#055(8日目・午後・セイン3)

「おぉ~、すごいですね。1人で"ポイズンスネーク"を倒してしまうなんて」

「つか、短剣でスネークって倒せたんだ…」

「え? あぁ、まぁ<毒はき>のタイミングさえ見きれればイケるぞ?」


 とつぜん知らないPCに話しかけられ、戸惑いながらも俺はこたえる。


 スバルと別れた後、様子見がてらNPC商人がいきかう街道を訪れていた。街道はいくつもMAPをまたいでいるので出現する魔物は多種多様だが…、基本的には草原地帯なのでヘビや虫系の魔物が多い。


 ポイズンスネークは名前のとおりグリーンスネークの毒バージョンだ。見た目はわかりやすく毒々しい色をしているが、一番の違いは…、中距離攻撃の<毒はき>を使うところ。グリーンスネイクを狩る感覚で、のんきに中距離で攻撃を誘っていると、容赦なく毒を吐きかけられる。ステータス的には大差ないのだが、技が増えたことによりお手軽な攻略法が使えなくなった。推奨レベルは30くらいだったか? つまりは"草原の脱初心者試験"の試験官みたいな存在だ。


「フッ、貴様も適合者か…」

「え? てき…」

「あぁ、気にしないでください! ちょっとした病気ですから」

「あぁ…、お大事に…」


 よくわからないが初心者PTが腕試しにきていたようだ。


 俺の予想では、そろそろNPC商人を狙うPCがでてくる頃だと思ったが…、どうやらココは空振りだったようだ。


 周囲を見渡せば数名で狩りをしているPTが数組。ここは転送サービスが近いので補給もしやすく、ヒーラーのいない固定PTがよく利用する狩場だ。


 平日の昼間なら人も少ないから狙い目だと予想したが…、アイのように、分かりやすい形で商人狩りをしているヤツはいなかった。


 それから少し移動したところで…。


「あの! セインさんですよね!?」

「え? あぁはい。そうですけど…」


 また声をかけられた。そんなにこのエリアでソロ狩りしているPCは珍しいのだろうか?


 いや、あの装備のライン。こいつ、自警団のメンバーだ。


 自警団は加入者だけなら大きな組織だが、その殆どが初心者エンジョイ勢で構成されており、ギルドなども存在しない。活動形態はボランティアに近く。普段は自由に活動して、"有事の際は協力し合いましょう"くらいのノリでしかない。


 一応、見極めるのにポイントがあって、装備に染色で白の縁取りを入れるのがルールだ。


「やった! 私、襲撃事件の時もいたんですよ!? あの時、セインさんの強さを見てファンになりました! 握手してください! あとついでにフレンド登録も!!」

「やめなさいよ"ミーファ"、セインさんに迷惑でしょ。それに…」

「え?」


 自警団の女性メンバーが2人。ここに2人でこれるという事は…、レベル的には25前後くらいだろうか…。じつは狙いは商人で、レベルはとっくに30を超えてますって可能性もあるが…、まぁ、コイツラは違うだろう。


「あれだけ強いって事は相当なレベルのはず。1週間でそこまでレベルを上げられるなんて…、ロクな生活はしていないはずよ」

「ちょ! "ラナハ"、さすがにそれは失礼だよ~。すみません、この子、ハッキリ言っちゃうタイプで」


 その言い方だと、ダメ人間なのは否定しないのね…、いや、まぁいいけど。


「キミたち、リアルの性別も女性だろ? VRでの恋愛トラブルは多い。だから俺はそのくらいの距離感でいいと思う。逆に初対面の相手に握手だのフレンドだのと言うほうが抵抗があるな」

「そうですよね。初対面でいきなり"友達だよね!"なんて言う人、信用できませんね」

「え? あれ? もしかして…、私が悪者の流れ?」

「「 ………。」」

「2人とも、なんかいってよ~!」


 少しハデ目で、コミュ能力が高そうな女性PCがミーファで、


 歯に衣着せないキツ目の女性PCがラナハのようだ。


 正直にいって全く覚えがないが…、どうやらピンチのところをカッコよく助けて好感をもたれたり、逆にリアルを哀れに思われているようだ。


「レベル上げついでに、商人狩りをしているPCがいないか、ちょっと見に来ただけだから。それじゃあココは任せる」

「え? ちょ、本当に行っちゃうんですか!? せっかくだから一緒にまわりましょうよ!!」

「任せると言われても、私たちの実力では何もできませんよ?」

「そうだ、何かあった時のためにフレ登録を!」


 グイグイくるミーファに対して、ラナハは機械的と言うか…、なんで自警団に入ろうと思ったの?ってくらいに淡泊だ。


「出来る範囲で充分だ。犯人の顔を見たら商人のキャンプ地に行って項目を選択する。それだけで指名手配が成立する。怪しいヤツがいて、勝つ見込みがないなら…、街道に堂々と陣取って人の目があることをアピールすればいい。それだけで相手からすれば仕掛けづらくなる」

「わかりました。ではそうします」


 ラナハは一見すると俺を嫌っている印象を受けるが…、意見はちゃんと聞いてくれるし、実際に距離をとろうとする素振りもない。何というか…、人付き合いが下手なのだ。もちろん実際のところはどうかしらないが、俺も必要以上に慣れ合ったり、余計なお喋りに花を咲かせるタイプではないので、それほど嫌な印象は受けない。


「あれ~、もしかして、私の声、聞こえていない? もしも~し。クラスにイジメは存在していますか~」


 逆に嫌なのがミーファみたいなタイプだ。社交的で積極性はあるものの、どこか胡散臭く、よくよく考えてみると大した仕事はやっていない。レイあたりなら、こうやってフレンドリーに話しかけてきて、おまけにチヤホヤしてくれる娘は好きそうだが…、正直に言って俺は口ばかりで馴れ馴れしい彼女を、ウザいとしか思えない。


 あと、関係ないが…、こういうタイプが出てくるとアイの機嫌があからさまに悪くなる。そう言う意味でも、こういう軽そうなタイプは相手にしないのが吉だ。


「それでは…、そのまえに確認なのですが…」

「ん?」

「こんど自警団でもギルドを設立しようという話が出ていまして」

「え? あぁそうなんだ」


 当然の流れだ。さすがに上限人数の問題があるので全員をギルドに入れるのは不可能だが、今のフレンドシステムを利用した連絡では限界がある。メインで活動している幹部クラスだけでも、ちゃんとギルドの形式で連携する必要があるだろう。


「やはり聞いていませんでしたか。本当に"あの人"ときたら…」


 あの人とは、たぶんレイのことだろう。特に今日は色々あったから、アイツなら言い忘れていても不思議はない。


「ははは、レイ君ってソソッかしいところがあるからね~」

「それで、私たちもそのギルドの伝令役候補なのです」

「だからコレからは話す機会も増えると思いま~す。だからフレンド登録しておくと便利だよ~」

「そうか、その時はよろしく」

「はい」


 ミーファを無視して話を終わらせる。2人が伝令役"候補"だからと言って、まだ就任していない段階でフレンド登録をする必要はない。ミーファの狙いは、早々に有力者と仲良くなることで幹部入りを確実にしたいのだろうが…、そんなものに協力する気にはなれない。


 まだラナハだけならよかったが…、俺は自警団の仕事を頑張りたいわけじゃない。個人的には、いくらでも言いくるめられるレイが適任…、というか、1番好都合だ。そう思っている。


 まぁ、これ以上自警団に首を突っ込むつもりはないけど…。




 そう言えばラナハって、ちょっとアイに雰囲気が似ているな…、と思いつつも、俺はその場を後にした。

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