#059(8日目・夜・セイン2)

「よし、次が来たぞ!」

「次にキルするのって誰だっけ?」

「オレオレ、俺だよ俺」

「なんだ、ただの詐欺か」

「お前ら、何回おなじギャグを繰り返すつもりだ! さっさと配置につけ!」


 ここは転送サービスを使えばスキップできるエリアであり、途中にとくにダンジョンやイベントエリアもないため、普段めったにPCがおとずれる事はない。


 しかし今日に限っては、その限りではない。推奨レベル30のエリアに、あきらかに30を超えていそうなPCが8名。それも固定で陣取っているのは、あきらかに過剰戦力であり、見るからにNPCを狩るC√のPTだ。




「こんなところに陣取っていやがったか。手間をかけさせやがって。これはもっと"アレ"の入手を急いだ方がいいな」

「まさかすべての方面に転送できないとは思わなかったにゃ。これは完全にグルだにゃ」


 PKKをすると決めたはいいが…、思いのほかPKを見つけるのに手間取った。封鎖している場所は大体予想できたのだが…、転送サービスを利用して近道をしようにも、なんと、全ての方面へ転送できない状態だった。


 閉鎖は周囲の反応を見るかぎり、俺たちがNPCに話しかけたのと、ほぼ同時刻。まず間違いなく計画的な犯行だろう。本来、C√PCがここまで大掛かりな連携を見せるのは珍しい。たしかに同時に仕掛けることで指名手配やPKKされるリスクを分散できるが…、その反面、作戦内容が漏えいしたり、ヘイトを集めすぎた結果、虎の尾を踏む確立も高まる。


「兄さん、次がつかえているので急ぎましょう。早くしないと次のエモノが逃げてしまいます」

「もしかしてアイにゃん。封鎖しているPCを、片っ端からキルするつもりにゃ?」

「なにか問題でも?」

「いや、中にはランカーも混じっているかもしれないにゃ?」

「なにか問題でも?」

「あ、はい。ないです」


 おもわずスで返答するニャン子。残念ながらアイはこういう性格なのだ。


「それじゃあ時間も惜しいから、正面からいくぞ。作戦と呼べるほどのものはないけど、一応…。…。」


 犯人グループは街道に細長く陣取り…、8人中4人を見張り役にして、それぞれ道の前後に2人ずつ配置している。そして、商人の馬車を止める役が1名。残りの3名は実際に商人を襲う役のようだ。


 しかし1つ問題があり、L&Cには共謀罪が存在しない。したがって8人全員が√を確定するためにはポジションを変えながら数回にわけて商人を襲う必要がある。実際にはすでに√を確定させているPCも混じっているだろうが…、


 それを差し引いても1回や2回、商人を襲った程度では終われない。特に今回は大規模な連携をとって転送を封じている。1つの班が終わったからと言って勝手に帰るわけにはいかないだろう。たぶん、時間やキル数に関して、なんらかの取り決めをかわしているはずだ。


 相手は8人と言っても商人を狩るためにPTを分けている。俺たちは商人を襲うタイミングを狙って…、まずは見張りを素早く倒す。あわよくば商人と共闘して各個撃破を目指す作戦だ。




「おい止まれ! 悪いがここは俺たちが封鎖している! 近づけば容赦はしないぞ!!」

「ヌルいこと言ってんなよ。面倒だから殺しちまおうぜ?」

「バカ、戦闘になって取り逃がしたら指名手配されるだろうが」

「なに、全員殺せばいいだけの話だろ?」

「それもそっか」

「おまえら…」

「ぐへへ、それで、どっちをヤル?」

「当然メス2人は俺が相手してやるから、オマエは残りの1人でいいぞ?」

「おいてめー、ズルいぞ!! 女をや…」

「話が長い!!」

「「へ?」」


 まるで世紀末のようなセリフを吐きながらのんきに無駄話をはじめるバカの会話を、首を飛ばす事で遮る。本来は形式美として付き合わないといけなかったのだろうが…、残念ながら俺にはその手の作法は理解できない。


 すかさずアイも絶妙なタイミングで、残った1人の脳天を[モーニングスター]で叩き割る。


 素早さをいかして相手をほんろうするニャン子に対して、アイは優雅な動きで相手に詰め寄り最小限の動きで相手を叩き伏せる。なんと言うか…、王者の風格を感じさせる独特の戦闘スタイルだ。


「さすがはベテラン"夫婦"にゃ! 鮮やかすぎてアチシの出る幕がなかったにゃ」

「ふふふ、猫もわかってきましたね。少しくらいは戦力として期待してあげるので、がんばりなさい」

「あざーす!」

「バカやってないで早くいくぞ」

「はい!」

「うぃ~」


 2人の漫才を遮って、商人を襲っている一団に駆け寄る。幸いなことに見張りがバカだったことと、馬車に注意がいっていたため本隊は俺たちのことに気づかなかったようだ。


 しかし、さすがにそれなりの距離を走ってつめたため、直前に気づかれてしまった。


「な! 誰だてめぇ!? 見張り…」

「無駄話がおおい!!」

「うを!?」


 <アイテム投げ>を顔面に向けて発動させる。これには相手も思わず怯む。<アイテム投げ>に相手を怯ませる効果はないが…、いきなり顔めがけて物が飛んで来たら目を背けたり、体がすくんで動けなくなる。もちろん慣れた相手には通用しないが…、通用した時点で相手は素人確定。心置きなく最速でキルできる。細かなことだが、こういう小さなテクニックの積み重ねが、実戦での安定性を大きく左右する。


「もらったにゃ!」

「な!!?」

「嘘だろ、鮮やかすぎる!?」

「気をつけろ! コイツラ強いぞ!!」


 今度はニャン子が足をいかして俺にあわせる。アイほどではないが、ニャン子も伊達にソロでランカーまで登りつめたわけではない。戦闘勘は上位陣と比べても引けをとらないだろう。


「さて、時間も惜しいので手短にお願いします。大人しく平伏して首をさしだしなさい」

「な! なんなんだこの女!?」

「おいまて! こいつら、例のPKKじゃないか!?」

「なんでココに!? きいてねーぞ!!」


 わざわざ"行きます"と宣言するバカはいないと思うのだが…、のこりは3人と、少し離れた位置にいる見張り2人。残った連中はもう少し歯ごたえがあると嬉しいのだが…。




 そんなことを考えながら、冷めた眼差しを相手に向ける。

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