#100(15日目・午後・セイン3)

「 …。わるかったね。こんな中途半端な時間を指定してしまって」

「いえ、こちらも王都に用事があったので、都合がよかったです」

「そうかそうか、お互い忙しい身という事で…、さっそく本題に入らせてもらっていいかな?」


 平日の中途半端な時間に酒場で密会。俺の目の前に座っているのは、愛人やアイドルといった洒落たものではなく…、ただの元勇者だ。


 白の賢者ディスファンクション。機能障害と言う名の魔法使いは、L&Cのトッププレイヤーの一人であり、魔法使い限定なら彼がトップと言っても過言ではない。


 あ、そう言えばアイドルならほとんど毎日、密会していた。アイツ、アイドル感ないんだよな…。


「そうしてもらえると助かります」

「まず確認しておきたいのだが…、自警団の秘密兵器が、自警団と仲違いしたというのは事実として受け取っていいのかな?」

「そうですね。こちらとしてはお金で動く便利屋のポジションでよかったのですが…、どうにも新団長は、傀儡以外は信用できない人のようです。加えて、どこから出てきたのか、俺のセクハラ疑惑。連中は完全に俺を悪者にしたいようですね」

「ふっ、やはりあの清十郎と言う男、しょせんは正義かぶれの潔癖症。その正体は器の小さい狭量者だな」


 いや、意味がダブってるから。


「はじめはセクハラ問題を擁護する口実に自分を組織に引き込む魂胆かと思いましたが…、どうにもコチラを完全に排除しようと動いてきます。それが新団長の本意とするところなのかまでは知りませんが…」

「なるほどなるほど、それで確認なのだが…、キミは、報酬さえ見合うものなら、どんな依頼でも受けると言うのは本当なのかな?」

「すこし違いますね。誰の依頼でも受けますが、内容は選り好みします。こっちのメンバーは自分勝手なヤツしかいませんから」

「ふっ、にゃんころ仮面も相変わらずのようだね」


 ニャン子が、組織のシガラミを嫌う自由人なのは有名な話で、結局、6時代の争奪合戦は勝者無しのまま終わった。ぽっと出の新団長は理解していないようだが、古参の上位PCには"誘うだけ無駄"が共通認識だ。


「それで、その口ぶりだと、公にしにくい依頼があるってところですか?」

「まぁそんなところ。キミもすでに知っていると思うが…、我々"勇者同盟"はC√PCの活動を容認している」


 新団長が聞いたら、これだけでキレそうな話だが…、実際のところ、悪がいなければ勇者は活躍できない。ゲームの進行速度を速めるには、両ルートが一丸となってイベントを進める必要がある。


 つまり、6時代の勇者で結成された勇者同盟は…、善悪ではなく、純粋にゲームとして攻略を目指しているのだ。


「でしょうね。会談の時は、"作戦の邪魔"をして申しわけありませんでした」

「ははは、何のことだか分からないが…、総合的に見れば、結果は概ね予想通りだった。コチラは特に恨んだりしていないので安心してくれ」


 旧団長との会談のタイミングを見透かしたように起きた、転送サービス封鎖事件。この口ぶりなら、裏で糸を引いていたのは勇者同盟で間違いなさそうだ。


 つまり、勇者同盟は自警団がこのまま勢力を伸ばすのを"良し"としない。そうなれば、依頼の内容も大体察しがつく。


「それならよかった。コチラとしても貴方たちと事を構えるつもりはありません」

「そうかそうか、いやぁ~、物分かりの良い人で助かったよ。それで、依頼の件なんだが…、実のところ、まだ擦り合わせが終わっていないので、今回は確認と、連絡先の交換だけ。一応、依頼の内容は"各組織のパワーバランスの調整"に一役かってもらうお仕事になるのかな?」


 どうやら勇者同盟は自警団とは真逆で、必要悪や必要善を容認する方針のようだ。この調子なら他の魔王とも、すでに協定を結んでいるかもしれない。


「そうですか。確かに自警団の変貌ぶりは予想を遥かに超えていました。まぁその1番の要因は…、わかりやすい敵としてセクハラ犯じぶんがいたことなんでしょうけど…」

「だろうね。あぁこれは、前金というか、ちょっとしたサービスなんだけど…、セクハラ疑惑を言いふらしたPCは、どうやらアカウントロックをくらっていたようだ。さすがにアカウント凍結まではされていないはずだから…、場合によっては、また何かしてくるかもね」


 なにもかもお見通しといった口ぶり。実際、自警団にかぎらず、さまざまな組織や主要エリアに協力者を潜ませているのだろう。勇者は、魔王と違って横のつながりが確りしている。それこそ、自警団では相手にならないほどにだ。


 しかし、今の言葉だけで事情はなんとなく把握できた。自警団の下っ端が妙に俺を敵視していたのは…、俺を貶めようとしたヤツがいたからで…、新団長の意図するところではなかったのだろう。


 まぁ、新団長が気に入らないのは、まったくの別問題なので、いまさら仲良くしたいとは思わない。勇者同盟が一体どんな手を使ってくるかは分からないが…、こうなれば自警団は泥船も同然だ。


「ご忠告感謝します。コチラとしてはすでに√落ちしているので、ある程度自由に動けます。と言うか…、すでに自警団には喧嘩を売ってきたので、近いうちに自分は王都で活動できなくなります。実質、C√PCだと思ってください」

「おぉ、これはなかなか面白そうだ。そうそう、仲良しこよしはL&Cじゃないよね!?」


 悪ガキのようにケラケラと笑う白の賢者。彼の本来の性格やリアルの顔には、まったく興味が湧かないが…、どうやら普段の人格は作りもののようだ。


「今のは、聞かなかった事にしておきます」

「そうしてくれ。あとで協力してくれる人材のリストを送っておくから参考にしてくれ。まぁスパイってほどじゃないけど…、諜報員? そんな感じ」


 だから意味が同じだって。




 それはともかく、こうして俺に勇者同盟との接点がうまれた。

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