#066(9日目・夜・セイン)

「ん? なんだこれ??」


 夜、集合のために1度ギルドに戻ると、掲示板に書き込みがあった。


 妙に仰々しい文章だったが内容を要約すると…、明日、自警団のギルドを設立するから立会人になってくれ、とのこと。


「兄さん、どうかしましたか?」

「あぁアイか。いや、これなんだけど…」

「 …えっと、なぜ私たちが自警団の式典に参加しなくてはならないのでしょうか?」

「連中、是が非でも俺たちを傘下におさめたいようだな」


 もちろん自警団が俺たちを参加させたい思いは理解できる。しかし俺たちはあくまで別組織であり、傘下に入るつもりがないことは前々から言ってあるし、態度にも示している。


 なかなかソレが伝わらないのか、あるいは分かっていても、そうはさせてなるものかと考えている者がいるのか…。まぁ、後者だわな。


「おまたせにゃ~。みんな、どうしたにゃ?」

「あぁ、実は、…。…。」

「ん~。アチシはそう言うの苦手だから、兄ちゃんにまかせるにゃ」


 ニャン子は…、まぁ予想通りの反応だった。


 正直なところ、いくら別組織と言ってもビジネスパートナーの正式な誘いを断るのは問題だ。距離をおくにしても、もう少し穏便に、うまい理由をつけて断らないとカドがたってしまう。


「ん~、どうにも、自警団の考えがいまいち読めないな…」

「そうですか? 彼らの行動はシンプルな気がしますけど」

「そうなんだが、考えてみたら自警団のメンバー、特に幹部クラスの連中と、まったくと言っていいほど面識がない。正直関わりたくないが…、少しくらいは人となりを見ておかないと行動予測がたてられない」

「それじゃあ、参加するにゃ?」

「いや、やっぱり無視する」

「さ、さすがは兄ちゃんにゃ」


 今の力関係を考えるなら強気に攻めるべきだろう。ここはリアルではなく、あくまでゲーム内。こんなところにまでリアルのような面倒なシガラミを持ち込まれてたまるか!


「さて、そうと決まれば時間が惜しい。昨日行きそびれたシズムンドに行くぞ!」

「はい」

「うぃ~」




 転送サービスを乗り継ぎ、やってきたのはシズムンドの荒野1。ここは敵対勢力の支配エリアであり、本来は上位職に転職して、装備も充分に揃えた状態で来る場所だ。


 ここで狙うのは…。


「ニャン子、"ハウンド"の気配はつかめそうか?」

「ん~、ゲート近くにはいないにゃ」

「よし、とりあえずマップ端をゆっくり進もう。なんとか1体ずつ釣りだして確実に処理したい」

「うぃ~」


 ハウンドはウルフの上位種で、体はひと回りほど小さいが、全体的にステータスが向上していて純粋に強い。戦闘に入ると同種族とリンクして襲ってくるので、複数体のタゲをとってしまった時点でお終いだ。


「兄さん、いました。まずは私がタゲをとります」

「まかせたぞ」

「はい。その…」

「ん?」

「この戦いが終わったら…」

「アイにゃん、死亡フラグチックなことはやめるにゃ」

「猫の尻尾を踏みます」

「にゃにゃ!?」


 あいかわらず緊張感がないが…、まぁこれもご愛嬌だろう。


 まずは1番耐久力のあるアイが先行してタゲを受け持つ。いくらレベル差があっても盾でしっかりガードすれば3回は耐えられるだろう。


 あとは俺が確実にダメージを稼いでアイが落ちる前にハウンドの体力をゼロにする。ニャン子も、もちろんダメージソースとして期待はするが、狙いは状態異常でハウンドの攻撃を鈍らせるところにある。


 勝負は4回目の攻撃が飛んでくる約8秒間の間にハウンドの体力をゼロにできるか。半分、賭けのような綱渡りの作戦だが…、これでもCランク装備の素材の中では入手しやすい部類だ。


「いきます! …ぐ!!」


 ハウンドの初撃を受けてアイが大きくノケぞる。それでもなんとか踏ん張って盾をかまえ続ける。


 いくら完璧なタイミングでも、ステータスや体格に差があると盾のダメージカット率が大きく下がる。タイミングゲーのアクションゲームなら、物理法則なんて無視して巨大なボスの攻撃も無効化できてしまうのだろうが…、L&Cはレベル補正や物理演算が組み込まれているので、レベル差が開きすぎるとプレイヤースキルだけではどうにもならなくなる。


「いくぞ、ニャン子!」

「うい!!」


 俺は奥の手の<二刀流>を発動させて、急所の首に連続攻撃を間髪入れずに叩き込む。


 ニャン子は、ダメージディーラーである俺に急所の攻撃権をゆずり、胴体にひたすら攻撃を入れて、ダメージを底上げしつつも状態異常が発動するのを祈る。


「ぐっ!? (残り体力が)3分の1です!!」

「耐えろ!!」

「はい!!」


 ダメージは若干変動する。食糧を前もって食べているので僅かにHPは回復するが、それでもダメージが上振れれば3発目で終わってしまうことも考えられる。


 そうなれば…、アイを捨て駒にしてでもハウンドを倒す!


 デスペナは痛いが、それでも倒すだけの価値がコイツにはある。


「やったにゃ! スタンはいったにゃ!」

「よし! もらった!!」


 一瞬の硬直だが、それで充分。


 いくら格上と言っても、俺も火力特化。たった1発でも多く攻撃できるのならそれで充分…、だ!!


 アウゥ~~


 気の抜けた断末魔とともにハウンドが光の粒になって消える。


「や、やったにゃ~」

「ふぅ、ギリギリでした」

「よし…、撤収!!」

「はい!」

「うぃ~」


 ロクにドロップの確認もせずに、俺たちは全力で隣のエリアに移動する。もしさっき倒したハウンドが近くにスポーンしたら、それを倒すスベはない。


 安全な場所に移動出来たら、すぐに補給。アイの防具の耐久値も余裕をもって回復させる。あとはこの作業の繰り返すだけだ。


 経験値効率はお世辞にも良いとは言えないが、これで本来は手に入らないCランク装備の素材が確保できる。




 結局その日はハウンド狩りをつづけたが…、途中でニャン子がタゲられてPTは崩壊。記念に全員でデスペナを貰って、デスルーラで帰宅した。

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