#083(13日目・午前・セイン)

「それで、どうしても参加する気はないのかね? ワタシがここまで頭を下げているというのに」

「おかしなことを言いますね。俺の記憶では、アナタが頭を下げているところを1度も見たことがない。もしかして回線の不調なのでしょうか?」

「どうやらキミは揚げ足をとるのが得意なようだ。それとも比喩を知らないのかね?」

「あぁ、あれが比喩だったんですね。俺はてっきり新手の脅し文句だと思っていました」

「言わせておけば、ぬけぬけと…」


 昼前、少し露店でも見てまわろうとログインしたのが運のつき。ギルドに立ち寄ったところを、自警団の新団長御一行に捕まってしまった。


 いつもの無視を決め込もうと思ったのだが…、さすがに相手も相当怒っていたのか、最初からこの剣幕で…、売り言葉に買い言葉で今に至る。


「とにかく、我々は自警団に直接、組するつもりはありません。あくまで依頼を受けて、可能なら有償で協力するだけです」

「それでは、カオスの連中にも手を貸すととれるが?」

「言葉通りです。√に拘らず、内容と報酬で決めます」

「ふざけるな! そんなことで秩序が保てるか!! L&Cは殺人も妨害行為も全てが認められているわけではない。可能なだけで罰則はある。つまり! 秩序や管理はユーザーの手にゆだねられているのだ!! …。…!!」


 熱く語りだす新団長。お供の2人はウンウンと頷いているが…、俺としては"この人、面倒くさい"以外の感想が思い浮かばない。


「時間の無駄ですね。自分の考え方を押し付けるだけの貴方とは、言葉を交わす意味はないでしょう。それでは失礼します」

「なにを!?」

「清十郎様、ここは我々が…」


 激おこの新団長にかわって、取り巻きの2人がわって入る。


 つか、様付けで呼ばせてるのか…。


「そちらが見返りを要求するなら、こちらもご期待にそえるモノをご用意しています」

「?」

「まだご存知ないかもしれませんが、現在セインさんには"セクハラ行為の疑い"がかかっています」

「はぁ?」

「やはりご存知なかったようですね。現在、各種掲示板に、セインさんと思しき人物がセクハラ行為を行っていると、カキコミが集まっています」

「もちろん、こちらとしてはセインさんがそのようなことをする方だとは思っていません。おおかた、負けた腹いせの嫌がらせでしょう」

「 ………。」

「ですが、放置していい問題ではありません。ただでさえ恨みを買いやすいお立場ですので、後ろ盾…、擁護してくれる組織があって損はないでしょう」

「はぁ…、つまり、傘下に入れば擁護してくれる。入らないなら擁護しないと?」

「そう受け取ってもらって結構です」


 こいつらアホか?


 2人は俺が興味を示していると勘違いしているのか、得意げな顔で話をつづける。まぁ無理もない。結局こいつらも新団長と同じ、自分の尺でしか物事をはかれない連中だ。


「相手を侮ってはいけません。相手の対策は万全です。決してゲーム内では活動せず、匿名で書き込みできる掲示板のみに出没し、言葉巧みに男性を味方につけていく。完全に常習犯の犯行です」

「そうですか」

「それに、放置しておけば貴方を批判する意思が独り歩きする。面白半分に貴方をバッシングする者があらわれ…、最後には貴方を排除する、一種のゲームのような状態になるでしょう」


 どこかのアニメで見たような展開だ。まぁ、実際にそうなる可能性はあるだろう。


 しかし、その提案は相手を見て言ってほしい。その手の展開は、まだ精神的に未熟な部分がある主人公に対してや、パワーインフレを起こして誰も手が付けられなくなったチート主人公を無理やり苦戦させるための手段であって…、C√で散々もまれてきた相手に使える手ではない。


「それなら答えは1つです。余計なお世話なのでお引き取りを。もう少しまともな見返りを期待した俺がバカだった。そんなクソザコの戯言にイチイチ踊らされているバカは、ランカーになる資格はない」


 ランキング上位争いはLでもCでも血で血を洗う弱肉強食の世界。悪い噂をたてられたくらいでビビる小者が立っていい舞台では…、決してない!


「ふっ、強がりを言っていられるのも今のうちだ。ゲームの腕でしか自分を誇示できない者には、どうにもできない世界がある。ちっぽけなプライドで大見得を切った事…、すぐに後悔するぞ!!」


 それだけ言ってさっていく3人。いろいろと言いたいことはあるが…、とりあえず器の小ささは言われる筋合いはない。


「ぷっ。しかしセクハラか…、なつかしいな、この感じ」


 気分は最悪だが、すこし昔を思い出して笑ってしまった。


 俺もC√を極めるにあたって、散々なことを言われてきた。セクハラ疑惑など…、初歩的すぎて忘れていたが…、まだそんなセコい手をつかうヤツがいたのは失笑ものだ。


 それに…、そのバカはL&Cを運営している"OVG"をよく知らないようだ。ランカーをやっていると嫌でも運営のサポートを利用する機会が増える。L&Cはなんでもありと思われがちだが…、そういったセクハラ行為や、粘着、リアルからの妨害行為は絶対NGをうたっている。


 いや、まてよ? これはうまく利用できるかも??


 運営を利用するかは別として…、すこし手を回したり、準備をしておくはのいいかもしれない。




 こうして対策を考えていたら少し気分がノッテきた。こういうところはつくづくC√プレイヤーだなと思いつつ…、自警団新団長との話し合い?は終わった。

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