#101(15日目・番外編・アイカ)
あぁ~、兄さんとぶつかった拍子に、もつれ合ってお互いの股間に顔をうずめたい。というか、兄さんがトイレに行くタイミングを見計らって、鍵を開けた状態でトイレ内で待機したい。
「 …さん、向井さん、聞いているんですか!?」
「いえ、はい」
「え? いや、ですから、"コレ"は流石に、担任として…、貴女を見守る先達として! 受理できません!!」
コレとは、進路希望調査のことだ。個人的におかしなことを書いたつもりはないのだが…、"家事手伝い"と書いて提出したら放課後、進路指導室に呼び出された。
本人は担任として…、などと言っているが、顔には"心配"ではなく"焦り"がにじみ出ている。本音は成績優良者を有名校に進学させたいのだろう。
「お構いなく、家庭の事情もありますし…、なにより将来の事を真剣に考えての結論ですので」
「向井さん、たしかに両親を失って大変なのは理解できます。ですが、だからこそ! 無理をしてでも大学へ行っておく価値はあると思うんです。それに貴女の学力なら…。…。」
また始まってしまった…。部活は、どうでもいいが、なんとか切り抜けないとログイン時間が減ってしまう。こんな事なら別の学園を選べばよかった…。
いや、まぁどこへ行っても同じだと思うけど。
私がこの、私立の女子学園を選んだ理由は3つある。
①、家から近い。通学に時間やお金を浪費しなくてもすむし、空いた時間で準備運動(陸上部)もできる。
②、女子校である。なぜだか私はモテるのだが…、女子校に通っていれば興味のない相手に告白される確率を半分にできる。一応、これでも変に気を持たせないように、あえてハッキリ断って、嫌われやすくしているつもりなのだが…、残念ながら私に告白してくる女生徒が途絶えることは無い。
③、学費の免除。普通なら学費は私立よりも公立の方が安いのだが…、私立は様々な制度があり、成績優良者は学費が免除されたり、校則がゆるいなどの利点がある。私はあえて余裕のある学園を選ぶことで、成績上位をキープしやすくして"成績優良者学費免除"の枠を勝ち取っている。だから、目立つのは嫌だけど…、成績を落とすわけにはいかないのだ。
『わわわっ! アイ、入っていたのか!? すすす、すまない』
『兄さん、お急ぎでしたら、かわりましょうか?』
『いや、そんな、わるいし、俺は待っているから』
『おかまいなく。その…、兄さんさえよければ…』
「 …さん! 聞いてるんですか!?」
「お手伝いしま…」
「はい?」
「いえ、なんでもありません。とにかく、成績優良者を進学させないのは問題があり、上から何か言われるであろうことは理解できますが…」
「うっ…」
「それとこれとは別の話です。私は進学するつもりはありません。それで授業料免除を取り消すと言うのなら、どうぞご自由に。その時は退学願を持参してお伺いいたします」
「なっ! 向井さん!?」
そう言って、私は進路指導室を後にする。
正直なところ、退学なら、それはそれで願ったりだ。そもそも高校に進学したのだって、兄さんに壁ドンされたからであって…、私としては高等教育は害悪だとしか思っていない。専門校は例外としても、生涯賃金や経済効果を考えれば、進学はしないで就職した方が効率がよく。そこであえて時間とお金をつぎ込んで、学歴と言う名の見栄をはるのは無駄以外の何物でもない。
*
「あの、お姉様!」
まったく、日本は少子化対策や恋愛の自由をもっと真剣に考えるべきだ! 学歴にかぎらず国際的な世間体ばかりを気にして、本来の日本の文化を蔑ろにしている!!
日本は本来、もっと早婚で、近親婚にも寛容だったはずだ!!
「なんか、聞こえてないみたいだね~」
「ぐぬぬっ、お姉様! 愛花お姉様!!」
とはいえ、海外に移住したらもっと規制は厳しくなる。これでも国際的に見たら、寛容な部類なのだ。
どの道、兄さんはまだ施設から出られない。なんとか車イスで動き回れるまでに回復したが…、医療施設と併設しているあの寮以外での生活は、まだ難しい。だから、まだしばらくは別々の生活、"通い妻"として! 兄さんを支えていくことしかできない。
まぁ、そのおかげで…、兄さんには見せられないようなものを部屋に置けるので、悪い事ばかりではないのだが。
「完全に無視されてますね。ツム、諦めない?」
「いえ、まだです! 今回は秘策がありますから!! …あ、セインさんだ!」
「え! 兄さん!?」
「「「あ…」」」
「 ………。」
やられた。
どうにも私は兄さんを引き合いに出されると弱い。少し前にも羽島翼に、いいように誘導されて…、迂闊にもログイン時間などを喋ってしまった。こんなことでは"兄さんのことさえ絡めておけば何でも喋るチョロい女"だと思われてしまう!
よし! 無視して帰ろう!!
「いや、ちょっと待ってください!」
「 …邪魔」
「ひっ!」
あ、つい、本気で睨みつけてしまった。
別に無駄に愛嬌を振りまくつもりはないが…、あまりにも鬱陶しい相手には加減ができなくなる。そのせいで、何度も下級生を泣かせてしまった。
頬を赤らめて、硬直する下級生。
しかし、ここで変に手心を加えてはダメだ。女は男よりも図々しい部分がある。ひとたび甘いところを見せれば、無尽蔵につけあがってくる。ここは彼女のためにも態度をハッキリさせるべきなのだ。
私は硬直する彼女の頬を、そっと指でなぞり…、耳元で…、
「私の邪魔をするなら、容赦はしません。徹底的にイタぶって、無様に赦しをこわせてさしあげます」
と、囁く。
「あっ…、だめ、もう…」
彼女はそのままへたり込み、床に水たまりをつくる。
しまった、完全にやり過ぎた。
なんとなく、彼女は少しくらい脅されても逆に喜ぶ手合いに見えたのだが…、少しやりすぎたようだ。
「ぐっ…、その…」
「あー、おかまいなくっス! ツムはちょっとアレなんで!!」
「お時間をとらせてすみませんでした、先輩。ここは私たちがフォローしておきますから!!」
「え? あぁ、その、お願い」
さすがに罪悪感を感じて謝ろうとしたが、付き添いの2人に全力で追い払われてしまった。
この手のタイプは本当に理解できない。怒られて喜んだり、その気がない事をハッキリ言ってもお構いなし。あげくの果てには「もっと罵ってください!」と懇願してきたりもする。けっきょく、深く考えても無駄なのだろう…。
よし! 長々と引きずっても仕方ない!!
帰りに「いもうとラブる!カラー版」の新刊を買って帰ろう!!、と心に誓いつつ、私は今日も退屈な学園をあとにする。
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