#103(15日目・夜・セイン2)
「こんなところに私を呼び出して…、いったい何をするつもりですか!?」
「せっかちだな。まずはわざわざ呼び出しに応じてくれたことに礼を言う」
時刻は夜半過ぎ。海底神殿での狩りも終え、普段ならそろそろログアウトする時間なのだが…、今日は1人で、とあるPCに会いにきた。
「前置きが長いのは嫌いです。用がないのなら私はこれで…」
わざわざ呼び出しに応じておきながら、問答無用で帰ろうとする女性PCの名はラナハ。彼女は自警団ギルドのギルド員であり、伝達役としてギルド未加入の団員と接する機会も多い。
「まぁまて、知っていると思うが…、現在、俺は自警団に目の敵にされている。セクハラ疑惑だけでなく、とうとう転送サービスの利用まで妨害されるようになった」
「そ、それは…、団員が勝手にやっている事です! 自警団はそんな指示は出していません!!」
大体予想通りの反応だ。こんな時間にラナハを人気のない場所に呼び出したのは…、情報のすり合わせと、ラナハ自身の考えや人間性を確認するため。俺はすでに情報屋から、自警団ギルド内の動きを聞いているし、犯人の目星もつけている。
「その言い訳が通用するのは先週までだろう? ギルドまで作って、正式に役割や責任を団員に持たせているなら…、団員の不祥事の尻拭いをするのもギルドの仕事だ。それに! 俺の悪い噂を流したのは、ほかでもない、"ギルドの正式メンバー"だろう?」
「ぐっ! それは…」
セクハラの噂を流したのは、ほぼ間違いなくミーファだろう。そもそも、セクハラなんて話が持ち上がる時点で女性PCが絡んでいることは明白。加えて、彼女は重要なギルドの設立式を一身上の都合で急きょ欠席している。時系列的に考えて…、俺にあしらわれた後、腹いせに悪い噂をふれまわりアカウントロックをくらったってところだろう。
「まぁ、俺はアイツと違って執念深くない。だから悪い噂を流そうなんて思わないし"責任をとって解散しろ"なんて言うつもりもない」
「それで、要求は何ですか!? やはり金銭ですか? それとも…、ボスの粘着に関する苦情ですか?」
そう言えば、俺って金銭目的のガメツイ傭兵みたいな認識なんだっけ? 完全に忘れていたが…、そう言えば、自警団とはそんな契約を結んでいたんだった。
ちなみに、すでに目的の半分は達成している。さすがにレイのようにペラペラ喋ってはくれないが…、犯人や内部事情の裏付けはとれた。
正直なところ俺は、勇者同盟や紹介された情報屋を完全に信じてはいない。きな臭さは勇者も自警団も、五十歩百歩。手間でも裏付けはキッチリとる必要がある。
「そういうのが必要なら団長に直接言うさ。そもそも、キミにドウコウする権限はないだろ?」
「それは、まぁ…」
「俺が不満に思っているのは、彼女に限った話ではない。新しい団長のやり方もそうだし、団員の人間性にも疑問が残る」
「ぐっ…」
「なにより、大きな組織には必要不可欠な、寛容さが致命的に欠けている。今の自警団は相手の事情や真実なんて無視して、気に入らないヤツを一方的に攻撃しているだけだ」
「それは…、その…」
ラナハも理解しているのだろう。自警団は実行力を重視した結果、狭量で、攻撃的な組織になった。これは誰かが悪いというより、表裏一体の理なので、根本的な活動方針を見直さない限り改善は見込めない。
たしかに、自分勝手なプレイヤーが多いことは事実だ。それを何とかしたいと思ってラナハは自警団に入ったのだろうが…、規制を厳しくすれば、自由はなくなるし、やりすぎれば雰囲気も悪くなる。結局、ちょっと頼りないくらいがちょうどよかったのだ。
「まぁそんなわけで…、正式に俺は自警団と決別しようと思う。今回、キミを呼び出したのは、その報告と言うか…、宣言するためだ」
「宣言、ですか? いったい何を…」
「まずはコレを…」
ギルドのシステムメニューを操作して、ラナハを対象に"敵対ギルド"の認定をおこなう。
ギルド間の関係には3つの区分があり、デフォルトと同盟、そして敵対だ。敵対になったからと言って直接ペナルティーなどが発生することはない。しかし、それよりも重要なのが、ギルドのシステム画面にハッキリ敵対ギルドとしてギルド名やエンブレムが表示される精神的な意味合いだ。これによって、お互いが"敵"として強く意識してしまう。
「なるほど、歩み寄る気はないという事ですね。その…、いえ、何でもありません」
思いつめた表情のラナハ。複雑な心中は察するに余りあるが…、本題はココからだ。悪いが俺は、これで終わるほどヌルいPCではない。
「さて、それじゃあそろそろ始めるか。ラナハ!」
「な、なんですか、貴方には、もう私に用はないはずです!」
「なにを勘違いしている? お前たち自警団が、俺にしたことの始末が、まだ終わってないだろう!? それとも、このまま敵対関係になっただけで許してもらえると思ったか?」
「ぐっ! それは…」
「さぁ、剣をぬけ! 悪いがココで、キルさせてもらう」
「な!? 分かっているのですか? そんなことをすれば完全に貴方が悪者になるんですよ!? 今ならまだ、貴方に正当性があるというのに…」
もちろん理解した上での行動だ。自警団が俺を敵視していたのは、個人的な恨みで悪い噂を吹聴してまわった
まぁ、あの新団長が自ら頭を下げに来ることはないと思うが…、可能性としては残っている。
しかし、俺が報復したとなれば話も変わってくる。いくら非があったとしても、それで団員がPKされたのを見過ごせば、自警団として沽券にかかわる。
「望むところさ。悪いが俺も狭量でな。まわりくどい嫌がらせをするつもりはないが…、ムカついたから殺す、それだけだ!」
「わかりました。こうなったら、せめて一矢報いてみせます!」
バックステップで距離をとりつつも、即座に戦闘状態に移行するラナハ。俺の"本当の目的"を見抜いているかまでは判断できないが…、この流れですぐに気持ちを切り替えられるのは、ある意味凄いと思う。そう言うところは、武人というか…、扱いやすくて助かる。
それはともかく、ラナハの戦闘スタイルは軽量盾と片手剣で柔軟に戦うアクティブガーダー。若干装備を変更してはいるが、出会ったころから基本戦術は変わっていないようだ。
こうして、"自警団団員の"ラナハとの勝負が始まった。
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