#099(15日目・午後・セイン2)

「やはりいたか。今日は来れないかもって連絡しておいただろ?」

「おかまいなく~」

「その、もしもという事もありますし…」


 自警団との一件のあと、ギルドに戻ると…、我が物顔でくつろぐゲストがいた。2人には前もって戻れない可能性があることは伝えてあったのだが、この2人には関係なかったようだ。


「あぁ、どうせ見てないだろうから言っておくけど…、動画で、それとなくお兄ちゃんのことフォローしておいたから。感謝しなさいよね」

「ん? あぁそうか。すまないな」

「やっぱり見ていなかったのね。まぁいいけどさ…。ほら、この前のアレよ。お兄ちゃんが大勢に取り囲まれて、大勢をよってたかられてイジメたやつ」

「はじめて聞く言い回しだな…。まぁいいが、ああ言った手合いはヘタに擁護すると誰かまわず噛み付いてくるぞ?」


 実際その通りなので言い訳のしようもないが…、どうやらユンユンチームとの戦いが動画化されたようだ。我ながら大人げない事をしたと思うが、アレを見れば俺がナンパに執心するチャラいPCだとは思わないだろう。


「わかってるって。私だってアイドル生活長いんだから。その辺はお兄ちゃんよりも熟知してるつもり」

「それならいいが…」


 ユンユンも職業ガラ苦労しているようだ。アイドル業界のドロドロの裏事情がVR内にもあるのかは知らないが…。


「その、アイドルの仕事って大変なんですか?」

「なに、スバル君、興味あるの?」


 ニヤニヤと悪い笑みを浮かべるユンユン。間違いなくロクでもない事を考えている顔だ。


「いやいやいや、そんな滅相もない! それにボクは…」

「アイドルにも色々いるからね~。あんがいウケるかもよ?」

「いや、でも…(チラチラ)」

「(無視)」

「(しょぼん)」

「ははは、まぁスバル君のアイドルデビューの話は一旦保留にするとして…、実際、アイドルとかモデルの仕事は結構ドロドロだよ~。とくにヤバいのは、ヘタに売れて25歳まで業界でチヤホヤされた人かな~。さんざん甘やかされて好き勝手やってきたのが、25過ぎたら仕事が激減! ストレスで他の娘に嫌がらせしたり、SNSで爆弾発言したり。それで最後は行き場がなくなって、水やAぶ…。…。」


 水を得た魚のように喋るユンユン。どうやら、触れてはいけないものに触れてしまったようだ。


「えっと、スバル、試合するか?」

「は、はい! お願いします!!」

「えぇ~、これからいいトコなのに~」

「「 ………。」」

「ぶぅ~」


 けっきょく、何も言い返せないまま、フワフワした感じで試合がはじまる。


「えっと…、お願いします!」

「あいかわらず律儀だな…、まぁいいけど」


 ルールも審判もいないL&Cの対人戦では、礼儀正しいのはデメリットでしかない。しかし、不利でも持ち味をいかして、そのスタイルを極めるのも1つの答えだ。実際、魔王の中にも対戦前に必ず挨拶を交わすヤツもいる。結局、強ければ何でもいいのだ。


 無言で[カタナ]を正眼に構えるスバル。全く進歩していないようにも思えるが…、その思い込みは"罠"だ。対人戦では、同じ装備を複数所持して、状況に応じてさり気なく装備を変える戦術も存在する。見た目に変化はないがエンチャントだけが違い、最後の最後でダメージ計算を狂わせる。そんな高度な読み合いがランカー同士の戦いでは頻繁に発生する。それでなくても、このレベル帯ならスキルやステータスが短期間で大きく変化する。油断していると"無い"と思っていたスキルに足元をすくわれる。


 とは言え、考えすぎても仕方ない。実際に鍔迫り合いをはじめれば、予測に割ける脳内リソースは限られる。ターン制ゲームじゃあるまいし、都合よく時間が止まってくれることはない。そう言う意味では、自分のやり方を突き通すスバルのスタイルも"正解"と言えるだろう。


「へ~、お兄ちゃん、そんなものまで持っていたんだ~。粋だね~」


 俺がとりだしたのは[十手]。時代劇ではお馴染みの装備であり…、L&Cの世界で[十手]は日本をテーマにしたエリアのレアドロップとして存在している。まぁ特性が珍しいだけで、強くはないのだが…、HPを1割削れば勝利のこの試合では関係ない。


 特性は短剣カテゴリーでありながら、攻撃が打撃属性のみとなっており、耐久値も刃がないおかげで鈍器並みに高い。それに、Dランクの武器の中では非常に珍しく武器破壊スキルにも対応している。その分、攻撃力は低いので防御用の短剣として<二刀流>と併用して用いられることが多い。


「さすがセインです。そんなものまで手に入れているなんて。ですが…、ルールもあるので武器破壊はできませんよね?」

「予習はしっかり出来ているようだな。その通りだが…、それだけがコイツの利点だと思うなよ」

「なんだか面白そうだね~。それじゃ…、はじめ!!」

「 …たっー!!」

「あまい!」


 開始に合わせて鋭い突きを放つスバル。いつものスバルは、もっと相手の出方を伺いながら丁寧に攻めるスタイルだったが…、今日はアグレッシブに攻め立てて、自分のリズムを押し付ける作戦のようだ。


 スバルの猛攻を受け流しながら[十手]を手に馴染ませていく。べつに打撃属性の武器が欲しいなら普通に鈍器や杖を使えばいいのだが、[十手]は使い慣れた短剣の形状であり、武器破壊などの搦め手も使える。素人が使っても専門の装備の劣化版でしかないが…、特性を理解して使いこなせば、Dランクの性能をこえたポテンシャルを発揮してくれる。


 受け流ししやすい[十手]を意識して、突きを軸に攻めてくるスバル。今日のスバルはハングリーに勝ちを狙ってくる。しかし…。


「もらった!!」

「なっ!?」


 突きを[十手]で受け流し、タイミングよく手首をひねる。すると武器が噛み合って"ロック状態"になる。本来ならこの状態で武器破壊属性のあるスキルを使うとロックした武器の耐久に大ダメージを与えられるのだが…、まだそんなスキルは持っていないし、そもそも設定で耐久値減少をOFFにしているので破壊は不可能。


 しかし、ロック状態による行動の阻害は、単純な物理現象としてスキル無しで発動する。


 突然動かなくなる[カタナ]に動揺する瞬間の隙を、すかさず<足技>で追い打ちをかける。


 <足技>は拳闘士系の初歩スキルではあるが、剣などの武器を装備していても発動する。ダメージ量は武器での攻撃に比べれば遥かに弱いし、姿勢を崩しやすいデメリットもあるが…、こういった局面で意表をつくには最適のスキルだ。


「そこまで! 勝者、セイン!!」

「ぐっ…、ありがとうございました」

「予習の知識を過信したな。それじゃあ、このあと用事があるから、お先に失礼する」




 こうして今日は、ガチャ運のおかげで無事に勝利した。

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