#064(9日目・午後・セイン)
「(バンバン!)そういうことは…、先に言えーー!!」
「え、あ、うん。なんかごめん」
とりあえず謝ってしまった。俺は悪くないはずだが、それ以上にユンユンの苦労がしのばれる。
「えっと…、たしかそれって簡単にはなれないんじゃないですか?」
「そうなの? スバル君」
どうでもいいけど、スバルは"お兄ちゃん"って呼ばないんだな? まぁイメージ通りだから違和感わないけど。
「いや、ボクも詳しくは…」
「はい、お兄ちゃん!」
「はい、お兄ちゃんです。えっと、飛行種族で言うと、まずはC√の"ハーピー"が有名だが…、あれは滑空しているだけだから空撮には不向きだ」
「(メモメモ)」
「空中でホバリング?できる飛行種族だと、1番向いているのは"セイレーン"だな。アイツは眷属召喚で鳥を数体召喚できて、その目を借りれるから撮影にもピッタリだ」
「ちなみに他には?」
「あとは"バンパイア"とか、"デーモン"、あとはドラゴン系も飛べるけど…、アイツラは基本デカいから撮影には向かないかも」
「なるほど(メモメモ)」
「みんな魔物っぽいけど、それってC√ってことよね?」
「そうだな。L√は亜人にはなれても、人間はやめられないから自力で空撮するのは不可能だ」
「それは困るわ。L√に代用種族はいないの?」
「たしかエルフの亜種に占いが得意なヤツがいたな。<念写>で離れた位置を見れたはずだけど…、たしかあれは静止画だったような…」
「ん~、タイトルとかアイキャッチにはいいけど、動画的には減点ね」
「あとはレア職業に"陰陽師"があって、それの<式神>でも離れた場所を見れたはずだけど…、条件が厳しくて、たしか最低でも3回、転生が必要なはずだ」
陰陽師は、正直よく知らない。あまり実戦向きではない…、というか初期のころに追加されたイベントエリアの限定職業で、それほど強力なスキルもないのでガチ勢はまず使わない。
「結局! 空撮するならどれなの!?」
「手っ取り早いのはC√に入って、ハーピーからセイレーンに転生するパターンだ。ハーピーならC√に入れば直ぐ選べれて、鳥系のセイレーンはそこからの派生になる。まぁ詳しい事は俺も知らないから興味があるなら自分で調べてくれ」
セイレーンは2種類存在しており…、海鳥をモチーフにしたハーピーの上位種タイプと、下半身が魚の人魚タイプだ。どちらも歌を得意としているが、活動域が異なる。
他だとやはりバンパイア系になるが、基本ステータスが高い代わりに昼のエリアでデバフが付くので汎用性に難がある。おまけに転生回数は3回だったはずだ。
「ごめん、ちょっと調べてみるから、あとは2人でよろしくやってて」
「よろしくって…、まぁいいや。スバル、興がそがれたが約束は約束だ。今日も挑戦するか?」
「はい! お願いします!!」
こういう時のスバルは妙に行儀がいい、というか礼がサマになっている。堅苦しいのは苦手だが、それでスイッチが入るのなら…、口出しするのは無粋だろう。
酒場のフロアで互いに剣を抜いて睨みあう。
ハシでアイドルがネット検索している姿が妙にシュールだが、気にしたら負けだ。
「今日は[
「はい! いきます!!」
力の抜けた構えで[スティレット]をリズムよく上下させる俺に対して、スバルは中段の構えで円を描くように横移動しながら距離を徐々につめてくる。
次の瞬間!
早すぎるタイミングで斬撃がはなたれるが、焦ることなく軽くいなして回避する。
あの間合いで有効打を与えるのは不可能であり、今回のは奇襲と言うよりは牽制、これで驚いて剣を落としたり、慌ててボロを出せばラッキーくらいの感覚だろう。
「今回は搦め手でいくつもりのようだな」
「はい!」
細かい攻撃をくり返すスバル。徐々にテンポを上げてきてはいるが…、短剣相手で速度勝負に持ち込むのは愚行。当然それは理解しているはずだ。
狙っているのは速度での圧倒ではなく、一瞬のスキ。スバルは間違いなくリアルで何らかの剣術を学んでいる。つまり剣術に関してのキャリアはスバルの方が上なのだ。そうなると奇形戦術よりも積み重ねた実力がモノを言う紙一重の攻防に持ち込むのが一番手堅い勝ちすじとなる。そう、俺をギリギリまで追い込み…、緊張に耐えきれず奇策に逃げる、その一瞬のスキを狙っているのだ。
「よっと!」
「はぁ!!」
「おしい、いい突きだったぞ」
あえて甘い動きをしてみれば、案の定、とんでもない速度の突きが首元めがけて飛んできた。本気で焦ったが、虚勢は忘れない。やはり相手の土俵で戦うのは、極力避けるべきだ。
うん、危うく負けるところだった。
やはり、スバルの剣の腕前は素人のニワカ剣術の域を完全に脱している。オープンアクションのL&Cにおいて剣術の基礎ができているのは大きすぎるアドバンテージだが…、それでも簡単に勝たせてもらえないのがL&Cの難しいところだ。
「なんの!」
「いや、俺の勝ちだ。のこりライフを見てみろ」
「え? …あれ、なんで!?」
いつの間にかHPが2割近く削れており、驚きの声をあげるスバル。
「戦いに集中しすぎてステータスの確認を怠ったな。よく、状態のところを見てみろ」
「え? あ、あぁーー!!」
状態表示に紫の泡のアイコンが点滅する。つまり毒状態だ。
俺はスバルと撃ち合いながら、あえて有効打にならない攻撃をカスらせ続けた。俺の[スティレット]にはエンチャントがついており…、どんなカス攻撃でも、当たりさえすれば5%の確率で毒状態にできる。
スバルの装備している[祝福の指輪]の効果で、なかなか毒にならなくて焦ったが…、なんとか追い詰められる前に毒状態にできた。
「そんな、もうすこしで詰みにできたのに…」
「これがゲームだって事を忘れていたな。それじゃあ、また明日、挑戦を待っている」
「はい! ありがとうございました!!」
ぶっちゃけ状態異常に持ち込む作戦は綱渡り過ぎた。本当に、勝ててよかった…。
こうして、2回目にして早くもスバルの実力を思い知らされる結果となった。
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