#052(8日目・午後・セイン)
「呼び出しといてなんだが…、本当にいつでもログインしているんだな」
「まぁそれが取りえですからね。一応レベル上げもしていますけど、メインはコミュニケーションでやってます」
わざわざL&Cでやらなくてもと思うが…、実際にVRゲームをチャットソフト代わりに使っているPCは多い。
「まぁいい。それより、メールで伝えた通り、ギルドができた。今日はその報告だ」
昼。俺は酒場でレイに会っていた。目的はもちろんギルド設立の報告なのだが…、その前に、レイには個人情報の大切さを説く必要があるだろう。
「あの、素朴な疑問なんですけど…、なんで
普通に考えればわざわざ酒場で待ち合わせする意味はない。ギルドホームの前で待ち合わせして、そのままマスター権限でギルドにアクセスするための"パス"をわたせば済む話だ。
「その前に確認しておかないとと思って。いや、多分勘違いだと思うのだが…、どうも自警団が勝手に俺たちの情報を第三者に流したり、ギルド設立に対して妨害や余計な介入をしようとしていた…、なんて噂が上がっていてな。もちろん根も葉もないものだとは思うのだが、こちらもソレでかなり迷惑してな。もしそれが本当なら…、今後の付き合い方を考え直さないと、と思ってな」
「へぇ…、そうなんですかかか。そんなことがあったなんて、ゼンゼン、しりばせんでした~」
お前、ちょっと動揺が顔に出過ぎじゃないか? 前からウソが下手だと思っていたが、立場の変化とともに、身の丈に合わない重圧がレイを追い込んでいるのか。
まぁ、俺はそんなに優しくないんだけど!
「そうかそうか、それならいいんだ。悪かったな大切なパートナーを疑うようなことを言って」
「いえいえいえ、ぜんぜん怒ってないので頭を上げてください。石橋をたたいてゴムタイヤって言うじゃないですか!」
それははじめて聞くコトワザだ…。
「いやぁ~、レイの懐の広さには感服する。俺だったら絶対に許さないからな。たしかに狭量かもしれないが、長い目で考えると信頼できないビジネスパートナーほど危険なものはない」
「そそそ、そうですね…」
「ちなみに、ユンユンはコチラが問い詰めるまでもなく自分から白状して頭を下げたけどな」
「あ、え、あぁ…、すんませんでしたー!!」
謝ったのはいいが、さすがに土下座とまではいかないか…。
まぁ普通はこんなもんだろう。あそこまで出来るユンユンが凄いのだ。正直なところ、実はもうそれほど怒ってはいない。俺もさんざん他者を陥れてきたので人のことを言う義理はない。
とは言っても、へんにシラを切り通すようなら本気で自警団とは縁を切るつもりだったが…。それはともかく、やられたのに何もしないで許してやるほど俺は甘くない。そう、それは"優しさ"ではない。ただ"甘い"だけだ。
「あまりつまらない説教をたれるつもりはない。今回、"だけ"は許してやるから…。悪いと思うなら行動でかえせ」
「はい! アッザース!!」
何でも許せばいいと言うものではない。叱ることも大切だし、報いを受けるのも大切だ。このまま何も言わずに野放しにすれば、同じ過ちを何度も繰り返すだろう。
「今回の一件で、俺やニャンコロは√落ちした。その責任を自警団に押し付けるつもりはないし、縁を切るなどと言うつもりもない」
「うぅ、本当にすみませんでした。俺たちのせいで…、もう…」
普通にプレイするなら、これでL√のランカーになるのは絶望的になった。転生1回分の後れとなれば、取り戻すのにどう頑張っても数ヶ月はかかる。手っ取り早いのはキャラをリセットする方法だ。とうぜんレベルやスキルは初期化してしまう。しかし問題はソレだけではない。本当に厄介なのは時間的なロスではなく、C√PCの報復だ。
あれだけ派手にやりあったのだ。すでに多くのPCのターゲットにされていても不思議はない。そんな状況で迂闊に初期化しようものなら、レベル差のついた相手に一方的に襲われることになる。
もちろん顔と名前を変えればある程度は何とか出来るだろうが…、もしそれで正体の情報を流す者があらわれればおしまいだ。敵はC√PCだけではない。L√の中にも、ライバルを蹴落そうとする者、もっと単純に成功しているヤツが妬ましくて嫌がらせをしてくる者、そういうヤツは何処にでも絶対にいるのだ。
「すんだことだ。自警団も、今後は単に正義感で突っ走るのではなく…、行動には責任がともなうこと、良かれと思ってやったことでも他人を傷つけるリスクがあることを、確り意識して行動してほしい。それらを守ってくれるなら…、それ以上責めるつもりはない」
大衆の面前でC√PCを殺したのはパフォーマンスであり、計画通りなのだが…、それを匂わせるわけにはいかない。公には裏で糸を引いていた自警団やユンユンが悪いという事を印象付ける。
俺のやっていることは本当に最低だと思うが…、これでも俺はガチ勢であり、C√PCだ。ぬるいなれ合いをするつもりはない。
「はい! 自警団にも仲間にも徹底させます!!」
「それと、すこし話はそれるが…、ユンユンの関係で、同じく動画をあげているビーストとも知り合った。まだ確定してはいないようだが、動画のウケを考慮して√色を出さない方針でいくらしい。まぁ、今後は交流のためにC√PCとあったり、クルシュナに出かける機会も増えるだろうから。そのことも自警団の皆に伝えておいてくれ」
「あぁ、なるほど。√色を強くしちゃうと、L&Cユーザーの半分を敵にまわしちゃいますからね。わかりました、責任をもって伝えます」
こうやって布石をうっておくのも大切だ。善悪はともかく、こういうマメな活動が後々ものを言う。
こうして、ちゃっかり保険をかけつつも、レイにギルド設立の報告をすませた。
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