#075(11日目・夜・セイン)

「わるい、ちょっと遅くなった」

「兄ちゃんが最後に来るのは珍しいにゃ」

「兄さん…」

「ん?」

「まさか女性と会ったりなどは…」


 禍々しいオーラを放つアイ。アイは異性との交遊に対して非常にお堅い考え方を持っている。気持ちは分からんでもないが…、社会に出ると、学生とは順序が逆転して…、"好きになった相手と交際する"ではなく、"交際して好きになれるか判断する"にかわってしまう。


 まぁ俺のように自由に出歩けない人には関係のない話だが…、それでも俺にだって付き合いがあることくらいは理解してほしい。


「そういうのじゃないよ。職場の人たちとの話が長引いてな」

「そうですか、それならいいのですが…」

「兄ちゃんっていったい…」


 心底驚いた表情のニャン子。まぁ、どうせニートだと思われていたのだろう。世の中には色々な職業がある。俺のは間違いなく一般的な職業ではないが…、これでも給料をもらって、ちゃんとションボリするほど税金を納めている。


 いやホント、なんであんなに…。


「それよりだ! 装備は作っておいたから、予定通り"ビワスール"に行くぞ!」

「はい、お供します」

「うぃ~」


 ちなみに、わざわざ自分で鉄鉱石をとりに行ったのは、炭鉱の様子見もあるが…、メインは売り物の確保ついでに、アイ用の鉄製防具を自作するためだ。


 同等性能の防具は店売りでも手に入るし、ほかのPCが作ったものを露店で買う手もあるが…、それだと細かい調整が出来ない。基本的に防具は使用者にあわせて自動でサイズ調整されるが、自作だとそれとは別に微妙に形状を変更できる。


 その点はゴブリンドロップの革装備と仕様は同じだ。同じ名前、同じ性能なのに、ゴブリンドロップと店売りでは形状が異なる。その延長で、自作装備も少しアレンジを加えてオリジナリティーをだせる。


 新しい装備を確認した後、転送NPCをハシゴして"ビワスールの森1"へ移動する。





「おぉ、意外に人がいるにゃ。やっぱり皆、"枝"をとりに来たのかにゃ?」

「どうだろう、単純に観光を兼ねたレベル上げのような気もするけど…。それはさて置き、アイ。今日はお前がメインアタッカーだ。頼んだぞ!」

「はい、まかせてください。この…、兄さんの愛のこもった[バトルアックス]に誓って、活躍してみせます」


 [バトルアックス]はDランクの中ではトップクラスの攻撃力を誇る両手斧だ。攻撃属性は斬と打撃の複合で、振りは遅いが単体火力が優秀で、基本的に硬い相手や動きの遅い相手と戦うのに適している。また、攻撃スキルで一撃必殺を狙う型とも相性がよく、愛用しているPCは多い。


「さて、とりあえずココは人が多いから奥へ進むか」

「斧を手にウットリしている妹をスルー出来る兄ちゃんの精神がマジすげ~にゃ」

「「 …?」」

「!?」

「「 ………?」」

「いや! 無言で会話するにゃ! あと、へんなのはソッチにゃ! え、何の話?(セインのモノマネ) さぁ~(アイのモノマネ)みたいなアイコンタクトをかわされても、理解できないにゃ!」

「理解しているじゃないか」

「へんな猫ですね。三味線にしましょう」

「はぁ~、なんなのにゃ、この兄妹」


 なぜか疲れた表情のニャン子を無視して森を進んでいく。


 ビワスールの森は、木の魔物"トレント"が多く出現するエリアだ。基本的に移動速度は遅いが、HPと防御が高く、短剣などの軽い武器全般に耐性を持っている。ぶっちゃけココでは俺やニャン子は役立たずだ。




 森を進み、"森2"までくると、いっきに人口密度は減った。ここからは上位種の"エルダートレント"も少量出現するので、デスペナを恐れるPCは寄り付かない。


「さて、なれない武器だ。例のアイテムは今日中に手に入ればいいから、まずは肩慣らしから始めよう」


 俺も武器を持ち替えて、対植物仕様に変更する。用意したのは[毒針]と[鎌]。[鎌]は俺が対人でよく使っている[バンク]と同じDランクだが、性能は下位互換と言える位置づけとなっている。斬属性攻撃専用で、刺突属性のスキルが発動しないところまでは同じ。違いは急所ボーナスが植物特攻に置き換わっている点。ちなみに材料はマンティスの[鋭い鎌]だ。


 しばらくトレントを狩って、新しい装備を手に馴染ませる。




「ん~、植物特攻と言っても軽量攻撃耐性でトントンだな。やはりダメージディーラーはアイにまかせる」

「はい。それでは兄さんは邪魔な枝を落としてください。私は本体を。まさに、2人の共同作業ですね」

「ん? あぁ、そうだな」


 問題は他にもある。俺はクリティカルアタッカーなので、クリティカルが存在しない不定形や…、羽や枝などのクリティカルが追加ダメージではなく、部位破壊によるデバフになっているパターンに弱い。


 まぁ、効率さえ気にしなければ問題ないのだが…、やはり相性の問題とは言え格下の魔物に手を焼くのは…、どうにも釈然としない。


「あぁ、また"枝"にゃ。なかなか"木材"はでないにゃ~」


 ドロップを確認して肩を落とすニャン子。枝と言うのは[トレントの枝]のことで、魔法使い用の杖や長物装備の素材に広く使われる。トレントの収入源はコレと、回復アイテムの[トレントの実]がメインになる。


 [トレントの木材]はレア枠で、こちらは防具などに加工できる。レアと言ってもドロップ率は1%なので、1日狩っていれば何個かドロップするはずだ。


「レアだけあって簡単には出てくれないか…」

「どうします? 森3へ行ってエルダーを狙いますか?」


 [トレントの木材]はエルダートレントの方がドロップしやすい。もちろん、倒せない相手ではないが…、効率を考えると大した差は出ないだろう。


 結局大事なのは時間効率だ。確かにエルダートレントの方がドロップ率は高いが…、今の装備ならノーマルのトレントは1撃で倒せる。少しくらい単体効率は落ちても、出現率などを加味して考えれば効率に大きな差は出ない。


「そうだな、2と3の境をウロウロしながら様子を見るか。最悪、露店で買う手もある」


 結局のところ、トレントが相性の悪い相手であることにかわりはない。こんなところで無理をして死にたくもないし…、適当に流す感じで充分だ。




 そんな調子でトレント狩りは続く。

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