#081(12日目・夜・セイン)
「アイ、わかっていると思うが、[蔓草の盾]の性能は低い。くれぐれも過信するなよ」
「はい、いざとなれば猫の盾を使います」
「ぎにゃ。いや、まぁ最後の最後はアチシが体をはるのもヤブサカではにゃいけど…」
夜、俺たちは炭坑内に来ていた。
結局昨日は、木材を必要数集められず終わった。仕方なく露店で木材を探すこととなったが…、その前に試しでユニークからドロップした[蔓草の盾]を最大強化したところ…、あっさり成功してしまったので、[蔓草の盾]で挑戦することとなった。
[蔓草の盾]は、下位の草系装備で、共通特徴として、同ランクの装備より性能が低いかわりに、デフォルトで再生能力が付与されている。つまり耐久値が時間経過で自動回復するのでメンテナンス不要の経済的な装備なのだが…、
やはり性能の低さが終始、足を引っ張る。基本的にはザコ敵用と割り切るか、エンチャントで足りない部分を補う必要がある。今回は耐久値を補ったので、すぐに壊れることはないだろうが…、代わりに根本的な防御力の低さが補えなかった。
「ん~、今更だが、肉壁があるなら防御力の方を補強するのもありだったな」
「そうですね。草装備も猫も使い捨てが相応しいかと」
「うん、そこの仲良し兄妹。アチシのことはあきらめるから、せめて猫は大事にしよう。猫好きは多いから、そのうち怒られるにゃ」
今から挑むのはアルバの炭鉱のボス、"モールキング"だ。初期ダンジョンのボスとは言え、推奨レベル70の強敵。もちろん、俺たち3人で倒せる保証のない相手だが…、ドロップは終盤まで使える便利な効果があるので、デスペナを払ってでも手に入れておきたい筆頭だ。
「さて、それじゃあモブの整理から始めるぞ」
「スルーされたにゃ!?」
ボスに挑む前にするべき基本。それはザコモブの誘導だ。
これを怠ると背後からオカワリが突然やってきてボスに集中できなくなる。やることは魔物を一ヶ所に溜める行為なので、作為的にモンスターハウスを作り出す迷惑行為に該当するが…、今回は人の少ないエリアなので特に気を使う必要はない。
そもそも、迷惑行為は迷惑なだけで"違反"ではない。やりすぎると反感を買うが、気負い過ぎてもはじまらない。
「よっと。 …まぁこんなもんか?」
「魔法使いがいたら美味しそうにゃ~」
「それなりに経費もかかっているけどな」
ちょっとしたクボ地にザコを誘導して、[煙玉]でタゲを切る。この作業をくり返すことで一ヶ所に大量のザコを集めた。まだエリアにはそこそこの数の魔物が徘徊しているが…、これ以上やってもキリがないので、このへんで切り上げておく。
「それじゃあ、行ってくるにゃ」
「まかせたぞ」
「アナタのことは忘れません」
「最後の見送りみたいに言わないで! あと、アイにゃんはアチシのことを真っ先に忘れそうな気がするにゃ」
「いちいちツッコんでないで、サッサといけ」
「ぐっ、わかったにゃ…」
なかなか行かないニャン子に発破をかける。あれで結構ビビっているのかもしれない。
モールキングは大型のモグラの魔物だ。ボスとは言っても初期のボスなので、それほど無茶なステータスではない。ステータスだけ比べればハウンドと大差ないくらいだ。しかし、ボスだけあって体力が多いのと…、なにより厄介な特性を持っている。
モールキングの最大の特徴は、その巨大な爪に付与された無機物特攻だ。これによって防御力の高さが売りの金属製防具が意味をなさなくなる。おまけに装備の耐久も一気に削られるので半端な装備では手も足も出ない。[蔓草の盾]や革製防具の戦士セットを用意したのは、この無機物特攻の対策だったりする。
そんなわけで、基本的には回避しながら戦うタイプのボスであり、今回タゲはニャン子が受け持つことになる。
