#070(10日目・午後・セイン2)
「なかなかのデキだ。大事に使ってくれよ!」
「よし、とりあえずこんなもんだろう」
NPCのセリフを無視して、俺は新しくできた装備を確認する。
・追加装備
戦士の革鎧・戦士のブーツ・戦士の革篭手:強靭な魔物の革で出来た軽くて動きやすい戦士用の革防具。斬撃に対して僅かな耐性をもつ。3つをまとめて戦士セットと呼ぶ。
ブラッティファング:血に染まった牙を埋め込んだナックル。生物に対して攻撃力が微増する。
ハウンドの素材を使って作った装備各種。
戦士セットは名前こそ貧弱だが、これでも前衛攻撃職の汎用装備では上位に位置しており、これ以上は重量や要求ステータスが上がるデメリットがうまれる。特殊なレア素材を必要としない防具の中では最高性能であり、値段もお手頃なことから、低レベル時の装備や装備ロストを気にするPCに愛用されている。これを俺とニャン子の2人分用意した。
[ブラッティファング]はハウンドのアンコモンドロップから作られるナックル系の武器で、効果は僅かだが特攻が生物全般にのるため適応範囲が広い。またナックル系の共通特徴として装備の制作が容易な点が上げられる。そのコストの安さは短剣よりも上で、攻撃力の低さを速さと特化装備の入手しやすさで補う。
「さて、あとは強化だが…、とりあえず+3でいいか」
もちろん制作や強化にも商人のジョブ経験値が入るので、理想を言えばアイに作ってもらうのがいいのだが…、ただでさえ1番レベリングが遅れているアイに、これ以上雑用を任せるわけにはいかない。ここは週末までの繋ぎと割り切って、時間に余裕のある俺が強化する。
とりあえずエンチャントは週末の露店を見ながら考えるとして、今は安全圏までの強化で充分だ。これらの装備はあくまで足掛かりであり、今後行くであろう上位エリアを攻略するための最初のステップになる。
「あ、いた! セインさん発見!!」
鍛冶ギルドを後にして、一旦ギルドに装備を預けに行くと…、そこにはミーファだったか、自警団の馴れ馴れしい女性PCが待ち構えていた。
「人違いです。それでは…」
「え、あぁそうだったんだ。ごめんなさい」
ギルドの共用倉庫にニャン子用の装備を預けておく。共用倉庫はイチイチ受け渡しをしなくてすむので本当に便利だが、利用できる場所が限られるのが難点だ。
「ん~、ドロップ的にはコボルトなんだけど…、数をさばきやすいゴブリンもいいな…」
つい、悩みが口に出てしまう。
めでたく初デスペナを貰ってしまったので、経験値を稼いでペナルティー分を補完しておきたいが、今のレベルだとザコを無心で処理していくゴブリン狩りが最適だが…、金銭面はレアドロップに依存するので少し考えてしまう。できる事ならコボルトを狩って[コバルト鋼]を確保しておきたいのだが、それだと経験値効率が落ちてしまう。基本的に経験値は雑魚を大量に狩るのが1番なのだ。
ソロで1番ツラいのは、攻撃手段が限定される点だ。それにともなって使える狩場、倒せる魔物も限定されてしまう。L&Cは装備の縛りがユルいので狩場にあわせて装備を変更する手もあるが…、やはりある程度絞って使わないと、いざと言う時に感覚がズレて痛い目をみる。
まぁ、スバル相手に鞭を使った俺が言えたセリフではないが…。
「あ! そうだ鞭があるんだ!!」
大人げない手で勝つためだけに用意した鞭だが、せっかく買ったことだし、手放す前に有効活用しておくのがいいだろう。
L&Cは他のRPGと違って、装備によって性能に大きな差がある。リアル設定重視と言うべきだろうか? 例えば武器によって限界性能がハッキリわかれており、レア枠が歯抜けになっていたり、そもそも上位互換がない武器も存在する。弓はその代表で、最終的には嫌がらせにしか使えない死に武器となる。
そうと決まれば善は急げだ! このレベル、この武器なら、適した相手は決まっている!
さっそく狩場へ向かおうとすると…。
「ちょっと待って! あなた、セインさんよね!?」
白い縁取りの入った防具に身を包む女性PCに呼び止められた。この柄は自警団の証であり、つまりミーファだ。
「いえ、人違いで…」
「いや、こんな初期からギルドに入っている人、他にいないから。なんで無視するの? 私たち、友達だよね!?」
「違います、赤の他人です。1度会ったら友達なのは児童向けの歌だけにしてください」
「もう完全にセインさんだし。もう、そういうのいいから。話を聞いてよ、も~」
関わりたくないんだよ、も~。
とは言っても、こういうタイプの情報網はバカにできない。ひとたび敵にまわせば、あることないこと好き勝手にふれ回る。見た目に騙されてはいけない。社交的な印象とは裏腹に腹では毒づいていたり、友達ネットワークや噂を利用して言葉巧みに人をおとしいれようとしてくる。
「なに? 急いでいるから手短に頼む」
「いや、まぁいいわ。こんど自警団でギルドを設立するから、セインさんも立ち会ってね! そこで自警団の活動内容や役員の発表なんかもするから、こないと絶対! 後悔しちゃ~う、ぞっ」
微妙に後半、ぶりっ子口調が戻ってきたのが本当にウザイ。ダメだ、本当にこういうタイプ、生理的に受け付けない。
「わるいが式典に参加するつもりはない。俺たちはあくまで中立組織として、度を越した行為を取り締まるのに有償で協力するにすぎない。だからL√の秩序の顔とも言える自警団の傘下に直接加わることはない」
「まぁまぁ、そう難しく考えずに、ちょっと様子を見に来て、話を聞くだけだから。それに、もしお願いを聞いてくれたら…、いいことあるかもな~」
「興味ない」
「そういわず、私もセインさんをつれていくって大見得きっちゃったから。ねぇ、私を助けると思って、お・ね・が・い」
キレそう。
「行く気は、ない」
「ふふふ、実は私、ファッション雑誌の読者モデルをしてるんだよね~」
「 ………。」
「よかったら、私のアドレスや~、読モ仲間の番号、教えてもいいかな~って、思ちゃうかもな~」
「えっと、ミーファだっけ?」
「はい! まずはフレンド登録ですね!?」
「ブラックリストに登録した。あと、個人情報をもらすのはL&Cの規約違反だ。運営にも通報しておいたから…、気を付けておかないとマジでアカウント凍結されるぞ」
「な! ちょ、ありえないんですけど!!」
鬼の形相でわめき散らすミーファを無視して、その場を後にする。
運営がこの程度で動くとは思えないが、これでミーファも迂闊なことは言えないはずだ。例え運営が直接動かなくても、監視ソフトなどもあるので…、ちょっとした警告メッセージが出ただけでも彼女にとってはかなりのプレッシャーになる。
こうして、ミーファの心象が底辺まで低下した。今後は風当たりが強くなるかもしれないが…、すくなくとも今は晴れやかな気分だ。
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