#065(9日目・午後・セイン2)

 さて…、どうしたものか…。


 動画編集をすると言っていたスバルたちをギルドホームに残して、俺はソロで狩りに出かけることにしたのだが…、最近PTで行動することが多かったため、ソロでやることを考えていなかった。


 レベル上げ、装備集め、収集品集め、クエストをすすめるのもいいし、ゴブリンの群れに突っ込んで乱戦の訓練をするのもいい。


 そんなことを考えながら転送NPCのところまでやってくると…。


「どうも」

「え、あぁこんにちは。えっとラナハさんだっけ?」

「"さん"は不要です」

「そうか」

「「 ………。」」


 自警団のラナハと鉢合わせになった。しかし今回はミーファ?が不在という事もあり、話すことが全くない。俺も積極的に話をふるタイプではないので…、微妙な空気のまま、何も話すことなく転送する。


「「 ………。」」


 そして、転送した先でも鉢合わせになる。


「えっと、ラナハも"マンティス"を狩りに?」

「はい。そのつもりです」

「そうか…」

「「 ………。」」


 ほんと、なんなんだこの空気。


 マンティスは人の背丈ほどもある巨大なカマキリの魔物だ。空を飛ぶことはないが、両手の鎌で強力な斬属性の攻撃をしてくる攻撃特化の魔物で、武器の素材となる[鋭い鎌]をドロップする。推奨レベルは30で、俺は余裕だが、ラナハにはまだ早い気がするのだが…、どうなんだろう?


 とはいえ、俺もそこまでお節介ではないし、ラナハも他人に助けられるのを嫌がるタイプに思える。


 ここは無視しておいて、声をかけられたら助ける程度でいいだろう。




 もくもくとマンティスを狩っていく。


 マンティスの攻撃は独特で、挟み込む様な斬撃が上段から振り下ろされる。前から攻撃されているのに、後ろから斬りつけられるような感覚はナレが必要だ。


 まぁ、ナレてしまえばカモなんだけ…、ど!


 マンティスのいいところは2つ。1つはクセはあっても攻撃自体は単純で回避しやすい点。


 もう1つはドロップが"収集品判定"になっている点だ。ゴブリンやコボルトのように最初から"装備"としてドロップすると加工の手間は省けるが、その分ウエイトがかさむので、多く持ち歩けない。そしてなにより、狩場に長く篭もれない。


 基本的に狩りは長丁場で無心になって黙々とやるしかない。時には休憩も必要だが、細かく休憩をはさみ過ぎると集中が高まる前にテンションがリセットされて、逆に効率が落ちてしまう。




 手持ちが程よく溜まったところで、一度休憩がてら近くのNPCまで移動してきた。やはり周囲攻撃のないエリアは回復アイテムを節約できる分、黙々と狩って数をさばける。


 予定では夕方まで続けるつもりだったが…、すでに必要数は集まってしまった。まぁ今更よそへ移動するのも効率が悪いので、あまりは販売用にまわすか…。


「おつかれさまです」

「あぁ、おつかれ。ラナハも補給か」

「はい。一応…」


 防具のメンテナンスをしながら、歯切れの悪い返事をかえすラナハ。どうやら上手くいっていないようだ。


 ラナハの装備を見れば…、片手剣に中型盾、典型的な兵士スタイルのようだ。装備構成としては問題ない。あと足りないのは…、レベルか、腕か、戦略か…。


「ラナハ」

「はい?」

「1回だけ動きを見てやる。それでダメなら狩場を変えろ」

「お節介ですね」


 さすがはラナハ。俺もそう思うが、ちゅうちょなく思いを口にしてくる。これでは社会に出てから苦労するだろう…。


 まぁ、俺は嫌いじゃないけど。


「そんなことは分かっている。いいからついて来い!」

「え!? ちょっと…」


 こういうタイプは最初は強引に引っ張ってやる必要がある。行動のデフォルトが"NO"に設定されているので、普通に手を差し伸べても絶対に自分から手を借りようとはしない。




 狩場に移動して、とりあえず孤立しているマンティスと戦わせてみる。


「とりあえずアイツを1人で倒してみろ」

「 …はい」


 不満を顔に浮かべながらもマンティスと戦うラナハ。


 つたないながらも必死で戦ってはいるが…、正直に言って見るにたえない戦いだ。


 なんとかダメージレースでは勝っているので、このまま続けていれば勝てるだろうが…、ダメージを受けすぎていて、回復アイテムや防具のメンテナンス費用を考えると赤字になりそうな勢いだ。


「もういい。時間の無駄だ」


 それだけ言って戦いに割り込んでマンティスを瞬殺してしまう。


「ぐっ! これくらい私だけでも!!」

「そんなものは見ていればわかる。割って入ったのは俺の時間が勿体ないからだ」

「くっ!」


 女性でここまで負けず嫌いなのも珍しい。戦闘面は"中の下"だが…、負けず嫌いで、意地でも自分で成し遂げようとする性格には伸びしろを感じる。


「お前は盾の使い方が下手だ。相手の攻撃を見てから防御にうつるまでに迷いがある。どうせ攻撃してくる方向は決まっているんだから、攻撃の軌道なんて気にしないで、まずは盾を構えればいい」

「は、はい」


 盾は武器での防御と違って、大体の位置さえあっていれば攻撃を防げる。とくにマンティスは攻撃が鎌の振り下ろししかないので、軌道なんて気にする必要はない。


「あと、<シールドアタック>は持っているか?」

「いえ、ダメージ率が低いので後回しでいいかと」


 <シールドアタック>は盾に攻撃判定を持たせるパッシブスキルで、ダメージ自体は本当にわずかだが…、相手の姿勢を崩してスキルを不発させたり、防御しながらダメージを稼いだりできる便利なスキルだ。盾をメインに使うなら必須スキルと言っていいだろう。


「あとで必ずとっておけ。それで…、相手がしかけそうなタイミングで、こう…、相手の肩を押す感じで使ってみろ。相手の攻撃を見てから防御するのは3流だ。2流は軌道を暗記して見ずに防御する。そして1流は…、攻撃の気配を察知して発動の段階で不発させる。背伸びでもなんでも、早い段階からその感覚を体で覚えろ」

「はい」

「それじゃあ俺はいく。あとは勝手に頑張れ」

「え? いってしまうのですか??」

「1回だけって言っただろ。俺はもうノルマは達成した。一日一善、お節介は1日1回で充分だろ?」

「えっと、その…、あ、ありがとうございました!」




 それ以上は何も言わずに立ち去る。我ながらお節介が過ぎたと思うが…、なんだかアイと似ている部分があって、つい、手を貸してしまった。

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