#073(11日目・午後・セイン)

「 …それで、動画は大丈夫なんですか?」

「大丈夫だいじょうぶ、ちゃんとやってるから~」


 昼。ギルドに顔を出すと、ユンユンがいつも以上にダラダラしていた。


 ユンユンの動画は、次の回から例の女子高生?を加えた話がメインになる。したがって、彼女たちがログインするまでは特にやることはないのだろうが…、どうにも、第1話が成功して燃え尽き症候群を発症しているように見える。


 2人は普段、午後イチの試合を済ませた後は…、軽く2人で意見交換をしながら動画編集をして、適当なところでスバルはソロでレベル上げに出かける。ユンユンはレベル上げは殆どおこなわず動画編集に時間をあてているようだ。


「そうですか。まぁ動画編集が大変なのは何となくわかりますけど…、いや、何でもないです」

「そんな気になる言い回しをされても。まぁ…、言いたいことは何となくわかるけどね。ガチ勢のお兄ちゃんには、こういう怠惰なのは見ていてイラつくでしょ?」

「まぁ。別にダメだとは言いませんけどね」


 MMOのプレイスタイルは人それぞれであり、絶対的な正解は存在しない。しいて上げるなら"他人のスタイルを否定しない"ってことくらいだ。しかし、これがなかなか難しい。


 これがゲームである以上、運営が定めた絶対的な"ルール"が存在しており、そこに多くの人々が快適にプレイするための"マナー"が加わり、さらに個人の"趣味嗜好"が加わる。


 もちろんマナーは守るべきだと思うが…、それも行き過ぎると、それはそれで問題がでてくる。C√PCは何もしていなくても自由にキルしていいとか…、最低限(必要なレア装備をコンプしている)の装備やプレイヤースキルを持っていないPCが、臨時PTや合同イベントに参加するのを勝手に規制したり。そういう排他的な状態のMMOは本当に息苦しい。


 やはりMMOはLaw規律よりもChaos自由こそが大切なんだ。そう思っている自分は…、やはり根っからのC√PCなんだろう。


「さぁ、セイン! 早く、早く始めましょう!!」

「え? あぁ、そうだな」

「?」


 散歩をせがむワンコのように、妙に乗り気なのはスバル。最近、コイツがワンコに見えてしかたない。


「まぁいい。それじゃあ始めるか」

「え…、鞭じゃないんですか…」


 驚くほどテンションを落とすスバル。


 今回、俺が用意した武器?は…、昨日集めた[鉄鉱石]で作った[ヒーターシールド]だ。盾の種類は、形状で大まかに分類されている。丸型は[ラウンドシールド]で、逆三角形は[カイトシールド]、逆五角形が[ヒーターシールド]で、四角形は[タワーシールド]となる。そこに素材違いや特殊形状の亜種が追加されていく。


 純粋な防御性能は後者にいくほど高くなるが、その分重くなり、扱いにくく、要求ステータスも高くなる。逆に前者は軽くて扱いやすいので動きの速い相手や動き回る狩りに重宝される。


 ハウンドを相手にする時は、相手が素早い事もあり[ラウンドシールド]を使ったが…、基本的には盾を装備する以上、半端に防御を上げてもあまり意味はない。PTでは極力後者を使い、前者はソロで狩りをする時用といった位置づけになっている。


「なるほど、鞭の対策を考えてきたようだが…、俺も同じ手が2度つうようするとは思っていない。ヤマが外れたな」

「え? あぁ、そうです! 意表をつかれました!!」

「?」


 なにか考えがあったようだが…、今となっては知る由もない。正直なところ、いくらシステム的に優位といえ、俺は鞭に関しては素人同然。連続して使えば直ぐにボロがでてしまう。


 正直なところ4回目にして、すでにネタがつきかけている。それくらいスバルは強い。才能は当然あるのだろうが…、それよりもまず、基礎が確り出来ている。本人が努力しているのもあるだろうが、やはり正攻法の戦い方は、試合形式の戦闘に純粋に強い。


 勝てているのは対処法を知らない未知の武器だからであって…、同じ手は2度は通じない。それほどにスバルの剣術は形になっている。あとは実戦経験を詰むだけ。すでに並のランカーとも充分渡り合える実力はあるだろう。


 まぁ…、俺もプライドがあるので簡単に負けてやるつもりはないが。


「あぁ、せっかくだし私が合図してあげるね(それと録画も)」

「え、あぁまかせる」

「えっと、お願いします」

「それじゃ…、はじめ!!」


 今日は積極的に攻めてくるスバル。


 まだ盾しか確認していないので微妙な距離を維持しているが…、基本的には攻め立ててスキを与えない作戦のようだ。


 しかし、盾の防御はその程度では崩せない。とくに今は耐久値減少がOFFになっているので、いくら盾を攻撃しても破壊される心配はない。まぁ、相手が[カタナ]なら耐久勝負でも勝てるが…、装備の破損を恐れて追加したルールに頼っている現状は、とても実戦的とは言えない。


 すこし、ルールを変更する必要があるか?


「師匠、攻撃はしないんですか? あまり悠長に構えていると…。フッ!!」

「あまい!」


 盾の死角を利用して鋭い突きを放つスバル。


 盾の弱点である死角の多さをすでに見抜いてきたのは流石だが…、もともと目に頼っていない俺には通用しない。なれてくると、リズムや相手の表情、足運びなどでも攻撃のタイミングは予測できる。俺も伊達にこのゲームを極めてはいないのだ。


「さすがは師匠ですね。いけると思ったんだけどなぁ~」

「動きを見ているのはコチラも同じ。相手の動きや癖を冷静に分析できるのも盾の強みだ」

「なるほど!」

「じゃあそろそろ決めにいくぞ」

「はい、お願いします!」


 すこし強引に盾でぶつかり、すかさず盾で隠していた[毒瓶]を使用する。[毒瓶]はエンチャントの毒と違って成功率が高いので、[祝福の指輪]の半端な耐性は気休めにしかならない。


「おぉ、毒が決まったね~。お兄ちゃん、せこ~い」


 ほっとけ!


「なんの、毒は予測済みです!」


 すかさず[毒消し草]を取り出すスバルだが…。


「甘い!!」

「へ!?」

「勝負あり! 勝者、セイン!」


 回復アイテムの使用中は武器の操作がロックされる。毒を警戒して回復アイテムを持ってきたところまではよかったが…、俺の方が1枚上手だった。


 [毒瓶]を使用した後に回復アイテムを使うのは予測済み。盾で右手を隠しながら[スティレット]に武器を交換する。あとは相手が迂闊なタイミングでアイテムを使うスキを狙って攻撃するだけだ。


「うぅ、ボクの負けです。ありがとうございました…」

「なかなか頑張っていたと思うぞ? まぁ次も頑張ってくれ」

「はい!」


 あいかわらず負けたのに、妙に嬉しそうな表情のスバル。それとは裏腹に、俺は…、




 また1つネタを使ってしまい、次の作戦を考えなければと、憂鬱な気持ちだった。

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