#076(11日目・夜・セイン)
L&Cは他のネットゲームに比べて装備の入手難易度が低い。装備ロストがあるせいも大きいだろうが…、強化で装備が壊れるとか、強化成功率がいちじるしく低いと言った嫌らしい仕様はない。
また、Bランク以上の装備は別だが、基本的に入手経路が最低でも3つ用意されており、エンチャントも1つまでと制限されていることから簡単に装備をそろえられる。
ただし…、自作装備をくわえると少し話が変わってくる。ポイントは3つ。
①、デザインの変更。同じ見た目の装備がカブらないように、同じ性能でも微妙に見た目を変更できる。染色だけでなく、購入した街やドロップした魔物でも差が生まれる。自作装備だとクエストなどで選択できる基本デザインを増やしたり、それらを組み合わせることも可能になる。
②、形状の調整。まったくの自由ではないが…、刃渡りや重量などが調整可能になる。基本性能はほぼ同じなので全てのプレイヤーが拘っているわけではないが、それでも長く使う装備は製造商人にオーダーメイドしてもらう場合も多い。
③、スキルレベルによる性能の微増。製造スキルや対応ステータスを上げることにより、性能が微増したり、調整幅が増加する。やはり基本性能に大きな差は出ないので、低レベルのうちから気にしても仕方ないが…、最終的には大きなセールスポイントになるので製造専門を目指すプレイヤーは初期段階からこつこつスキルレベルを上げていく必要がある。
「それじゃあエルダーを見つけたら、安全な場所に釣りだして、確実に1体ずつ処理していく」
「はい」
「うぃ~」
エルダートレントと無印トレントの違いは特にない。純粋に上位互換であり、弱点はそのままで、厄介な部分もそのまま強化されている。しいて言えば…、魔法耐性が大きく上がっている点だが、PTに魔法使いがいないので関係ない。
だから、倒すのに時間がかかる事と、攻撃を受けるとゴッソリHPを持っていかれること以外は同じ感覚で戦える。
つまり、油断しなければカモだ。
「アイ、まかせた!」
「はい!」
こつこつ1体ずつエルダーを倒していく。
①、最初にニャン子が足と鼻をいかして狩りやすい個体を選別する。
②、ニャン子からタゲを貰って、[鎌]で枝…、というか腕に相当する部分を切り落とし、アイが待っているポイントにエルダーを誘導する。
③、アイが斧で薪…、ではなく、エルダーを両断していく。
注意点はタゲがアイに移らないように、細かく攻撃を入れてやることだ。とにかくアイには最大火力を出すことに集中してもらう。ダメージ計算の仕組みを理解すると分かるが、防御力の高い相手には<二刀流>などで手数を稼いでも無駄。1撃の火力が何よりも重要になる。
「兄さん、1つ出ました」
「あぁ、やっと出てくれたか…」
嬉しいには嬉しいが…、どうやら今日のドロップ運はイマイチのようだ。
足りない分は露店で買う手もあるが、この手の素材はジョブ経験値を稼ぐために加工してから売るのが鉄則。加工前の状態で露店に並ぶことは滅多にない。
「このペースだと、今日中に必要数を集めるのは厳しいですね」
「そうだな。とりあえずやるだけはやってみるが、もしダメなら…、予定を変更することも考えなくてはな…」
焦らずのんびり…、などとヌルい事は言わない。ここで1日無駄にすれば、他の予定も全て遅れていく。特に問題なのは土日の露店だ。[毒針]のおかげで儲けはある程度期待できるが、他にも売り物を用意したいし、なにより[毒針]はまだ素材の状態。どうしても加工に結構な時間をとられてしまう。
「おぉ~ぃ、兄ちゃ~ん、"ユニーク"を見つけたけど、どうするにゃ~」
そんなことを考えているとニャン子が色違いのエルダートレントを見つけてきた。
ユニークとは既存の魔物の突然変異で、とりあえず中ボスの一種という認識で問題ない。基本は1日1体しか出現せず、ドロップも豪華になるが…、どこか中途半端な性能なのはお約束だ。
「よし、つれてきてくれ! 3人がかりでソイツを倒す!!」
「うぃ~」
あらわれたのはエルダートレントよりも少しだけ大きい個体で、体は赤黒く変色している。
「なるほど、属性亜種か。それも火属性。放置されているのも頷ける」
ユニークにはパターンがあり、パワータイプやスピードタイプなど、ベースになった魔物よりも何か1つ尖った部分があるのが特徴だ。
今回は赤色ということで…、火属性を持った魔法強化タイプだ。このタイプは遠距離攻撃を受けた時、カウンターで魔法を撃ってくるほか、本来弱点であるはずの火属性攻撃も属性相性で軽減してしまう。
「タゲはアチシが持つから、2人で攻撃するにゃ!」
「まかせた!」
「猫の盾」
「名前は可愛いけど、実際にやったら愛猫家を敵にまわすやつにゃ!」
愛猫家でなくても、ガチで引くと思うが…、それはさて置き! 基本、やることはエルダーと同じだ。
タゲが外れない程度にニャン子が攻撃して、俺が腕枝を落とし、アイがダメージを稼ぐ。
違いがあると言ったら…、HPが5倍くらいあるのと、HPが半分を切ると魔法攻撃をバラ撒いてくる点くらいだ。
「痛いにゃ!? めっちゃ体力減ってきたにゃ!!」
「兄さん、そういえば最近どうですか?」
「さり気なく…、もないけど! 突然関係ない話、しないで!!」
タゲを持っているニャン子が魔法の集中砲火を浴びる。猫言葉を忘れている時は切羽詰まっている時だ。
「アイ、対魔法装備は用意していない! 一気にたたみかけるぞ!!」
「はい!!」
「この扱いの差にゃ…」
武器を[鎌]と[バンク]に変更して、<二刀流>で一気にダメージを叩き込む!
いくら耐性があっても無効化されているわけではない。効率が悪いだけで、手数を増やせばダメージも増える。
「猫! アナタもやりなさい!!」
「え、あぁ、わかったにゃ!」
俺が<二刀流>を発動させたことでタゲは不安定になった。それならニャン子が逃げ回っても意味はない。
ニャン子も加えて総攻撃。ハッキリ言ってしまえば…、ただのゴリ押しだ。
ガラガラガラー!
なぞの崩れる音とともにエルダートレント・ユニークが光になって消滅する。
「ふ~、危ないところだったにゃ~」
「まぁこんなもんだろう」
ゴリ押しも勝算があるなら立派な戦術だ。コチラは火力の高い前衛が3人もいる。ヘタに小細工をろうして慣れない事をするより、こっちのほうが安心確実だ。
「兄さん、これを」
ドロップは、[火の欠片]と[蔓草の盾]だった。
「まぁ、装備が出ただけでも及第点か。とりあえず今日は時間いっぱいまでトレント系を狩りまくろう」
「はい」
「うぃ~」
結局その日は時間の許す限りトレントを狩ったが、[木材]は微妙に目標数に達しないまま、御開きとなった。
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