#084(13日目・午後・セイン)
「あぁ、私のところはまだそう言うカキコミは無いかな? 一応、見るのはフリーだけど、カキコミはIDがいるから、そう言う人は利用しづらいと思う」
「それならいいが、念のために"コレ"をわたしておく」
「へぇ~、こんなのがあるんだ…」
午後、露店をアイたちにまかせて、俺はユンユンたちのところに来ていた。もう少ししたら動画の撮影がはじまるらしく、他のPCも続々集まってくる。
ここに来たのは、本来の予定とは違うが…、セクハラ疑惑でユンユンに迷惑をかけたくないので、時間を作って会いに来た。
間違いなく相手は陰湿な手を使ってくるだろう。別にユンユンのことはどうでもいいが、自分のことで他人に被害が飛び火するのは…、たまらなく気持ち悪い。
「とりあえずソレがあれば、もしバカな連中が大きな口を叩いても、言い返せるだろ?」
「ん~、どこまで信じてもらえるか、不安だけどね…。ほら、人って自分に都合のいい方の事実を信じるでしょ?」
ユンユンに渡したのは公式の診断書のコピー。内容は、記載された期間に記載された行動をとっていないか"運営がチェックした"ことを証明するもの。ユーザーが運営を信じる信じないの問題はあるものの…、これがあれば審査済みであると証明できる。
「別に俺は、無理に擁護してもらおうとは思わない。必要なら切ってくれ」
「それ、私も結構困るんだけど…」
ユンユンは間接的に俺を宣伝に使ってきた手前、簡単に俺を切れない。カシマシ冒険記?の企画が軌道に乗ってくれば話も変わってくるだろうが…、すくなくともそれまでは俺を擁護しないと、動画の売りを半分失い、共倒れになってしまう。
まぁ、ユンユンと縁が切れても、俺にデメリットはないのだが…。
「話は終わりましたか? その…、セインはこのあと…」
そうこうしていると、忠犬スバルが散歩に連れていってほしそうな顔でやってきた。
普段の俺なら相手にはしないのだが…、今日はすこし悩んでしまう。疑惑を晴らすためにも男性PCと行動をともにするところを見せておくのも1つの手だ。
「スバルは、今日は撮影班なのか?」
「あ、はい。そのつもりですけど…、人手もいるから、少しくらい抜けても…」
しかし、いくら男性PCと一緒でも、女性の多いユンユンの動画の撮影現場では意味はない。裏方は確かに男ばかりだが…、動画に映るのは女性ばかり。これでは女性に囲まれているように見えてしまう。
「いや、裏の裏は、表か…」
「はい? なんの話ですか??」
「セインお兄ちゃんが…、イタズラを思いついた悪ガキの顔してる…」
「失敬な! まぁ意地悪なのは否定しないけど」
「してよ!」
「さすがセイン!」
スバルとユンユンで、リアクションの違いに個性を感じる。
「まぁいい。ユンユン!」
「うぅ、なんでしょう…」
「撮影に集まった連中を集めろ。特別に動画に協力してやる!」
「あ、うん。なんだろう、嬉しい事のはずなのに…、嫌な予感しかしない」
ほどなくして、ぞろぞろと"参加者"が集まりだした。これから動画を撮影するはずだったのに、謎の招集に困惑する者もいれば、期待に胸をふくらませる者もおり、三者三様だ。
集まったPCは俺も含めて、12名。週末という事も会って撮影班の割合が多いが、例のJKも当然いる。
「こほん。 …それじゃあ説明する。録画をしたい奴はご自由に」
言葉を聞いて、数名が手元を操作する。もともと撮影のために集まった連中なので、とうぜん録画ソフトは持っているだろう。
「セインお兄ちゃん。それで、なにをするの?」
「なにって…、決まっているだろ? 前々から約束していた動画への協力の話だ」
「?」
「皆も聞いてほしい。中には知っている者もいるだろうが改めて自己紹介をしておく。俺は6時代ランカーをしていた…、今のPCネームはセインだ。とくに√イベントは進めていないが、これでもガチ勢として上を目指している…
騒めく面々。しかしそれを無視して話を進める。
…以前からユンユンさん?には動画の協力を頼まれていた。しかし! 俺はガチ勢として最速攻略を目指している。だからあまり時間はさけないし…、当然リアルの仕事もあるから難しいと断っていた」
「「????」」
スバルやユンユンが困惑していて笑えるが、そこは必死でこらえる。
「しかし俺も、L&Cを盛り上げていきたい1人のプレイヤーだ。協力できる部分は協力したいと思っている。まぁそんなわけで、ちょっとした試験をかねて、彼女の動画に面白い画をプレゼントしようと思う」
「えっと、それじゃあ戦い方のレクチャーでもしてくれるの?」
「何を言っているんだ? 俺はそこまで甘くないぞ」
「あぁ、うん、知ってた…」
「そんなわけで! いまから全員参加のバトルをします!!」
「「!!?」」
「ルールは簡単。俺とユンユンさん?の2チームに分かれて戦う。俺のチームに勝てたら…、俺のPTがガチで狩りをしているところの撮影を許可する」
「「おぉ~」」
「ダメなら、また俺の都合がつくまで試験はお預けだ」
「えっと、班分けはどうするの? その、セインお兄ちゃんに協力してくれる人は…、あまりいないと思うけど…」
「そんなの自由に決まっているだろう? つか、全員そっちでいいぞ。11人でかかってこい」
「「「えー!!?」」」
気持ちいいリアクションに気分が晴れる。やはり陰湿でまどろっこしいのは好みじゃない。これくらいストレートでないと。
こうして、動画への協力をかけて、全員参加の"デスゲーム"が…、ノリと勢いで決まった。
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