#057(8日目・夜・セイン)

「どうにゃどうにゃ! これでアチシも本来の力が発揮できるにゃ~」

「いや、セットボーナスは総合的にみてマイナスのはずですが…」

「気分の問題なんだろう。言っても無駄だと思うぞ」

「そうですね…」


 ドヤ顔でシッポを振ってみせるニャン子。個人的にはシッポよりも尻の方が気になるが…、それはいいとして、


 夜、俺たちはギルドホームで、完成した[獣の鼻]のお披露目をしていた。一応、特殊効果つきの装備なのだが…、あくまで趣味装備に分類されているので、おそらく7になってからコレを制作したのはニャン子がはじめてだろう。


 あと、どうでもいい話だが…、獣系ロールプレイ界隈には"ケモナー論争"と言うものがあり、[獣の鼻]のように人の顔を変更したり、獣人になって毛むくじゃらになるのが、アリかナシか、日夜熱い論争が繰り広げられているとか、いないとか。


「そういえば、ニャン子は"半獣人"と"獣人"、どちらの√をすすめる予定なんだ?」

「あぁ~、まだ決めてないけど…、たぶん半獣人かにゃ~」


 転生先である獣人には、大きく分けて2つの選択肢がある。1つは二足歩行の動物である獣人。そしてもう1つは、人の体に耳やシッポが生えただけの半獣人だ。


 獣人の特徴はピーキーと言うか、基本身体能力、とくに素早さと力が高い半面、魔法適正と器用さが低く、装備にも制限がある。そしてニャン子には関係ないだろうが、上位互換である"幻獣人"に転生もできる。


 対して半獣人は、人に近い形状をしているので癖が少なく、人族用の装備は殆ど使えるのが強みだ。獣人が純前衛なら、半獣人は補助魔法や遠距離武器も使える汎用型。前衛寄りの中衛といったところだろう。


 獣人と半獣人を比べると、基本的には利点がハッキリしている獣人の方が強い。しかし、装備制限があり、完全に体毛でおおわれてしまう獣人を嫌うPCは多い。特にニャン子のように特定種族にコダワリを持っているエンジョイ勢は、上位互換である幻獣人への転生が選択肢から外れてしまう場合も多く、そうなると、中途半端に尖った獣人よりも、装備で誤魔化しがきく分、半獣人の方が(金とレア運が必要になるが)最終的には強くなる。


「どのみち、半獣人を経由しないと獣人には転生できないから…、それこそ、転生してからドロップと相談して決めても充分間に合うか」


 転生ボーナスの上限は5回までだが、猫系獣人限定なら転生回数的にはかなり余裕がある。なんなら半獣人と獣人を両方試してプレイしてもいいのだ。


「ういうい~。ちなみに兄ちゃんは…、生えているのと、いないの、どっちが好みにゃ~」


 嫌らしい笑みを浮かべながら問いかけるニャン子。獣人と半獣人、どちらが強いかと聞かれれば、装備や運用次第だ。結局自分にあったものが1番であり、獣人系に転生するつもりのない俺には、すこぶるどうでもいい問いかけだ。


「その人にあっているなら、俺はどちら…」

「ダメです!」

「へぇ?」

「兄さんは、あのケダモノの口車にのせられてはいけません!」


 あいかわらず、よくわからないところで熱くなるアイ。長い付き合いになるが、いまだにアイの琴線をすべて把握するにはいたらない。


「アイにゃん、べつにそんなつもりはないにゃ。けしてモフモフで誘惑す…」

「油断するとすぐこれです! いいですか、兄さんはモジャモジャになんて目覚めたりしません! 兄さんが好きなのはツルツルな女性だけです!!」

「 …! …。」

「 …!? …!!」


 よくわからないところで白熱する2人。俺的には毛の有無なんてどうでもいいのだが…、2人はやはり女性というべきか、見た目に強いコダワリを持っているようだ。


「えっと…、話が長くなるようだったら、1人で狩りに行ってくる…」

「待ってください兄さん」

「そうにゃ! 結局兄ちゃんは生えているのといないの、どっちが好みにゃ!?」

「その質問はさっき答えました。それじゃあ俺はいくから」


 こういう時はマトモに相手しないのが1番だ。2人もヒートアップして主旨を見失っているようだし、話に付き合うだけ時間の無駄だ。


「まってください兄さん。こんな猫はどうでもいいので、私も行きます!」

「アイにゃんの言葉が今日もストレートにゃ~。ごめんにゃ、アチシもちょっと血迷っていたにゃ」


 なんとか冷静さを取り戻す2人。やはり相手にしないのが正解だったようだ。


「それじゃあ行きますかって…、そういえばコボルトを狩る必要はもうなくなったんだっけ。誰か行きたいところはあるか?」


 別にこのままコボルトを狩るのもいいが、基本的には周囲攻撃が煩わしい狩場なのはかわらない。それならいっそ、ゴブリン3とか、密林、あるいは背伸びしてアーバンやシズムンドに足をのばすのもいいだろう。


「あぁ、そういえば自警団の活動はいいにゃ?」

「ん~。一応、昼にレベル上げがてら街道を見てまわったけど…、予想に反してNPCを狙うPCはいなかったけど」


 俺の予想では、土日にレベルを上げたPCが、人の少ない平日の昼間を狙って仕掛けるとふんでいたが…、どうやら思った以上に慎重なPCが多いようだ。


 もちろん、PTの都合がつけやすい夜を狙う可能性もある。しかし、これ以上いるかどうかも分からない相手に時間をさくのは非効率だ。夜なら自警団も巡回しているだろうし、彼らが手に負えない相手だけ依頼を受けて対処すれば充分だろう。


「兄ちゃんがヨミを外すなんていがいにゃ」

「べつに俺は預言者じゃないぞ」

「いえ、兄さんは"たまたま"NPC狩りに出あわなかっただけです。すくなくとも1週間もたって、まだ誰もNPCを狩っていないなんてありえません」

「それもそうにゃ~」


 俺たち以外にもC√の実力者は大勢いて、その何割かは早い段階から√を確定させて動いている。多分今日行った場所も、ねばれば誰かが狩りに来たはずだ。しかし、俺はそこまでPKKにこだわっていない。あまりPKKに拘ってもレベルアップや装備更新が遅れるだけ。こういうのは"見つけたら倒す"くらいで充分なのだ。


 そんな話をしながらギルドホームを出ると…。


「あ! セインさん! よかったやっと見つかった」


 そこにいたのはレイだった。


「どうした、また襲撃でもあったか?」

「え!? いや、そうじゃなくって、これから集会がひらかれるので、皆さんも来てください!!」


 自警団の決起集会でも開かれるのだろうか?




 それなら襲撃があったほうがマシだった…、という言葉が喉まででかかった。

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