#087(13日目・午後・セイン2)

「よし完成だ。大事に使ってくれよ!」


 あいかわらずの安っぽい効果音とともに、俺のインベントリーに新たな装備が自動転送される。


「おめでとにゃ~、ついでにアチシの分もよろしく~」

「いや、つくらねぇから。[ブラッティファング]で我慢しろ」

「ちぇ~」


 新たに追加された装備は[モールエッジ]。名前こそ頼りないが、モールキングと同様に、無機物特攻が付与されたCランクの短剣だ。最終的な性能は[ソードブレイカー]や[メールブレイカー]に劣るものの…、無機物全般が対象なので、短剣が苦手とする相手に広くダメージを通せる最高の保険装備だったりする。


 メイン素材はもちろん[モールキングの大爪]。ちなみに小爪は4つで[モールクロー]が作れるが…、手持ちの小爪は2つであり、最低でもあと1体モールキングを狩る必要がある。


 1体倒せたなら、もう1体も倒してクローも作っておきたいところだが…、それはしない。理由は3つある。


①、モールキングを早期に倒したことにより、炭鉱に注目が集まっている。下手に攻略法が知れると、無謀な挑戦者のせいで狩場が荒れるし、なによりザコを隔離しておく手が使えなくなる。あれが出来るかどうかで事故率が大きく変わる。


②、俺が無機物特攻装備を持っていることを知られたくない。1回でドロップしなかった場合は出るまで周回するつもりだったが…、出てしまった以上は金属装備を貫通する装備の有無は、対人で大きな意味を成す。間違っても人に見せびらかしていい装備ではない。


③、ニャン子には無機物特攻はとりあえず必要ない。せっかくのPTだ。役割分担でカバーできる部分はカバーする。無機物は俺やアイが対処して、ニャン子は本来の仕事である足を使った撹乱や手数での状態異常のバラマキに専念してもらう。


 ナックル系の装備において、無機物特攻は短剣のそれよりも貴重な能力であり、最終的には確保しておきたい装備だが…、とりあえず今は他を優先する。もし他にモールキングを狩る者があらわれた場合、大量に手に入る上に、用途も限られる小爪は、真っ先に売り払われるドロップの筆頭だからだ。


「さて、それじゃあ時間も勿体ない。さっそく次に行くぞ!」

「うぃ~」


 こういう時、本当にL&Cの仕様は好ましく思う。装備の入手難易度が低いので、実力さえあれば狩場をすぐに更新できる。もちろん経験値目的の狩りだとそうもいかないが…、とりあえず装備の入手だけなら、わざわざ合わない狩場に籠もる必要はない。


 こうやって無茶をしてでも上位装備を手に入れれば、例えデスペナを貰っても、普段のレベリングでラクできる。ほんとうは武器も入ったし、ここらで本格的にレベルを上げておきたいが…、それはアイがいる時にしたほうが無駄がないだろう。





「よし、それじゃあ"ハーピー"は任せた」

「うぃ~、"ストーンスライム"は任せたにゃ~」


 やってきたのは"アルバの山道1"から道をそれたところにある"アルドバ山の岩場1"。山道は普通にすすむと山頂を経由せずにお隣の国の国境に行ってしまう。そんなわけで、山の標高の高いエリアで狩りをするには岩場へ進むのが正解だ。


「えっと、アレかな? …えい!」

「あたりみたいだにゃ~」


 やっているのはストーンスライム狩り。コイツは名前こそスライムだが、他のスライムとは見た目も生態も別モノ。イメージ的にはカタツムリや貝類に近い。


 見た目は、岩場に転がる岩と殆ど見分けがつかず、無機物なので<嗅覚追尾>も反応しない。ポイントは大きさや形がある程度決まっている点くらいだ。ノンアクティブなので襲ってくることはないが…、気づかずに踏むとアクティブ化して襲ってくる。


 つまりそれっぽい岩を踏まなければいい話なのだが…、エリア自体が起伏が激しいのと、肝心のハーピーが地形を利用して上から来るので、どうしても足元の注意がおろそかになる。


 擬態さえ見抜ければ、あとは硬いだけのザコなので、前もって掃除しておけば脅威はない。


「よし、なんとなく分かってきた。このへん一帯は掃除しておくから、そっちはハーピーを釣ってきてくれ」

「うぃ~。まかせたにゃ~」


 俺は面倒なだけのストーンスライム掃除に専念して、ニャン子が走り回ってハーピーを掃除した場所に引っ張ってくる。幸い、他のPCはいないので、タゲが流れる心配はない。




「よし、こんなところか…」


 まぁ、あとは残っていても御愛嬌だろう。気づかず踏んでも、所詮はスライムだ。


「そろそろいいにゃ~」

「あぁ、いいぞ~、って! なんで3体も釣ってんだよ!?」

「[煙玉]わすれたにゃ~」

「あとでアイに報告だな」

「ぎにゃ!?」


 ともあれ、まずは目の前のハーピーだ。性能面はコボルトに近く、稀に<咆哮>を撃ってくるが、こちらは滅多につかわないのでそこまで脅威ではない。厄介なのは跳躍から繰り出される上からのカギヅメ攻撃。風属性の魔物にしては無駄に攻撃力が高く…、位置的にも頭部に攻撃を受けやすいので、油断していると致命的なダメージをもらってしまう。


「よっ!」


 まぁ、モーションが大ぶりなので分かっていれば回避は余裕だ。


 着地のタイミングを狙い、[バンク]で足を切り落とす。


 この時、羽を攻撃しないのがポイントだ。ハーピーは鳥系の魔物だが、実際は陸上生活に適応したニワトリに近い特性を持っている。


「ぎゃー! 忘れてたにゃ!!」


 つまり…、羽を先に攻撃すると跳躍がなくなり、こんどはショートモーションで攻撃してくるようになる。




 こうして、ちょっとした?ハプニングもありつつ、夕方までハーピーを狩って狩って、狩りまくった。

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