仕業だ。しかし、それを私が言っても誰も相手にしてくれない。それだけ彼女の誘導が巧妙と言うか…、結局、信用のない私が何を言ってもダメなのだ。


「問題は自警団として、どう発表するかだ」

「それは! ありのまま発表すれば…」

「そういう問題ではない! 実力者を離反させ、あまつさえ団員がキルされる。これでは組織の面目は保てない」

「(いや、そんなもの、どうでもいいだろう!?)」

「そうですね。あの映像をみたら、自分勝手な人たちが増長してしまいます。私たち自警団は、あくまで一般プレイヤーであり、特別な権限は持っていません。それが…、"気に入らないならキルして黙らせればいい"なんて思われては…」

「そう、ランカーなどの実力者を止められなくなる。今は勝てる勝てないは抜きにして"警察のような存在"として命令に従う流れができているが…、"従う義務はない"と認識されるのは、なんとしてでも避けなければならない!」

「(なにがダメなのかサッパリわからない。私にはちっぽけなプライドにしがみ付いているだけに思えてしまう)」

「それにしても、セインさんは強すぎですよね。疑うつもりはありませんが…、チートを使っていると言われるのも頷ける強さです」

「 …そう言えば彼は、チートを使っていない証拠は上がっているのか?」

「え!?」

「たしか、無かったはずです。チートを否定しているのは各種掲示板で、彼自身はとくにチートを否定していません」

「なるほど…、それならばまだ言いようがあるな…」

「待ってください! 何をするつもりですか!? セインさんは何も悪くありません!! むしろ被害者で…」

「黙りたまえ!!」

「なっ!?」

「なにも虚偽の発表をするつもりはない。事実を、ありのまま、"精査"して発表するだけだ」

「いや、だから!?」

「あぁ、ラナハ君、どうやらキミにはまだ役員の座は重かったようだね」

「そうですね。イイところもあるとは思いますけど…、ここまでしては、組織として処分しないわけにも…」

「そ、そんな!? そもそも…、犯人は貴女じゃない!!」


 とうとう言ってしまった。いくら私でも、ここまで言われては引き下がれない。せっかくなので、犯人が誰なのかハッキリ言ってやろう!!


「え!? なんでいきなり私が犯人になるんですか?」

「ラナハ君、言うに事欠いて…」

「一応言っておきますけど、昨日の夜は私、ちゃんとアリバイがありますよ?」

「えっ…」


 正直なところ、その後のことはよく覚えていない。酷い言い争いになって、気が付いたら自警団ギルドを追放されていた。




 こうして、私は、また1人になった。

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