#102(15日目・夜・セイン)

「いやはや、世間は狭いね~」

「まぁそう言うことだから、これからはソッチの方でもよろしく頼む。一応…、夜は船長を狩る予定だから、レアが出たら買い取ってもらうかもしれない」

「マジかよ!? なるほど、"同盟"がスカウトするわけだ…」


 夜。俺は、とある商人に挨拶するためにアーバンに来ていた。商人とは…、クチで商売をする商人の草餅。彼は勇者同盟の協力者であり、情報屋なわけだ。


 ディスファンクションに貰ったリストの中から、使えそうな人材を何人か抜粋して…、メールではなく、直接会って挨拶する。こういうのは後回しにしないで、前もって済ませておくのが大切だ。


「そんな大層なものじゃないさ。たまたま相性がよかっただけ。それより、さっそく仕事を頼まれてくれないか?」

「それはまぁ、内容次第だが…」

「なに、ちょっとした情報操作だ。内容は…。…。」

「いや、オマエ、正気か!? 一歩間違えば、指名手配されるよりも厄介なことになるぞ?」

「望むところさ。こっちだってガチ勢の端くれ。格の違いをみせてやる」


 俺の依頼は…、俺がチートを使ってボスや目障りなPCを排除しているという"噂"を流すこと。


 あくまで噂であり、証拠はない。ほとんどのプレイヤーは信じないだろう。しかし俺は実際にチートを使う"フリ"をして自警団を退けている。これは俺を敵視している連中へのエサなわけだ。


 俺を邪魔したチンピラ…、もとい、自警団の下っ端団員は、結局、俺にやられたことを隠蔽した。一応まだ、アカウントロックが解除されていないはずなので、ロックが解除されてから事実を報告するつもりなのかもしれない。しかし、メールだけならログインしていなくても送れるので、わざわざ報告を遅らせる意味はないだろう。そのあたりは情報屋を通して確認済みなので間違いない。


 自警団が俺を過剰に敵視しているのは、団長の命令ではなく、個人的に俺を恨んでいるプレイヤーが"勝手に言いふらしただけ"であり、団長の意図するところではない。それなのに「勝手に喧嘩を売ってアカウントロックをくらいまし」たとは報告しにくい。


 それなら、事を大きくして引っ込みがつかなくしてやるまでだ。アイツラがどんな言い訳をするかは分からないが…、俺は、ヤツラが進路妨害をしてアカウントロックを受けた時のログを持っている。はじめから無実の証拠を持っているわけだ。


「やっぱり、ガチ勢のやることはぶっ飛んでるな…。まぁいいや、コッチとしてもレアドロップを優先的に流してもらえるなら悪い話ではない」


 草餅への報酬は、近隣エリアで手に入ったレアアイテムの"優先買い取り権"。普通ならあまり旨味も信ぴょう性もない取り決めだが、相手がボスハンターなら話もかわってくる。


 草餅は勇者同盟との繋がりがあり、ボスドロップの強力な装備をさばく当てがある。加えて、ボスドロップのレアが市場に流れれば、誰が流したのか特定は容易。約束を無視して適当な相手にレアを売却しても、すぐに看破できるわけだ。


 コチラとしては不要な高額アイテムを即時売却できる。特にボス産ドロップを取り扱って目立つリスクを回避できる。欠点は手数料と、ジョブ経験値がその分目減りするくらいだ。


 俺はこの契約を、各地の情報屋との間でも結んでいる。これで売却するのに手間のかかるレアの処分と、情報操作が同時に出来るようになった。かわりに、アイにはジョブ経験値を重視して回転の速いアイテムを捨て値で販売してもらうつもりだ。


「それじゃあ船長に挨拶してくるから、レアが出ることを祈っていてくれ」

「ははは、あんまり頻繁に出されても、コッチの財布がもたないが…、まぁがんばらせてもらうよ。あぁ、それと…


 俺たちは勇者同盟に協力しているが…、それはあくまで利害があってのことで、自警団のように信念や正義感はない。何をするにも条件次第であり、報酬しだいなのだ。


 …自警団がゴブリン村を占拠していると不満が上がっている。このまま連中が身勝手なプレイングをつづけるなら…、また、なにか起こるかもな」


 サービスのつもりだろうか? そういって草餅は去っていった。


 特定のエリアを集団で占拠する行為は、違反行為に該当しない。しかし、マナーや譲り合いは常に意識する必要がある。ましてやソレが正義をかかげる自警団なら、なおさらだ。いくら悪用されやすい対人装備が絡む案件とは言え…、心よく思わない者は多いだろう。


 この情報が何を意味するのかは、まだ判断がつかないが…、備えはしておいた方がよさそうだ。




「どうでしたか、兄さん」

「おわったかにゃ~」


 あらわれたのはウチのコミュ障コンビ。コイツラは戦闘面以外は何の役にも立たないが…、下手に気を回して墓穴を掘ることもないので、逆に信頼できたりする。


「まぁ、ボチボチかな? そっちは何か良いものは見つかったか?」


 2人は俺が情報屋と話を付けているあいだ、各地の露店やNPCの限定商品を見回っていた。


「回復効率のいい[焼き魚]を買いだめしてきたにゃ~」

「露店で[マジックシューター]が捨て値で売られていたので購入しておきました。そろそろ魔法関係の経験値を溜めておくのもいいかと」


 魚はどうでもいいとして…、[マジックシューター]は渡りに船だ。


 [マジックシューター]はマジックアイテムなので、使用すれば対応した魔法のジョブ経験値が入る。威力はショボいので実戦では使えないが…、PTに魔法使いがいないので、初級魔法だけでも使えるようになっておくと何かの役に立つかもしれない。


 それに、俺たちはMPを消費しないパッシブスキルをメインに戦うので、普段からMPはあまりがち。もちろん魔法関係のステータスも初期値のままなので攻撃魔法は覚えるだけ無駄だが…、補助系魔法などの魔法攻撃力に依存しない魔法を使うなら問題はない。




 その後は、沈没船エリアでボスを狩ったり、パイレーツ相手にジョブ経験値稼ぎをして過ごした。

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