#058(8日目・夜・セイン)

「 …で、ディスさんや"仮団長"のスケジュールがあっちゃって!」

「そうか」

「それで、今から知り合いのランカーや自警団の団員を集めて、広場で話し合って、今後の対応を決めようって話になったわけです!」

「そうか」


 興奮しながら語るレイだが…、俺としては果てしなくどうでもいい話としか思えない。


 それはともかく、どうやら勇者と自警団の団長がクエストで出くわした拍子に"C√PCによるPKやイベント妨害の話"になり…、それなら"公の場でとことん話し合ってルールを決めよう"という流れになったようだ。


「そろそろ会議がはじまっているころなので、みなさんも急いで来てください!」


 背を向け走り去るレイ。


 たしか今の自警団の団長は仕事の都合でなかなかログインできないらしく、仮の状態だとか。本人は寛容でリーダーシップもある人格者らしく、6時代L√ではそれなりに名の通ったPCだったらしいのだが…、ランキング的には圏外であり、俺は全く知らない。


 それで、6時代にも似たような事をしていたらしく、彼を慕うPCは多い。そのため元勇者も彼の意見を無視しきれなかったようだ。


「さて、それじゃあ俺たちは狩りに行くか」

「はい、兄さん」

「さ、さすがは兄ちゃん。よくこの流れで無視できるにゃ…」

「それじゃあニャン子だけでも出席するか?」

「ムリムリムリ! アチシがそう言うの苦手だって知ってるにゃ!?」


 苦手なのは知っているし、それ以上に断るのが苦手なのも知っている。普段はアイに泣かされているが…、実は過度に期待されず、方針も全部決めてもらえて、束縛もされない。そんな俺たちのところが気に入っていることも気づいている。


「 …ちょっと、ちょっとちょっと!」


 血相をかえて駆け寄ってくるレイ。


「やぁ、1日に2度も会うとは奇遇だな」

「なんでついてこないんですか!? 危うくハグレるところだったじゃないですか!!」


 レイはブラックリストに入れたままなので、俺から連絡を入れる事はできても、その逆は出来ない。


 こんなヤツが連絡役でいいのかと思ってしまうが、実際のところ、ログイン時間やプレイスタイルを考えるとコイツが1番適任のようだ。


「誰も参加するとは言っていないぞ? それに俺たちはこれから行く場所があるんだ。"ゲームマスター"不在の会議なら拘束力はゼロだろ? そんなもの役に立つとは思えない」


 ゲームマスターとは、運営であり、そもそもプレイヤーキャラではない。普段は絶対に表舞台にあらわれず、人知れずバグや不正行為を取り締まっている。


 基本的には専用のプログラムで自動判別されたグレーな違反行為を手動で判別したり、処理が重くなっているエリアを検視しているそうだが…、一応、定期的に不可視のアバターを使ってプレイヤー目線での監視もおこなっているらしい。


「そこをなんとか! お願いしますよ~。最近、組織内で俺の評価が下がりっパなんです! ここは俺の顔を立てると思って!!」


 そう言えば自警団でギルドを設立するって話があったな…。


 コイツの株が急落して幹部、つまりギルドメンバー候補から外されるのは困る。べつにレイに同情するつもりは全くないが…、連絡役なのにブラックリストに入っていたり、そそっかしくて都合のいい勘違いを連発してくれるレイは、俺たちが自由に動くうえで欠かせない存在なのだ。


 会議の参加は断固拒否したいが…、レイには連絡役を続けてもらいたい。


 よし! それなら…。


「わるいが話が急すぎる。基本的に俺たちは急な呼び出しには応じれない。用がある時はギルドの掲示板に依頼をだしてくれ」

「そんな…」


 すまない、オマエのフォローは俺の限界を超えていた。無力な俺を許してくれ!





 結局俺は、泣きすがるレイを振りほどき、王都の転送サービスで商人のキャンプ地まで出てきた。


 ちなみに転送サービスは何処でも自由に行き来できるわけではない。その場所の同盟関係や経路を考慮して決まっているので、場合によってはいくつも転送サービスをハシゴする必要が出てくる。


 今、目指しているのもそんな場所だ。


「アイにゃん、回復アイテムは大丈夫にゃ? 今のレベルで"シズムンド"に行くのはかなり危険にゃ」

「問題ありません。もしスキル攻撃を受けたら即死なので、回復の必要はないでしょう」

「アイにゃんが相変わらず人の話を聞かなくて、涙がとまらないにゃ~」


 正確に言うと、今向かっているのは"シズムンドの荒野1"なのだが…、そこは今いる王国の敵対勢力の支配エリアであり、難易度が一気に跳ね上がる。さすがの俺も生きて帰る保証はない。


「まぁ、1体ずつ確実に倒していけば何とかなるでしょう。とりあえず上位の装備をいくつか入手したら、すぐに引き上げます」


 しかし難易度が高いという事は、とうぜんドロップのランクも上がる。荒野1の推奨レベルは…、なんと脅威の60。俺たち3人でも、どうにかできる限界ギリギリのラインだ。Cランクの装備が手に入るなら、デスペナで半日ロスしたり、今のDランクの装備を数個ロストしても充分オツリがくる。


「わかってたことだけど、兄ちゃんたちのガチっぷりは本物にゃ。こうなったらトコトンやってやるにゃ!!」

「兄さん、いざとなったら猫を肉壁にして撤退しましょう」

「アイにゃんが今日もドSで涙が止まらないにゃ~」


 そうは言いつつも、どこか楽しそうなニャン子。何だかんだ言って2人はいいコンビだ。


「それじゃあ、アーバン経由でいくから」

「はい」

「うぃ~」


 転送NPCに話しかけて、行きたい場所を選択…。


「すまない、今そのエリアは街道が"封鎖"されていてな、送ってやれないんだ」

「はい?」


 NPCに転送を断られた。


 封鎖と言うことは、街道を行き来している対応NPCがキルされたことを意味する。転送サービス自体は道中を実際に通過するわけではないので、馬車を襲われてもPCが戦闘に巻き込まれることはない。しかし、あくまで設定と言うか、乗合馬車がPCに襲われるとその区間の転送サービスは使用不可能になる。


「兄さん。これはお仕置きが必要ですね」

「そうだな。別に正義を振りかざすつもりはないが…、ヤっていいのは、ヤられる覚悟があるやつだけだ」

「あわわわ、ついてないヤツラもいたもんにゃ~」




 こうして俺たちは、予定をPKKに変更した。

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