#092(14日目・午後・セイン)
「さて、とりあえず目標額に到達したので…、予定を変更して3人で狩りに行こうと思う」
「その前に兄さん、"馬車"は衛生の問題もあるのでペット厳禁にするのはどうでしょう?」
「うにゃにゃ!?」
午後、露店の売れ行きが好調だったこともあり、兼ねてから狙っていた商人の上位スキル<馬車操作>を手に入れた。
馬車は、露店と同様に商人の花形スキルであり…、中盤以降、馬車を持っていない商人は臨時PTに参加できなくなるほどの人気スキルだ。
最初は、ロバにリアカーをくくり付けたような貧相な見た目から始まるが、商人レベルとカスタマイズにより、馬車の積載量や乗車人数を拡張できる。利点は3つあり…、
①、簡易倉庫としてアイテムを預けられる。仕様はカートと似ているが、最終的な積載量は遥かにコチラが上となり、一晩くらいなら補給に戻ることなく狩りをつづけられる。
②、移動速度の向上。乗車モード限定にはなるが、最終的には複数人乗車した状態で4倍の速度で移動可能になる。
③、一部のアクティブがノンアクティブになる。これはゲーム的に必要な措置なのだろうが、魔物のタゲを大量に集めたり、他のPCの狩りの邪魔にならないように特定の魔物以外は馬車を無視してくれる。ただし、1度タゲを持った状態で乗車した場合はアクティブ判定が継続される。
便利な馬車だが、相応のデメリットも存在する。
④、カスタマイズに資金が溶けるので装備の更新がおろそかになる。スキルを解放する段階で行き成り1M、不要な項目もあるのでフルカスタマイズまで投資する者は少ないが、それでもフル装備に必要な資金はトータルで20M。もはや趣味ややり込み要素の領域だ。
⑤、馬車や馬にも耐久値が設定されており、商人NPCを襲うのと同様に、襲撃されて積み荷を奪われるリスクが発生する。また、馬車や馬の耐久値が無くなると再購入する必要が出てくる。
⑥、乗り入れ不可エリアの存在。馬車は舗装されているか平坦なエリアでしか移動できない。ダンジョンなどの室内もその対象なので、基本的に馬車を直接狩場に持っていくことは出来ない。と言うか、ダンジョン内に持ち込んだら間違いなく破壊される。なので狩場から1番近いNPCに預けての運用となる。この場合、馬車は別空間に収納されるので、馬車から離れても積み荷が襲われる心配はない。
「しかし、渡りに船とはこのことだな。これで自警団が張り込んでいる転送NPCを使わずに移動できる」
「そのかわり、どうしても目立ってしまいますね」
「まぁ、それは我慢するしかない」
俺の知る限り、上位スキルである馬車を解放したのはウチのPTがはじめてだ。人前で使えば間違いなく注目を集めるだろう。
「目立ちたくないなら、ギルドの支店を買う手もあったにゃ~」
「それは魅力的だが、やはり馬車の利点を考えるとなぁ…」
ギルドを複数設置すれば、ギルド内から設置した街へ直接、転送可能になる。自警団がマークしているのは王都近隣のエリアだと思われるので、支配エリア外に転送できるようになればコチラの移動を悟られる心配はない。
昨日の式典以降、自警団は大きく変わってしまった。組織として体裁が整ったと言うべきか…、行動方針が「無理のない範囲で協力し合いましょう」から「組織に属する以上規律には従ってもらいます、従えないなら脱退してください」とハッキリ言うようになった。
活動は、エリアを分担して極力、警備に穴が出来ないように調整するようになったし、対人戦闘の訓練も行っていることから、比べ物にならないほど実行力は増しただろう。
これにより自警団の活動を支持する者は爆発的に増えたが…、その一方で「やりすぎでは?」と今後の活動を危惧する声も上がっている。とは言え、自警団ギルドが稼働し始めてからまだ1日しかたっておらず、ほとんどのプレイヤーが様子見を決め込んでいる状況だ。
「それで、今日はどこに行きますか? まだ保留にしている装備はいくつかありますが…」
「そうだな、"旧都"にも行っておきたいが…、やはり昨日できなかった"アーバン"周辺を探索しよう」
アーバンは中立都市クルシュナの近くにある港町で、さまざまな国と交流がある。ゆえに[カタナ]をはじめとした日本刀シリーズなども販売しており…、定期的に地域限定アイテムが代理販売される面白い街だ。
街の外には、海沿いということもあり、水棲系の魔物が出現するエリアが多く、ダンジョンも存在する。水に関係するアイテムを集めるなら真っ先に候補にあがるエリアだ。
目的地が決まり、出かけようとすると…。
「ん? 書き込みがあったみたいだな…」
ギルド掲示板に書き込みがあった。自警団とは関係が悪化しているので、なにか頼まれるとは思えないが…、それじゃあ誰がウチのギルドに依頼を出せるんだ? という疑問が浮かぶ。
「うげ!? デスファンクションにゃ! アチシはパスにゃ!!」
「ディスな。まぁ似たようなもんだけど…」
依頼をしてきたのは6時代の勇者"白の賢者ディスファンクション"。コイツはガチ勢ではあるものの、比較的、公の場にも顔を出す。自警団ともつながりがあったのでコチラの連絡方法を知っていても不思議はない。
内容はシンプルに…、「話したいことがあるので会いたい」とだけ書かれており、あとは連絡方法が記されていた。
「どうしますか兄さん? 無視する手もありますけど」
「内容くらい書いておいてほしいものだが…、深読みするなら、"受ける気のない相手には話せない"タイプの依頼ってとこか?」
とりあえず緊急性は無さそうなので、一旦保留にしてアーバンに向かう事にした。
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