#104(15日目・夜・セイン2)

「ハーハー、わかって、いましたが、まさか、ここまでとは…」

「L&Cはアクション要素が強いから忘れがちだが、ベースは紛れもなくRPGだ。レベルや装備の差が大きくでる」


 ラナハとの戦いが始まって、さほど時をおかずにラナハの体力が底をつく。それはキャラのHPだけでなく、操作するプレイヤーの精神面の耐久値も含めてだ。


 不思議なもので、VRで激しい運動をしても、リアルほどではないにしろ…、ちゃんと息が上がって、動きも鈍くなる。この現象は普段運動をしていない人ほど顕著であり、疲労は肉体だけで感じるものでは無いのがよくわかる。


「ハー、ハー。追い打ちはしないのですか? 今なら私を倒せたでしょうに」

「勘違いするな。キルするチャンスなら、いくらでもあった。まさか…、実力で全てのクリティカルを回避したと思っていたのか?」

「くっ! 殺しなさい! いくら弱くても、私にだって意地があります。キルでも、装備でも、好きなだけ持っていきなさい!!」


 悪いが、それは出来ないんだよね。こんな弱い者イジメみたいなマネは趣味じゃないけど…、コッチにだって事情がある。


「悲観することはない。盾の使い方もよくなっているし…、なにより努力は感じるぞ? あとはそうだな…、硬さはあるが、柔らかさがないな」

「なんですか、この期に及んでお節介ですか!?」

「なに、あまりに余裕だったんでな、すこしクチが軽くなっただけだ」


 少しずつ空気が読めてきたのか、ラナハの瞳から、ギラギラとした怒りが薄れていく。


「まさか…、このまえの特訓の成果を見てもらう話を、この場で果たそうというのですか?」

「あの時は俺も立て込んでいたからな。丁度いい機会だから、キルするついでに見てやろうと思ったわけだ」

「くっ、最低ですね、貴方と言う人は!」


 姿勢を起こして再び俺に剣をむけるラナハ。クチではあぁ言っているが…、口元は少しゆるんでいる。


 ラナハがアイと同じ性格なら、一度断られた話を素直に受けることはない。しかし、根っこの部分ではかまってほしくて仕方ないので…、無理やり約束を守ろうとすると、そのうち機嫌もよくなる。


 まぁ今回のコレは、それとは別の目的があってのことなのだが。


「俺は正義感や善意で行動しているわけじゃない。敵は敵。自警団が俺の敵にまわると言うなら…、自警団の一員であるオマエに手心を加えるつもりはない」

「望むところです! 私だって、情けで生かされるくらいなら、死んだほうがマシです!!」


 一転して攻勢に出るラナハ。それでも実力の差はどうにもならないが…、俺は、もてあそぶようにラナハの攻撃をいなし続ける。


「ほら、また動きが単調で、硬くなっている! 攻撃を盾にあてれば! たしかにガードしたことになる! しかしだ! 物理演算のあるL&Cで重要なのは! どう受けるかだ! まともに攻撃を受けていては、先に盾の耐久値がなくなってしまう。 こんなふうに…、な!!」

「なっ!?」


 激しいエフェクトとともに、ラナハの盾が砕け散る。いくら動きを重視した小型の盾とはいえ、本来ならば耐久値の低い短剣に打ち負けることはない。しかし、カタログスペックだけでは決まらないのがL&Cだ。日本刀などの耐久値の低い装備でも、腕しだいで大剣や大盾と打ち合えてしまう。


 ちょっと才能があるだけでは…、ちょっと必死に特訓しただけでは…、到底うめられない奥深い世界が、そこには広がっている。


「おわりだ!」


 困惑しているラナハの懐に飛び込み、首筋に短剣を這わせる。しかし、そこでトドメをささずに、再び距離をとる。


「な!? まさかこの期に及んで手心を加えるつもりですか? ふざけないでください!!」


 大分怒りはおさまっているように見えるが、それでもプライドは残っていたようだ。性格的に半端が許せず、キッチリ、キルで終わらせる最後がお望みのようだ。そういう部分は、武人と言うか…、スバルとも似ている気がする。


「べつに、いまさらキルすることに躊躇などしないが…、このままキルすると俺が指名手配されてしまう」


 仕掛けたのは俺なので、ラナハが俺を殺しても殺人判定だけで犯罪者判定はつかない。しかし、仕掛けた側の俺は別だ。やっていることは通り魔とかわらない。


「べつに、貴方の言い分に正当性があることは理解しています。たしかに…、今の自警団の活動に…、問題はある。ですから…」


 ラナハも、今の自警団に疑問を持ち、悩んでいるようだ。ほとんどの団員が、自分たちのおこないは"正義"だと思いこみ、転送サービスの封鎖やダンジョンの占拠をおこなっている。


 あげく、俺を敵視しているのは、誤解であり、真犯人は別にいる。ラナハは立場的に、ミーファが俺の悪い噂をバラ撒いている現場を何度か目撃したはずだ。だから、疑問や罪悪感を感じ、迷っている。キルでの決着を望むのも、罪滅ぼしと言った気持ちがあるから…、なのかもしれない。


「別に、オマエ個人を恨むつもりはない。死にたいなら、そっちから決闘請求を出せ」

「ふん! これでいいのでしょ!!」


 真犯人を知っているはずのラナハが犯人を告発しない理由は、まだ分からない。証拠がないだけなのか、あるいは告発したけど相手にされなかっただけか…。そのあたりの事情を調べておくのもいいかもしれない。


 それはともかく、ラナハから決闘が申請されたことにより、俺は堂々と彼女をキルできるようになった。我ながら回りくどい策だと思うが…、すべては"ラナハから決闘を申し込ませる"ための演技。


 これでエサは充分そろったはずだ。あとはじっくりエモノが針にかかるのを待つだけ。上手くいく保証はないが…、その時はその時だ。L√に未練はないし、どうどうとC√PCを名乗ろう。




 こうして、意外に武人気質なラナハの一面を知りつつも…、彼女の首を切り飛ばし、その場を後にした。

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