#053(8日目・午後・セイン2)

「すまないな。わざわざ王都まで呼び出して」

「いえ、実は野暮用で王都に来ていたので、ちょうど良かったです」


 昼過ぎ。レイと別れた後、今度はスバルをギルドに招待していた。もちろん正式なギルド員ではないが、スバルは俺の秘密を知っているPCであり、戦闘面も期待が持てる優良株だ。ゲスト枠で抑えておいて損はないだろう。


「それにしても…、見た目は普通の酒場なんですね。NPCがいないのもあって、閉店後って感じです」

「装飾はデフォルトのままだからな。一応、デザイン担当に内装は任せているから…、そのうちかわるかも? くらいの感覚だ」


 レイと違ってスバルは普通にギルドに招き入れた。本人がC√なのもあるが…、やはりレイと同列に扱うのはスバルに対して失礼だろう。


「そういえば、ユンユンさん。なんだか後輩の子たちと妙に意気投合しちゃって」

「それは迷惑をかけたな。俺としてはユンユンをビーストに押しつけて、その間にこっそりギルドを設立する作戦だったのだが…」


 あと、ニャン子が加入したことにより、女性率が高まって微妙にやりづらい時がある。アイがあまり女子トークに花をさかせるタイプでないのが救いだが、このまま2人が仲良くなったら…、「兄さんには関係のない話なので割り込んでこないでください」とか言われる日がくるかもしれない。


 将来、スバルが俺たちと肩を並べられるほどに成長してくれれば、男女比を均等にできるという目論見もあったりする。


「ふふ、セインも人が悪いですね。でも安心しました。なんだかそっちの方がセインらしいです」

「おいおい、それじゃあ褒め言葉になってないぞ」


 べつに2人に不満があるわけではないが、やはりバランスは大事だ。


「どうなんでしょうね~。あ、それでですね…、ボクたち、ユンユンさんの動画に出演しないかって誘われているんですよ」

「え? なんでそんなことに…」


 話を聞いてみると、どうやらユンユンは俺の助言どおり√色を控えて万人受けする動画を目指す方針のようだ。たしかにあのまま敵対路線でいけば、C√PCを敵にまわしてPKの標的にされたり、動画が荒らされる危険がある。


 動画はあくまで王都を襲撃してきた過激派を撃退しただけ。こちらもランカーの√落ちという痛手をおったので"皆さんの応援"が必要ですと言った印象に持っていくつもりらしい。


「結局、動画は初心者どうして助け合っていく、和やかな感じのものになるそうです。それで後輩の3人がメインメンバーとしてユンユンさんのPTに加わり、ボクや、その…」

「俺たちがお助けキャラとして、時々動画に映れと」

「ユンユンさんはそういう流れにもっていきたい口ぶりでした」


 俺としては、生活のかかった動画に不安要素になりえる素人を採用するのは避けるべきだと思うのだが…、そのあたり、ユンユンは自分一人での集客に自信を失っているのかもしれない。ニャン子に頼ろうとしたのもそうだが…、色々と苦労してきて良い意味でも悪い意味でも謙虚になりすぎて部分がある。


「なるほど、確認するが、スバルも予備メンバー扱いなんだな?」

「はい。最初は一緒にって話もあったんですけど、やはりファン層を考えると男性PCは入れられないってなって。ボクとしては助かりましたけど」


 スバルは一歩引いたり、断れないところがある。実力や才能はあるのだから、もっと強気でもいいと思うのだが…。


 それはともかく、ユンユンが作ろうとしている動画が見えてきた。ユンユンはあくまでアイドルであり、ファンのほとんどが男性だ。だから安易に男性PCと仲良くできない。その点3人はわかりやすくカシマしいJKだったし、キャラもたっていたから男性視聴者の受けもいいだろう。


 動画はあくまで"女性4人の珍道中"でL&Cをよく知らない男性視聴者をメインターゲットにする。そして俺たち実力派組は、L&C経験者向けのオマケ要素として所々で出していくつもりなのだろう。


「しかし、あの3人。L&Cを続けていけるのか? スバルはともかく、あの3人は特に才能は感じなかったが…」

「え、ボクってそんなにですか!?」

「調子にのるな。まぁチラッと見ただけだから確証はないが…、体さばきは素人だったな。まぁ才能があって、今後バケるとしても、数ヶ月で形になることはないだろう」


 現実はスポコン漫画とは違う。才能だけで素人が短期間でプロの領域に到達することはない。実際のプロは才能があって、なおかつ努力を何年も積み重ねてその境地にたどりつく。ましてやあの3人にはバケモノのような飛びぬけたオーラは感じなかった。


 しいて言えば…、ビーストと意気投合していた変なのが、何かの拍子に化けそうな気がするくらいだ。


「いや、どうなんでしょう。少なくとも課金した1ヶ月は続けるって言ってましたけど。たぶん、ユンユンさんもその場のノリで言っちゃった部分はあると思いますよ?」

「まぁユンユンにしてみれば1日でも早く動画を上げないと生活にひびくからな。その辺、より好みできるほど余裕はなかったのだろう」


 ビーストは生放送がメインで、編集が必要ないぶん毎日たれ流していれば安定して稼げる。


 しかしユンユンは編集した動画を上げているため、1本あたりの稼ぎは多くても、時間と手間がかかっている分トータルの収入はかなり落ちる。しかも投稿間隔がひらけばライトユーザーは徐々に離れていってしまう。とくに今は前やっていたゲームのファンが離れてしまっているので…、1日でも早く、インパクトのある動画、L&Cシリーズの第一話を投稿しないといけない。


「ゲームで生活するのも大変なんですね…」

「そりゃそうだ。スポンサーやメーカーのテスターにならなくても収入をえる選択肢が増えたのはいいが…、そういった連中は後ろ盾がない。実際の生活は短期のアルバイトと大差ないだろう」

「うぅ、アイドルなのに…」

「あくまでVR限定だからな…。それより」

「はい?」

「俺たちのギルドに入りたくはないか?」

「はい?」

「いや、だから正式なギルドメンバーに加わりたくはないかって話だ」

「え? あ、はい! 是非お願いします!!」


 まるでお散歩につれていってもらえると思ったワンコのようにハシャぐスバル。


 ちょっと言い方を間違えたかもしれない。まさかここまで食いつきがいいとは思わなかった。


「いや悪い。"試験"に合格できたらって話だ。それもかなり難しいから、簡単に入れるとは思わない方がいい」

「あ、あぁ…、そうですよね、ボクなんてまだまだ毛の生えた初心者だし。(いや、毛はいまだに生えてこないんだけど)そうじゃなくって! 試験ってなんですか!? ボク、頑張りますよ!!」

「? あぁ、試験自体は簡単なことだ。


 俺に一騎打ちで勝つ


 それだけ」




「   …はい?」

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