#089(13日目・夜・セイン)

「そこのお前たち、止まれ! 仮面系アイテムを装備している者は通さない!」

「え、なんだよいきなり!」

「 …! …!?」


 夜、3人で狩りに出かけると…、商人のキャンプ地で数名のPCが言い争っているのを見かけた。


「なんだあれ?」

「自警団のようですね…」

「ん~、嫌な予感しかしないにゃ~」


「仮面を装備しているPCは犯罪者の可能性がある。今すぐ装備を外さないと、攻撃して破壊するぞ」

「チッ! 天界の使徒か。融通の利かなさは磨きがかかる一方だな」

「使徒風情が、かえってミカエルたちに伝えろ! 審判の時は刻一刻と迫っている。いつまでも自分たちだけの力で…」

「なにをわけの分からない事を言っている! さっさと仮面を外せ! さもなくば…。…。」


 道を遮っているのは、服装からして自警団で間違いないだろう。止められているのは、仮面を装備したPCが5人。クチぶりからして何かのロールプレイのようだ。


「もういい! やはりコイツラ犯罪者だ、攻撃しろ!!」

「ちょ、なにをする!」

「おい、つか、話きけよ!!」


 5人が装備した仮面は、自警団の攻撃を受けてあっさり消滅した。


「うわ~、せっかくの[ファントムマスク]が~」

「うそだろ、せっかく皆で頑張ったのに…」

「おいお前ら! いったい何の権限があってこんなことやってるんだ!!」

「うるさい!! それよりも[手配書]の反応は?」

「反応なしです。少なくとも指名手配はされていません」

「チッ、通っていいぞ。これにコリたら仮面を装備するのはやめるんだな!」

「なっ! 勝手に攻撃しておいて、なんて言い草だ!! …。」


 大いにモメる面々。すぐに仮面を外さないPCも悪いが…、それにしたって自警団のおこないは一般プレイヤーの権限を逸脱している。


 仮面系装備は、犯罪行為を行う時の保険に多用されるが…、"仮面を装備している"イコール"犯罪者"ではない。そもそも、スタートまもない現時点で指名手配されたらリセット安定だ。


 実際のところ、すぐに壊れてしまう仮面で指名手配を誤魔化しつづけるのは不可能。もし狩りの最中に他のPCに犯罪履歴を確認されたら、それで完全に詰んでしまう。もちろんダメもとで挑戦する素人がいないとは言い切れないが…、"ノーデス"クリアとかならまだしも"ノーダメ"クリアは流石に不可能。ただのオシャレかロールプレイの一環だろう。


「さすがにアレはやりすぎだな。本人たちは治安維持のつもりなんだろうが…、それにしたってやりすぎだ」

「どうするにゃ? 助けるにゃ??」

「いや、安心と信頼の"通報"だ」

「さすがは兄ちゃんにゃ~」

「褒め言葉として受け取っておくよ」


 実際、ああいった手合いは関わるだけ損だ。絡まれているPCには悪いが…、こっそり自警団の連中のログを運営に送っておく。


 L&Cは街中でもPK可能であり、自警団がほかのPCを攻撃したからといって、違反行為には該当しない。このログを送っても、それで彼らが制裁を受けることはないだろう。


 しかし、特定の場所やPCに粘着する場合は処罰の対象になる。連中はしばらく転送NPCがあるキャンプ地周辺に陣取るだろう。それなら完全にアウトだ。攻撃した本人だけでなく…、集まっていた自警団、全員が処罰されるだろう。


 L&Cを運営している"OVG"は…、新要素を追加する意欲はゼロだが、バグや迷惑行為に関しては親の仇とばかりに撲滅を誓っている。明日の営業がはじまったら、真っ先に彼らのログが丸裸にされるだろう。


 ちなみにOVGはホワイト企業なので…、夜中や祭日は、普通に運営スタッフはお休みする。何かにつけてイベントで課金を促してくるアイテム課金制ゲームとは…、良くも悪くも一線を画している。


「それで、どうしますか兄さん」

「ん?」

「このまま転送サービスを利用すると、彼らに行動を把握される恐れがあります」


 自警団と関係が悪化しているのはアイも当然知っている。自警団が主要な転送サービスをおさえているなら、移動した先もすぐに特定されて…、コチラの行動が自警団や新団長に知られてしまう。まぁ、気にしすぎな気もするが、あの団長は"正義のためなら何をしても許される"と本気で思っているタイプだ。ここは極力関わらないほうがいいだろう。


「そうだな、今日は目的を変更しよう。先に"斧"をとりに行く」

「ちぇ~、またアイにゃん用の装備か~」

「別に、猫はついてこなくてもいいのですよ? 邪魔! なので」

「うぅ~、アイにゃんは今日も辛辣にゃ~」


 そうは言いつつも、なんだかんだ言ってついてくるニャン子。セリフとは裏腹に表情は晴れやかで、アイとのやり取りも楽しんでいるように見える。


 まだ出会って2週間もたっていないのに、すでに腐れ縁の幼馴染みのような打ち解けようだ。アイがニャン子のことを深いところでどう思っているかは分からないが…、兄として、これからも今の関係が続いてほしいと思っていたりする。





 やってきたのは"アルバの森3"。通称ゴブリン村だ。


 一応、アルバ産ゴブリンが出現するエリアはココで終わり。森1と2の違いは出現数の違いだけだが…、森3はゴブリンの巣があり、ボスの"ゴブリンロード"も出現する。


 つまり、狙いはゴブリンロードの持つ斧なのだが…。


「今は"危険な魔物はいない"みたいだ。だが、気をぬくなよ! 普通のゴブリンだって数が集まれば充分危険だ!!」


 NPCの兵士のセリフから読み取るに、ボスはいないようだ。普通のゴブリンが危険かどうかの議論は置いておいて…、どうやら他にもボス狩りにのりだしたPCがいたようだ。


「しかたない。時間も時間だ。今日はココで普通に狩りをするか」

「はい、兄さんと一緒なら」

「しかたないにゃ~」


 すでにゴブリンからドロップするEランク装備の価格は暴落している。もはやレアの魔結晶に賭けるしかないのだが…、乱戦の特訓だと思ってココで我慢する。ココなら湧きはいいので、数をさばけば経験値もそれなりだ。


 そんなことを考えていると…。


「あの! セインさんですよね?」




 見知った女性PCに声をかけられた。

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