#080(12日目・夜・ユンユン)

「それじゃあお兄ちゃんたち~。撮影、よ・ろ・し・く・ねっ」

「「イエス、マァム!」」


 なんで軍隊風?なんだろう…、と思いつつも、撮影班との挨拶をすませる。


 カシマシ冒険記の企画は基本的に4人の視点を使い分ける形で進行していくが、やはり俯瞰の画も欲しいので、毎回2名前後を撮影班としてファンクラブから参加者を募っている。


 今のところ、メンバーに欠員はないが…、L&Cに引っ越したことで、撮影に参加できる会員はかなり減ってしまった。今いるメンバーも毎回確実に集まる保証はないので、L&C既存プレイヤーの新規ファンを増やしていく必要がある。


 それに、今はまだ大きな問題は出ていないが…、撮影している人たちも一般プレイヤー扱いであり、入場制限のあるイベントエリアや、強力なアクティブモンスターがいるエリアは撮影できない。できるだけアクティブの少ないエリアを選んだり、隠蔽系スキルを持っているPCに頼んではいるが…、やはり他の撮影方法も考えておく必要があるだろう。


「それじゃあ、はじめるけど、誰か行きたいところとか、希望はある?」

「ん~、それなら、レベルが先行しているユンユンさ、じゃなかった、ユンユンの転職試験を進めるのがいいかと思います」


 意見を出してきたのは3人の中では参謀ポジションのミコト。マジメな性格で、暴走しがちな2人を止めてくれる、ありがたい存在なのだが…、動画的には暴走してもらった方が撮れ高につながるので、ちょっと複雑だったりする。


 ちなみに、私はログイン時間が長いため、どうしてもレベルが先行してしまう。まぁ相手は学生なので仕方ないのだが…、そのせいで保険として考えていたソロプレイの企画が潰れてしまった。流石にこれ以上レベル差がついてしまうと本編のPTプレイに支障が出てしまう。しかたないので、しばらくはセインのところで動画編集をしながら時間を潰すつもりだ。


「ん~、やっぱり試験は遠慮しておくわ。"僧侶"のジョブは自力で取得するわ」

「やはり、C√に行くんですね?」

「ごめんね、私の都合で…」

「いえ、アルミはもともとC√だし。小麦も乗り気だからイイんですけど…」


 選択肢が多いのも考えものだ。


 もともとは教会(ギルドの一種)で僧侶に転職して、そこから味方を強化するバフ特化キャラにしていく予定だったが…、今はC√のセイレーンを目指すにあたって、教会に頼らない攻略も視野に入ってきた。非戦闘職である僧侶は自力でレベルをあげるのに向いていない。私の場合はPTもあるのでまだマシだが、教会関係の救済イベントが使えなくなるのは痛手だ。


 しかし、L&Cの職業やスキル選択は自由度が高い。なので教会の力を借りつつもC√に転向する手もある。ただしそれだと、殺人は犯せなくなる。なにせ教会は殺人を固く禁じている。正当防衛や犯罪者相手のキルも含まれるので、ソロの時にPKに取り囲まれたら打つ手なしとなる。まぁ、禁じているのは人族のみなので他の人型種族は殺しても問題ないところは妙にリアルだ。


「今はレベル差のおかげでステータスの不利をカバーできているから、このままでいくわ。消耗品の代金も気にしないで」


 ギルドに頼らずヒーラーをする場合、回復アイテムなどを使用して対応したジョブ経験値を地道にためていく必要がある。


 余談だが、回復スキルが使えるのは僧侶の特権ではない。例えば商人と僧侶のジョブを伸ばすことで、商人系ヒーラーの"薬師"になれ、コチラは商人系統なので教会の制約は受けない。しかしソレだと僧侶系の全体バフスキルである<聖歌>が使えなくなるので私は選べない。


「あ! そうです、私、海に行って"ローパー"という魔物と戦いたいです! なにやら触手で相手を捕らえてジワジワと体力を奪うとか…」

「ははは、ムギは相変わらずだね~」


 頬を赤らめながら身もだえするのは小麦。クチには出せないが…、かなり気持ち悪い。そしてクネクネしている彼女を笑って受け入れているミコトやアルミも、正直どうかと思ってしまう。


 しかし、このやり取りがウケているのも事実だ。私のファンや動画を見てくれている人はほとんどが男性で…、そう言う人は、若い女の子が魔物に襲われているところや、女性同士が過剰なスキンシップをとるところが大好物なのだ。


 女の私には理解できないが…、私も男性同士の過剰なスキンシップを描いた作品には毎晩大変お世話になっているので、人のことを言えた義理はない。


 ちなみに…、最近のお気にいりは、やはりセイン×スバルだ!!


「ユンユン、どうかしましたか? 顔が赤いようですけど」

「わわわっ! 大丈夫! ちょっと考え事をしていただけだから」


 気が付けば小麦の顔が間近にあって驚いた。小麦は年上の女性に対して過剰な好意をいだいている。幸い私は対象外のようで一安心だが…、


 見れば、撮影班がコチラを見てニヤニヤしている。本当に不本意だが…、これも生活のためなので邪険にはできない。まぁ、ニヤニヤしているアイツラは、今晩私のオカズになることで償いとする。妄想の糧として、せいぜい頑張ってくれ。


「それで、どこへ行きます? 動画は週1ですけど、都合よく撮れ高が得られる保証はありません。ログイン時間も限られるので、早く移動しましょう」

「え、あぁそうね。とりあえず"倒せる保証はない"けど、海の方へ行ってみようか」

「さすがはユンユンです! みなさん、楽しみですね~」

「ははは、ムギは本当に面白いね~」


 正直に言って不本意だが…、死ぬことは問題ではない。むしろデスシーンは落ちに使いやすいので、定期的に死ぬ必要があるくらいだ。


 もちろんやりすぎると、「やる気あんのか!?」と怒られてしまうが…、焦って攻略しても美味しいところを無駄遣いしてしまうだけ。どうしても終盤は地味なレベル上げが多くなる。長く続けていくつもりなら、攻略や編集を遅らせてでも撮れ高のストックを確保する必要がある。


 本当は…、もっと本気で攻略したいんだけどな…。




 こうして今日も行き当たりばったりな冒険を繰り広げ…、最後はそろってデスルーラで帰宅した。

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