#094(14日目・午後・セイン3)

「やはり、人は少ないようですね」

「くんくん、やっぱり潮臭くないにゃ。あちし、どうもあの臭いが苦手だから助かるにゃ~」

「猫の癖に磯の香りが苦手とは、じつにエセっぽいですね」

「ほっとくにゃ。アチシは家猫にゃ~」


 家猫の冒険者ってなんだ?


 やってきたのは海底神殿ダンジョン。しかし、見た目はただの岩場にできた入り江かなにかであり、人工物感はない。それもそのはず、海底神殿は4つのエリアに分かれる大型ダンジョンだ。


①、洞窟エリア。天然の洞窟内に、カニや貝などの比較的弱い魔物が多く配置されている。初心者向けだが…、そもそも初心者なら街の近くのフィールドで充分であり、結局、海産系のクエストアイテムを集める場所になっている。


②、神殿エリア。陸地にある遺跡部分で、両生類系の魔物と室内に出現する魔物の複合構成エリア。さまざまな魔物が出現するので飽きにくいが、やはり長く篭もることを考えると最適な装備が絞りにくいのはマイナス評価になる。ちなみに入り口は2つあり、①と②、どちらからでも入れる。


③、沈没船エリア。洞窟の奥に複数の海賊船が座礁および沈没しており、内部や周辺には海賊型ゾンビの"ゾンビパイレーツ"が出現する。


④、海底神殿エリア。神殿の隠し通路(あくまで設定)を進むと大きな水たまりがあり、その中へ進むと更に神殿が続いている。このダンジョンのメインとなるエリアだが、エリア全体が水没しているので現状では攻略不可能。都合よく水中呼吸が可能になるアイテムや魔法もないので、転生して水棲系種族になるか、Bランク以上しか存在しない激レアの水中呼吸装備を揃えるしかない。


「おぉ、沈没船だ。久しぶりに来たが、なかなか幻想的な光景だよな?」

「ぐしし、兄ちゃんも男の子にゃ~」

「よし、ニャン子は家猫らしく、お留守番な」

「にゃにゃ!?」

「そうですね。猫には土にかえってもらいましょう!」

「ぎにゃにゃ!!?」


 沈没船エリアは洞窟状の入り江を利用して作られた海賊の秘密基地になっている。周囲は岸壁に囲まれているが、天井はぽっかりあいており、差し込む光が水面に反射して岸壁に美しい波紋を描いている。それに加えて朽ちて沈没した帆船の数々はロマンと哀愁を感じずにはいられない。


 とはいえ…。


「おいでなすった。さっそく海賊が歓迎しにきてくれたぞ」

「探す手間が省けますね」

「海賊さん、お宝ちょうだいにゃ~」


 どちらが賊なのか分からなくなるが…、俺たちは放置されて溜まりに溜まったゾンビパイレーツを次々と処理していく。


 パイレーツはゾンビワーカーの差分のような存在だが、コチラの方が若干動きが早いかわりに体力が低い。ドロップは稀に[朽ちかけた短剣]や[朽ちかけた片手剣]をドロップする。これらは修理すると、ランダムでDランクの短剣や片手剣に変化する。しょせんはDランクだが、なかには存在自体が珍しいものもあるのでバカにできないアイテムだ。




「よっと、周辺のザコはこれで最後か?」

「はい、あとは勝手に補充されるので、倒してもキリがないでしょう」

「人が少なくて狭いマップは美味しいにゃ~」


 この手のエリアは一ヶ所を掃除すると、別のところでモンスターハウスが発生する。そこを掃除すれば、また新たなところでモンスターハウスが発生する連鎖がおこる。


 まぁ同じエリアに居合わせたPCは突然の湧きに戸惑い、場合によっては死ぬこともあるだろうが…、それはそういう場所なので諦めてもらうしかない。一応、すべてのゾンビが即湧きするわけではないので、しばらく凌げば湧きは穏やかになる。




「結構、朽ちた装備が溜まってきましたね。これだけあれば、何か面白い装備が出るやもしれません」

「あぁ、もういい時間だな。湧きも悪くなったし…、そろそろシメに入るか?」

「にしし、お宝の匂いがするにゃ~」


 時刻はもうすぐ夕方。ログアウトは安全な場所でおこないたいので、そろそろ街に戻ったほうがいいだろう。


 しかしその前に、ここに来た目的を果たす必要がある。それがこの…。


「やはりココにいましたね」

「船長さんのお出ましにゃ~」


 1番大きな船の最奥の部屋、船長室に固定湧きしているのが…、ボスの"パイレーツキャプテン"だ。固定湧きなので滅多に事故は起きないが、それでも厄介な能力を持っているので、油断すれば圧殺される強敵だ。


「それじゃあ作戦通り行くぞ!」

「はい!」

「うぃ~」


 視界内に入ったことにより、キャプテンが<眷属召喚>を発動させてパイレーツを5体召喚する。


 それに合わせて、俺が<アイテム投げ>でキャプテンにカスダメを入れる。これによってさらに<眷属召喚>が発動して、パイレーツは合計10体。普通なら逃げ出す量だが…、


 躊躇なく突っ込む!!


「やっぱ多すぎにゃ!?」

「兄さん、行ってください!!」

「おう!!」


 パイレーツのタゲを2人にまかせて、いっきにキングに肉薄する。


 キャプテンの厄介な特性は、眷属を大量に召喚するところにある。PCが視界内に入ると5体召喚して、攻撃を受けると更に5体召喚する。30秒後にはクールタイムが終わり更に5体召喚を繰り返す。一応20体以上は召喚できないらしいが、狭い室内でそこまで召喚を許せば身動きが取れなくなる。しかも一定距離離れた眷属の再召喚スキルも持っているので隙が無い。


 攻略法は最初に10体召喚させたら、その10体を殲滅しつつ、アタッカーが本体のキャプテンにダメージを通す。キャプテン自体の戦闘能力は"そこそこ強い"程度なので…、30秒間持ちこたえる腕があれば、あとはヒットアンドアウェイで倒せてしまう。


「もうすぐ30秒です!」

「おう!!」


 再召喚のタイミングに合わせて、一度後方に下がり、ついでに回復もする。あとはコレの繰り返しで簡単?に倒せてしまう。




 10回ほど同じ作業をくり返したところで、相変わらずの安っぽい音とともに、パイレーツキャプテンが光になって消滅した。


「やったにゃ~。船長さん倒せたにゃ~」

「ふうっ、ギリギリだったな」

「さすがは兄さんです」

「相性の良さに救われたな」


 キャプテンの隠れた難点は出現する部屋が狭い事だ。そのくせ取り巻きを大量に召喚するので殲滅力がないと押しつぶされる。しかし、場所は室内。それなりに広い部屋ではあるが、それでも大規模なPTを展開するのは不可能で、火力自慢の大型武器も思うように振り回せない。


 俺なら取り巻きをすり抜けて本体に肉薄できるが…、普通は敵味方入り混じっての乱戦となり、散々グダって勝つか負けるかしてしまう、面倒な部類のボスだ。




 こうして俺たちは、ボスのパイレーツキャプテンを撃破して、その場を後にした。

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