#063(9日目・午後・セイン)

「は~ぁ~い、セインお兄ちゃん! ユンユンに会えないあいだ、寂しい思い、してなかったかな~」

「そのキャラ、キツくないのか?」

「ほっといてよ! これが仕事なんだから」

「そうか」

「えっと、すみません。ユンユンさんがどうしても連れていってって」

「まぁ遅かれ早かれ、こうなることは予測していた」


 昼。スバルと手合わせするためにギルドホームに向かうと…、そこにはスバルとユンユンが待ち構えていた。


 スバルはゲストパスを持っているので期間内は自由にホームに入れるが、ユンユンはソレを持っていないのでレイと同様にギルドホームの入り口で、入待ち出待ちをするしかない。


「そういうことだから、"ギルドに入れて"とは言わないから、…、せめて私にもパスをちょうだい」

「(ポチポチ) …ほら、これでNPCの選択項目に俺のギルドが加わったはずだ」

「え? あれ、本当にくれるの??」

「いやなら取り消すけど?」

「まって、本当に取り消そうとしないで! 冗談に見えないから!!」


 本当に操作していたので冗談ではないのだが…、実のところ、ユンユンには遅かれ早かれゲストパスをわたすつもりだった。


 もちろんネコをかぶっている状態のユンユンにはわたす価値は感じないが…、ユンユンのスの性格や、動画の内容を考えると、手元において監視、もとい、監修しておいて損はないと思える。


 ネットゲームは1人プレイのゲームと違って、情報操作やイメージ作りも重要になってくる。特に敵を作りやすいC√はイメージ戦略でヘイトを分散するのも大切だ。その点においてビーストは本当に上手い、というか得をしていると思う。




「いらっしゃい、えっと…、ギルド、天御柱?へようこそ」

「セイン、今、自分のギルドの名前、忘れてたでしょ…」

「はい」

「うわ、迷いなく答えた」


 ホーム内に2人を案内する。まぁ案内するといっても、見た目は普通の酒場であり、ゲストは1階のフロアより先には入れない。イメージ的には、酒場の個室が広くなっただけだ。


「それでお兄ちゃん、ニャンコロさんたちはいないの?」

「あぁ、アイは基本的に夜しかログインしない。ニャン子は日によりけりで、インは午後からだったり夜からだったりする。一応、目標にしていたアイテムが手に入ったから、今後は夜からログインする日が増えるとか…」

「あぁ、そういうことね。完全に理解したわ」


 ネトゲのマナー、リアルは詮索しない。ここまで予定を自由に変更できる職業はだいたい決まっているが…、そこは本人が言うまで決して詮索はしない。


「ニャンコさんって、大学生なんですか?」

「スバルはもう少し、ネトゲのマナーを勉強しろ」

「他にも作家とか、個人の事業主の可能性もあるけど…、それはさておき、リアルを詮索されただけで不快な思いをする人も多いから注意した方がいいわよ」

「あ、すみません。軽率でした(考えてみればボクも似たようなものだった)」

「バーチャル限定アイドルが言うと、説得力があるだろ?」

「ほっとけ!」

「ふふふっ」

「さて、ムダ話はこのくらいにして、本題に入るぞ」

「はい! お願いします、師匠!!」

「師匠って…」

「これから手合わせするのよね? それって録画してOK?」

「好きにしろ。でも、録画する時はできるだけ一声かけろ」

「え? あぁ、いいんだ。てっきり断られるものだと思ってた」


 よくはないが、L&Cの利用規約にも撮影やそのデータの公開を制限する文言はない。ついでにゲーム内の風景を撮影した動画を公開して、それで収入を得ることも公式は許可している。


 そして、なにより…。


「録画しているか確認する方法がないからな。それならヘタに禁止してコソコソやられるよりはマシだ」

「なんだろう…、お兄ちゃんの聞き分けが良すぎて怖い…」

「ちなみに、録画データを無断で投稿したら怒るから覚悟しておけ」

「報道の自由は…」

「俺が怒るのと、なにか関係が?」

「はい、かならず確認をとります。つきましては…」

「?」

「L&Cシリーズの第1話、というか、プロローグだけなのでゼロ話ですね。それが"ほぼ"完成したので確認してもらえないでしょうか…」


 はじめから見せる気があったかどうかは判断しかねるが…、公開される動画を先にチェックできるのは大きい。


 ニワカランカーは戦い方を見せるのを嫌がるが…、ある程度順位が上がるとイチイチ気にしていられなくなる。そうなると重要なのが戦闘スタイルにハバを持たせる事。見せる用や手抜き用、ゴリ押し用にトレーニング用。一般的に知られているテクニックを見せて、本気の時の装備や戦闘スタイルを偽るのも1つのテクニックだ。


 そうでなくてもランクが上がれば嫌でも注目を集め、対策される。こんな未転生の段階で手の内を使い果たしてしまうようでは、とてもこの先やっていけない。


「わかった。確認させてもらおう」




「どうでしょうか…」

「とりあえず…、よくできていると思う」


 正直なところ、プロが作ったクオリティーはない。しかしユンユンは個人であり、撮影方法も見ているものをそのまま録画しただけ。親衛隊と協力して目(カメラ)の数は何とかしているが…、やはりフリーカメラやドローン撮影ができないと、ここが限界だろう。


 ん? そういえば…。


「うぅ…、やはり迫力不足でしょうか…」

「編集で頑張っている感じは伝わってくるがな。それで思い出したが…、L&Cでも"空撮"できるって知っているか?」

「はい?」

「だから空撮だよ。今の段階では使えないけど、飛行種族に転生すれば空を飛べるし、召喚した眷属の目を借りるスキルもあったはずだ。それこそドローンで撮影したみたいな画が撮れるぞ?」

「(バンバン!)そういうことは…、先に言えーー!!」


 突然キレるユンユン。どうやら編集で相当苦労したようだ。




 まだ使えないと言ったはずだが…、衝撃的すぎて耳に残らなかったようだ。

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