#086(13日目・午後・セイン)

「ちょ! なんですかあの人! 強すぎでしょ!?」

「あはは~、勝てる気がしないわ~」

「くっ! たとえ勝機はなくとも…、心までは屈しません!!」


「うわ~、セイン、ようしゃな~ぃ」

「セインお兄ちゃん、加減って言葉、知ってる?」

「手加減ならしているだろ? 実際、ユンユンPTおまえたちは生きているんだから」


 戦闘開始早々、親衛隊PTは全滅。ユンユンPTも瀕死状態となり、早くも勝負はついたも同然の状態になった。


 結局のところ、プレイヤースキルとレベル、どちらも俺の方が圧倒的に上であり、いくら人数を並べたところで…、勝敗は始める前から決まっていた。


「なんていうか、ボク、いらなかったよね?」

「唯一、時間稼ぎできるのがスバルだったからな」

「あははぁ…」


 スバルの乾いた笑いが響き渡る。


 付け加えると、スバルが敵にまわっても大きな差は出なかっただろう。剣の腕は確かに目を見張るものがあるが、スバルはそれだけであり、実戦ならまだいくらでも付け入るスキがある。


 いくら剣術を磨こうとも…、リアルのお綺麗な剣術は、邪道戦術が横行しているゲーム内では通用しない部分が多い。特にリアルでは…、大勢で1人を取り囲んで死ぬまで攻撃し続けるなんて立ち回りは、絶対に教えてもらえない。


「L&Cにはフレンドリーファイヤーがあり、剣などの武器にもアタリ判定があるので長物も使いにくい。いくら相手が1人であっても…、同時にしかけられるのは2人から3人が限界。今回は初回ということもあり、ハンデと実力差を見せるために1人で試験をしたが、俺のPTは現在3名。3名とも、才能と努力、そしてリアルを犠牲にして頂点を目指している。もちろん少しくらいなら協力するのもヤブサカではないが…、さすがに永続的に拘束されるのは容認できない」

「「 ………。」」


 試合はまだ決していないが…、それは問題ではない。動画的には、どれほど無茶なお願いをしていたのか、再認識してもらうのが目的であり…、この映像を見れば、簡単に"ランカーに講座をやらせろ"とは言えないだろうし、"目指しているものの高さ"も理解できるだろう。


 とくにL&Cを知らない人は、普通のゲームと同じ感覚で"やり込めば誰でもソコソコ強くなれる"と思われがちだが、実際には運や才能だけでどうにかなる世界ではない。結果的には俺は憎まれ役になってしまうが…、軽々しくプレイや攻略速度に文句を言われないためにも、早い段階で実力差を見せておく必要があった。


 そして俺は…、


 アイドルやナンパにウツツをぬかす軽いプレイヤーではなく、ガチで頂点を目指す"硬派なプレイヤー"であると印象付けられる。さすがにここまでやれば、俺をナンパ目的でユンユンに近づいたセクハラ常習犯とは思わないだろう。


「それで、まだ勝負はついていないけど…、続き、やるか?」

「うっ、それは…」

「いや~、勝ち目ないっしょ~」

「降参すれば、デスペナルティーは回避できますよね?」

「あれ? これからがいいところなのに…、終わりですか??」

「「やりたいんかい!!」」


 俺としては目的を果たしたので、これ以上続ける意味はないが…、1人だけヤル気満々だったようだ。たしかにデスペナは痛いが、しょせんは半日程度のロスだ。それ以上に得るものがあるなら、やったほうがいい。


「よければ、ボクがユンユンさんのチームに…」

「それはダメ。よけいに収拾がつかなくなる」

「そうですよね…」


 驚くほどションボリするスバル。


 スバルの場合は1対1の方が本来の力を発揮できる。それに、動画的にスバルは出しゃばらない方がいいだろう。残った中では明らかに実力に差があり、実質、一騎打ちになってしまう。


 なにより…、スバルを倒す秘策は極力温存したい。


「セインお兄ちゃん!」

「ん?」

「一騎打ちを申し込みます! 私とサシで勝負してください!!」

「「えぇー!!」」

「えぇ~…」


 1人だけ微妙に声のトーンが違う。


 ユンユンが何を思ってタイマンを持ち掛けてきたかは判断しかねるが、表情は本気のようだ。


「いいだろう。本気でかかってこい」

「はい!!」


 JK3人が空気を読んで、応援の声をかけつつも下がっていく。


 戦う前から結果の決まった勝負なのだが…、皆を引っ張っていく者としてケジメをつけるようだ。


 ユンユンのレベルがいくつなのかは知らないが…、装備のランクは殆どがE。マンガじゃあるまいし、耐えて耐えて、最後に不意打ちで1撃を入れたとしても…、俺のHPは削り切れない。対して俺は無理にクリティカルを狙わなくともクリーンヒットで1撃で充分なダメージとなる。


 あえて俺が手を抜かない限り…、見せ場はないだろう。


 <二刀流>を解除して、[スティレット]1本でユンユンに向かい合う。


「VRアイドルの意地を見せてみろ」

「はい、お願いします!!」


 ユンユンの装備は攻撃型杖の[ステッキ]。攻撃力は弱いが、間合いを調整しやすいのが特徴で、ヒーラー志望のPCに愛用者が多い。


 ジリジリと距離をつめるユンユンに対して、俺は半身になって仕掛けるのを待つ。武器のリーチはユンユンが有利だが、杖のノックバックは相手の体に当てる必要がある。半身になるだけでも狙いにくくなるし、こちらも杖の軌道を読みやすくなる。


「「 ………。」」


 無言のまま、杖の間合いに入った。俺が動かない以上、ユンユンから仕掛けないと、今度は俺の間合いに入ってしまう。


「 …はっ!!」


 ユンユンの狙いは胴体ではなく、頭部。ノックバックではなく、頭部スタンに勝ちスジをみたようだが…、


「あまい!」

「ひっ!」


 杖の軌道を見きれないほど、俺はモウロクしていない。とくに頭部狙いは分かっていれば避けるのは容易い。


 姿勢を落として杖を回避し、そのまま距離をつめて…、空いた左手を顔面目掛けて大きく突き出す。


 突然視界に迫る手に驚いたユンユンは、反射的に目をそむけてしまう。


 あとはその隙に、もう一歩踏み出して、[スティレット]を心臓に突きさして終わり。


「終わりだ」

「ありがとう、ござ…」


 終わりの挨拶を、ゲームシステムが無慈悲にさえぎる。体力がつきたユンユンは、体の操作権を失い、バタリとその場に倒れ…、光になる。




 こうしてユンユンとの勝負は、歓声も上がらぬまま、静かに終わった。

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