#049(7日目・夜・セイン)

「さて、今日はガッツリ狩るぞ!」

「補給はお任せを」

「ぐしし、ここならドロップも期待できるにゃ! うまくいけば今日にも…、ぐししし」


 夜。俺たち3人は"サーラムの森2"に来ていた。ここには森1よりも多くのコボルトが出現するほか、装備持ちの個体も増えるのでドロップも期待できる。もちろん、その分難易度は跳ね上がるが…。


「アイ、このエリアは補給が面倒だ。あまり無理する必要はないぞ」

「アチシが途中まで護衛するにゃ?」

「ん…、いや、補給する際は森1へ移動しがてら3人で戻ろう。森1だってそれなりに湧くわけだし、アイが街で補給している間、2人で森1の道中に出現するコボルトを一掃すればいい」

「わかりました」

「うぃ~」


 さすがにここまで来ると単騎での補給は危険が伴う。もちろんアイ1人でもコボルトを倒すことは可能だが…、厄介な特性としてコボルトには嗅覚を利用した広い探知範囲がある。これは対象が移動した後、一定時間特殊な発見判定が残る仕様で…、移動しているPCの後を追い、背後から襲い掛かる厄介な特性となっている。


 これは、[獣の鼻]を装備することで使える専用スキル<嗅覚追尾>でも同様の効果が得られる。さすがの最新VRと言えども実際に獣の嗅覚を再現することはできないが…、PCが使うと、一定時間周辺を移動した痕跡が、足跡として視覚化できる。これは対象の種族ごとに色が異なり、盲目などの視界妨害スキルの影響をうけない。


 ネタ装備と言われがちな[獣の鼻]だが、じつは索敵や一部の妨害エリアで活躍できる便利な装備だったりする。




「はっ!! スタン入りました!」

「ナイス!」


 アイの攻撃で硬直したコボルトの首を、すかさず跳ね飛ばす。


 アイの装備の[モーニングスター]にはエンチャントで相手をスタンさせる効果を付与してある。打撃系攻撃スキル<インパクト>にも同様の効果があり、効果が重複するので結構な確率で相手をスタンさせられる。


「さすがはベテラン夫婦にゃ。完璧な連携でアチシの出番はないにゃ」

「ぐふふっ、そんなにおだてても何も出ませんよ。あ、回復アイテムが切れるころじゃないですか? さあ、好きなだけ使ってください」

「ありがとにゃ~(ちょろいのはいいけど、補給を受け取るたびにおだてないといけないのは面倒にゃ)」


 アイが加わったことで、コボルト狩りは一気に安定して、森2の湧きにも充分対応できるようになった。


 基本的には回復アイテムを惜しまず使うゴリ押しプレイだが…、資金面では不自由していないので特に問題はない。むしろ下手にヒーラーをいれて経験値を目減りさせるより、こっちの方が効率がいい。


「あぁ…」

「どうかしましたか、兄さん」

「どうしたにゃ?」

「いや、魔結晶が出た」

「「あぁ…」」


 [コボルトの魔結晶]はドロップ率0.01%のレアにもかかわらず水棲特攻というゴミエンチャントで使い道がない。むしろ出てしまうとPT内に微妙な空気がたちこんでしまう。そう、こんなところで運を使いたくなかったと…。


 いや、全く使えないわけではない。水エリアの魔物は殆どが水棲種族の判定をもっているので、これ1つあれば事足りてしまう。特にもともと水棲特攻が付与されている槍、[トライデント]にエンチャントすれば無類の強さを発揮する。


 しかし、それ以外のエリアには水棲種族はいないので…、永遠と水エリアをさまよう宿命を背負う。その手のエリアは人も少ないのでひたすらに孤独だ。大抵のPCはすぐに嫌になって手放してしまう。


「そろそろカートのアイテムもいっぱいになってきたので、一度補給に戻りましょう」

「そうするか、休憩とまでは言えないが、無理にタゲは拾わず帰ろう」

「はい」

「うぃ~」


 コボルトの装備は金属製の割合が増えるのでゴブリンよりも早くカートが埋まってしまう。その分金銭効率はいいのだが…、そのつど補給に戻ることとなり、集中力が途切れてしまうのは考え物だ。


 どの道、回復アイテムを補充しなくてはならないのだが…、ぶっちゃけ、黙々と戦闘に専念できないコボルト狩りに早くも飽きてきた。[コバルト鋼]が集まったら防具を更新して<咆哮>で削られる体力を減らせるし、アイの商人レベルを上げて"あのスキル"を手に入れれば、効率は更に上げられるだろうが…、たぶんそのころにはモチベーションを完全に失っているだろう。


「そういえば兄ちゃん。来週はどうするにゃ?」

「ん? なにかあったか?」

「ほら、C√の話」

「あぁ~。それはもう少しまってください。それほど待つ必要はないと思いますが…、情報しだいですね」


 あまりに馴染んでいるので忘れていたが、そういえばニャン子はもともとC√攻略の手ほどきをする約束だった。


「なにかあるにゃ?」

「昨日今日で多くのPCが兵士を相手にできる条件のレベル30に達したはずです。そうなれば積極的に動くPCが増えます」

「そいつらを狩るにゃ?」

「必要があれば」


 ギルドができたこともあり、自警団の依頼も本格的にうけることになるだろう。


 実際のところ、C√だからと言って低レベルのうちから積極的にPKをするとは限らない。


 とくに昨日、派手に襲撃を撃退したこともあり、C√の連中は消極的になっただろう。それがどのくらいの影響力になるかは運の要素が絡むのでなんとも言えないが…、


 まぁ焦る必要はない。襲撃騒ぎで運よく自然な形で殺人フラグをたてれた。あとは状況をみつつ、転生までに必要な条件を満たしていくだけ。もし途中でバレても、即詰みなんてことも無いし、少し順調すぎて怖いくらいだ。




 そんなこんなでその日は、コボルトを狩って狩って、狩りまくった。

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