「にゃー! …ぎにゃ~!!」
勇ましく突っ込んだニャン子が、悲鳴を上げながら帰ってくる。キングの攻撃は1発くらっただけでも致命傷。まともに打ち合える相手ではない。
「それじゃあ行くか」
「はい、おまかせを」
ニャン子の悲鳴が俺の横を通り過ぎる。そして、ほとんど間をおかずにドスドスと重い足音が間近に迫る。そのタイミングにあわせて…、
「はっ!!」
渾身の一撃を、弱点である鼻先めがけて叩き込む。
とうぜんタゲは俺に移るが…、
「そうはさせません!!」
アイがわって入ってキングの攻撃を盾でうける。
「お尻がガラ空きにゃ!!」
アイが攻撃を受けた後に、今度はニャン子が仕掛けて再びタゲを戻す。
「よし! ニャン子、もう1周走ってこい!」
「うぃー!!」
そしたらニャン子がもう一度走り回って、うけたダメージを回復する時間をかせぐ。あとはひたすら同じ工程を繰り返すだけ。作業としては実にシンプル。もちろんこの方法は狩場が空いていないと使えないが…、それでもハメ技で対処できてしまうあたり、所詮は低ランクのボスだ。
「よし、かなり削れてきたな」
「ぜ~、ぜ~。そろそろかにゃ?」
そして体力が半分を切ると…、
ゴゴゴゴゴゴ……
穴を掘って逃げる。
「「「 ………。」」」
「えっと、探すか」
「はい、そうですね」
「あいかわらず面倒な特性にゃ…」
この特性のせいでせっかく削ったボスが、他のPTに持っていかれることがある。それでレアアイテムが出ようものなら間違いなくトラブルになる。しかし、災い転じてなんとやら。あまりに不評だったため、初期のアップデートで特別ルールが追加された。
そこまで複雑なマップでないのもあるが…、やはりこういう時、嗅覚による追尾は便利だ。
「見つけたにゃ! 早く倒してにゃー!!」
ほどなくしてニャン子がボスを見つけてくる。
後半のキングは前半と特に変化はない。まぁ…、攻撃力が2倍くらいになっているので攻撃を受けると俺やニャン子は即死してしまうのだが…、まぁ些細な問題だ。
結局、遠距離攻撃や眷属召喚がないなら同じパターンで倒せてしまう。
ほどなくして、「ブビ~~」という気の抜けた断末魔とともにモールキングは消滅した。
「ぜ~、ぜ~、しばらく逃げ狩りは御免だにゃ…」
「獣人系の拳闘士を目指している癖に、走るのは苦手か?」
「いや、まぁ…、違うゲームをやってる気がして…」
「「?」」
よくわからないが、追われるのは苦手なようだ。
「それで、ドロップはどうにゃ?」
キングなどのエスケープ系のボスは、前半と後半でドロップ判定が2回発生するようになった。
ボスのドロップは、前半と後半で1番多く体力を削ったPTのPTリーダーの手持ちに自動転送される。そのせいで1回のドロップ率は半分になったが…、運がいいと2回レアアイテムがドロップすることもあり、安定してドロップを入手できるようになった。
「あぁ、ちゃんと入っている。 …えっと、レアはないけど、[モールキングの小爪]が2つに、[モールキングの大爪]が1つ。まぁこんなもんだろう」
「アンコモンの大爪が手に入ったのは大きいですね」
小爪はドロップ率が50%で、それが2回。対して大爪は5%が2回だ。優先目標の大爪を1発で入手できたのは嬉しい収穫だ。
「よし、撤収! さっさと帰って露店の準備だ!!」
「はい!」
「うぃ~」
記念すべきボスの初討伐なので、何かお祝いしてもバチは当たらないのだろうが…、あまり余韻に浸っている暇はない。明日はアイが露店に専念する日。急いで王都にもどり、工房でひたすら商品を制作しなくてはならない。
こうして、俺たちはボスのモールキングを、あっさり撃破した。
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