#085(13日目・午後・セイン)
「なんだ、別に
「いえ、ボクは大勢で1人を取り囲むのはちょっと…」
「なんなら、仲間のフリをして背中からブスリとやってもいいんだぞ?」
「え!? いや、さすがにそれは…」
あまりにも汚すぎるが、ルール上は問題ない。動画の評判を考えなければ、むしろ積極的に使うべきだと思う。
撮影班の何人かも、"その手があったか!"といいたそうな顔をしている。ともあれ、俺が大っぴらにクチにしてしまった以上、チームを乗り換える手は今さらワザトらしすぎて使えないだろう。
「いや、むしろ今は、それくらいゲスいほうが、逆にウケるのか?」
「はい?」
「いや、なんでもない」
「はぁ…」
ぞろぞろと参加者が配置につく。何人かは急展開に理解が追いついていないようだが…、そんなことを気にかけるほど、俺はお人好しではない。
結局、俺のチームに入ったのはスバル1人。まぁ予想の範疇か? なんとなくそんな気はしていた。
対してユンユンチームは10人。ユンユンや例のJK3人に加えて、撮影班の男性PCが6人だ。
「ん? そういえば…」
「セインお兄ちゃん、どうかした?」
考えてみれば、おかしな話だ。一部とはいえ、なんでコイツラが"ココ"にいるんだ?
「いや、なんでこんなところで撮影しているんだ? 今日は自警団のギルド設立式があるだろ? そっちに参加しなくてもいいのか?」
ユンユンはもともと、自警団の後ろ盾を得て活動していた。そのおかげでウチのギルド設立にも介入できたし、王都襲撃事件の時もドサクサに紛れて美味しい役を勝ち取った。
あのお堅い新団長のことだ、ユンユンにも式に参加しろと要求したに違いない。
「あぁ…、それはねぇ、…。…。」
歯切れ悪く答えるユンユン。
「なるほど、ようは俺と同じでソリが合わなかったわけか」
理由を聞けば納得だ。あのお堅い新団長は、ギルドを設立するにあたってギルド員…、つまり自警団の幹部となりえる陣営を自分の派閥で固めた。
新団長は、あの通りお堅い性格で団長の席につくことを、よく思わない者も多い。たしかに正義感は強く、行動力もあるので、団長になれば多くの実績を上げてくれるだろう。しかし、本来の自警団は自発的に不審なPCを処罰するPKK集団ではない。悪い言い方をすれば、活動内容はとことんヌルかった。
だが、ヌルイからこそ…、気軽に参加できるし、皆で楽しく活動できた。なにより、旧団長の描いた自警団は、そういう組織なのだ。
「セインお兄ちゃんも追い出されたクチか…」
「いや、まぁ…、そんなところだ(逆だけど)」
「「はぁ~」」
そろって深いため息をつく。
ユンユンにその気はないが…、ユンユンには旧団長派から流れてきた、仲良し路線の派閥に支持されている。とうぜん、本人は自分の動画があるので自警団の幹部や団長になることはできないが…、
新団長が、自分の派閥を脅かす存在を自警団ギルドの設立メンバーに加えるはずがない。俺をしつこく勧誘したのも、戦力としてだけでなく…、ユンユンの派閥から引き抜く思惑もあったのだろう。
両チームが何の変哲もない草原フィールドで向かいあう。気分は荒野(草原)の果たし合いといった感じだろうか。
「それじゃあ改めて、ルールを説明する。まずは…。…
①、俺とユンユンのチームにわかれる。
チーム分けは、俺とスバル。そしてユンユンとその他9人だ。今回は人数が多いので…、ユンユンとJKの4人PTと、撮影班の4人PTにわかれる。
ちなみに残った1人は勝負を辞退して、撮影にまわった。
②、"決闘システム"を使い、犯罪判定を回避する。
今回はギルドホーム内ではないので、細かい設定はおこなえないが…、各PTリーダーに決闘を申し込み、これに同意するとキルしても犯罪行為にカウントされなくなる。
しかし、デスペナは通常通り発生する。装備を取り上げるつもりはないが経験値ロストは通常通り発生する。まぁそこは、挑戦費とでも思ってもらう。
③、あとは自由に殺し合う。
アイテムの使用は自由。武器も制限がないので逃げながら遠距離攻撃や攻撃アイテムでチクチクやるのもOK。しかし指定したエリアから出たPCは失格とする。
…そんな感じだ。"おたがい組織から煙たがられている者同士"、仲良く殺し合おう!」
思わせぶりなセリフを会話に絡めつつ試合ははじまる。
「そういえば…」
「どうかしましたか?」
「いや、何でもない。開始の合図は撮影の人にまかせる」
まぁ、自分が負ける可能性を考慮していなかったのは些細な問題だろう。
そんな調子で、ユンユンチームとの試合がはじまる。
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