#079(12日目・午後・セイン2)
「すみません。セインさんですよね?」
夕方、キラービー狩りを終えてギルドホームに戻ってきたところを、見知らぬ女性PCに声をかけられた。見れば、連れと思しき男性PCが2人ほど、後ろに控えている。
「人違いです」
「そうですか、失礼しました」
手持ちがいっぱいになったので戻ってきたが…、まだログアウトするには早い。ギルドにドロップをあずけたら、露店でも見てまわるか。
効率がいいと思っていたキラービー狩りだが、実際の効率は若干予想を下回った。たしかにコツを掴めば安定して処理できるが、湧きが悪く効率にバラつきがでるのと、なによりアクセスが非常に悪いので移動時間のロスがバカにできない。
とくに今みたいに中途半端なタイミングで手持ちがいっぱいになると、余計にロスが発生する。かと言って湧きの問題もあるのでアイをつれていくほどでもない。
つまり…、キラービー狩りはこれにて終了だ。
「すみません、セインさんを知りませんか?」
「知りません」
「そうですか…」
装備のデザインを見る限り、自警団の団員だろう。
もしかしたら重要な要件かもしれないが…、あくまでやり取りは"掲示板を通して"と言うルールがある以上、アポなしで面会する義理は…、あるのだろうが、それでも面会する気はない。
いや、まぁ、面会の申し出を無視しつづけているので、そもそも会う手段が直接訪ねるしかないのだが…。
*
王都の大通りを埋め尽くす勢いで、所狭しと露店が立ち並ぶ。これでも夕方なので数としては少ないほうだ。そろそろ帰宅の時間なので、徐々にログイン数が増えていき、おのおのが狩りに出かける。露店が本格的に増えるのは0時をまわってからとなる。
掘り出し物を狙うなら…、やはり狩りを終えたPCがその日の収穫を露店に並べる深夜だろう。他にも狙い目だと、食事時も悪くない。食事の短い時間に効率よくアイテムをさばくために、回転のいいアイテムを並べたり、すこしお値打ちにして短期間で売り切ってしまおうとするPCは多い。
「とはいえ…、時間があいた時しか見てまわれないんだけどね」
「あれ? セインさんじゃないですか」
「人違いです」
声をかけてきたのはレイだった。自警団のゴタゴタで会っていなかったが、そう言えばコイツ、ログイン時間が無駄に長く、いつもインしているんだった。
「ふっ、ある意味、本人だと言っているようなものですね。あ、そう言えば…、"清十郎"さんには会えましたか? ギルドホームで待っていたはずですけど」
多分、ギルド前で声をかけてきた3人連れのうちの1人だろう。ここでへんにウソをついても問題になりかねない。ここは正直にこたえておこう。
「ん? あぁさっき会ったよ(チラ見しただけだけど)」
「よかった、またセインさんのことだから、他人のフリしてスルーしたんじゃないかと…」
「いくら俺でも、誰彼かまわずそうしているわけじゃない(したけど)」
「ははは、そうですよね。よかった、"新団長"は気難しいところがあるから、あまり冗談が通じないんですよね~」
「そうか」
どうやら、その清十郎とかいうPCが新しい自警団の団長のようだ。団長みずから挨拶に来るとは驚きだが…、まぁ呼び出しに応じない俺にシビレを切らして仕方なく出向いたと言ったところだろう。
しかし…、やはりレイの口の軽さは使える。レイとハサミは使いよう。自分のギルドには必要ないが…、これくらい口が軽いと面倒な策をろうさずにすむ。
「そう言えばミーファちゃんが泣いていましたよ? "セインさんに無視された~"って」
「そうか、あぁいうタイプは苦手なんだ。テンションについていけない」
「あぁ、そうかもですね。でも、"新しい伝令役"はあの子なんで、あまりイジメないでやってくださいね」
なるほど、あんなのを伝令役にすえるとは…、新しい団長は人を見る目がないな。あぁいった"外面はいいけど実は腹黒"なタイプは…、マスコット役にして適当にチヤホヤしておけばいいのだ。へたに権力を与えると…、裏で何をしでかすかわからない。
「こっちは掲示板でやり取りするスタイルのままだから問題はないさ」
「あいかわらずですね」
「あぁ、そういえば…、俺たち以外に実行部隊というか、対人の出来るPCは集まったのか? こっちとしても、できるだけ問題は自警団のメンバーで処理してほしいと思っているんだが…」
「一応あちこちに声をかけてるみたいですけど…、やはりランカークラスを相手にできるPCとなると難しいみたいですね。それでもミーファちゃんが頑張ってくれているので、人数は結構あつまっているんですよ? その中で1番の実力者だと…、やっぱり"
あぁ~、たしかそんな名前のランカーがいたような…。詳細はまったく思い出せないが、たぶん下位のランカーだ。一応、後で調べておこう。
しかし、外ズラがいいのは本当に得であり、恐ろしい。あの腹黒も、一般的には"人当たりのいい性格"に分類される。とくに相手が女と言うだけでがっつく男や、無駄に仲間意識を重視する女性にはウケるだろう。
「そう言えば、結局レイはギルドに入れたのか?」
「え、あぁ、それが…」
「そうか、俺としてはレイには今後も頑張ってほしかったんだが…、まぁアレだ、ギルドレベルが上がれば採用枠も広がるんだろ? 俺もそれとなく推薦しておくから、気を落とさずがんばってくれ(そして今後も俺に情報を漏らしてくれ)」
「あ、はい! ありがとうございます」
結局露店を見てまわる時間は無くなってしまったが…、すこしだけ得をした気分になれた。
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