#048(7日目・午後・スバル)

「それで、リンお姉様にはどこで会えるのですか?」

「いや、だから知らないって。一応、声はかけたけど~。なんか今日は大事なようがあるからムリって言われた~」

「上位プレイヤーなら付き合いもあるンでしょ? 無理強いはよくないわよ」

「そうね。とくに今はレベルアップも早くてやる事の多い時期だからガチ勢はピリピリしているわ」


 あいかわらず楽しそうにおしゃべりをする"4人"。


 ビーストさんのところで遊んでいてすっかり遅くなったが…、夕方は予定通り王都にやってきた。目的はもちろん、L√の雰囲気を見てまわるためだ。


「そうね。まぁビーストさんは例外だけど、やっぱり上を目指している人はガチだから…、悪い言い方だけどお遊びでプレイしている人を嫌う傾向があるわね。あと、リアルの知り合いとプレイするのも嫌がるわね」

「え? なんでですか? 知り合いなら連携とか取りやすそうですけど…」

「たしかにそういうチームもあるけど…、やっぱり個人情報が漏れる危険もあるし、あと…。…。」


 話は戻るが…、しかし予想外だったのは、コムギがビーストさんに懐いたことだ。


 男性は苦手だと言っていたので、あんな筋肉モリモリのレスラーみたいな人、絶対に怖がると思ったのだが…、結果は真逆で、一緒にスライムに群がられる特訓をするしまつ。


 本人いわく、見た目は殿方でも、中身は乙女だとか…。


 いや、ビーストさんは男だからね? ボクと違ってリアルの性別は確実に男。でも…、心の性別は…。


 いや、これ以上考えるのはやめよう。うん、やめよう。


「すみません、ユンユンさん。私たちにつき合わせちゃって」

「いいのよミコトちゃん。おかげで面白い画がとれたし、動画に映ってOKなら、むしろ私が得しているくらい」


 そしてミコトと打ち解けているのはバーチャルアイドルのユンユンさん。よくわからないが、動画配信で生計をたてている人らしい。


 先輩とどういう関係なのか非常に気になるが…、先輩は興味ない雰囲気。どうやらユンユンさんは、とにかく動画のネタが欲しいようだ。えっとエンジョイ勢だっけ? ユンユンさんはマイペースに攻略を楽しむタイプのプレイヤーなのだが…、それでも動画配信で生活している関係で、完全に遊びというわけでもない。真面目に遊んでいると言うべきか…、ミコトとフィーリングが合ったのは、そういう部分のようだ。


「それで、リンお姉様のアバターの名前とか特徴はわかりませんの?」

「しらな~い」

「仕方ありませんね。リンお姉様のことは保留にして…、あとは王都見学に専念しましょう。もしかしたらお姉様に会えるかもしれません!」


 アルミは自分の姉の捜索に関しては非協力的だ。アルミ…、というか八重は、自分の姉に劣等感をいだいているフシがある。詳しくは知らないが、八重の姉の話は、私も何度か小耳にはさんだことがある。


 ボクの世代で勉強も運動もできるパーフェクト少女といえば、やはり愛花だが…、そのまえは八重のお姉さん、三島鈴だったようだ。彼女は人当たりがよく気配りを絶やさない万人に好かれるタイプの才女だった。しかし家ではズボラで人見知りと言うこともあって、普段の生活では彼女をリードしていたのはむしろ妹の八重の方だった。


 しかし、家ではイマイチな姉が、外では天才だの美少女だのともてはやされている。八重はそれが嫌で嫌でしかたなかった。たぶんだが、八重が陸上に打ち込んでいたのや、考えなしな性格になったのは、すべて姉の存在があってこそなんだと思う。


「えっと、ここが冒険者ギルドですね。本来ならココで正式な冒険者になるのがスタートだったみたいだけど…、ユンユンさんは登録したんですよね?」

「まぁね。予定では"聖歌隊"になるつもりだったんだけど…、なんだか思うようにいかない感じで困ってるとこ」


 聖歌隊とは聖歌系と呼ばれる全体補助スキルに特化した僧侶の亜種で…、本来、僧侶系はPTメンバーを回復したり強化魔法をかける役どころなのだが、聖歌隊は敵味方問わずに同様の効果を広範囲に付与できる特殊な職業のようだ。よくしらないが、ボス戦などでPTの上限以上の人を集めて戦う大規模戦闘などで活躍できるクラスらしい。


「正直にいってL&Cって独特のシステムが多くて、他のゲームの感覚がアテになりませんよね?」

「わかる! もうなんなのこのゲームって感じ! 私、これでも生活かかってるんだけどな…」


 本当にミコトとユンユンさんは意気投合している。


 ミコトも他のゲームの勘が通用しなくて悩んでいたので、いい愚痴聞き相手になっているようだ。


「そういえば、先輩! よかったんスか~、あのセインって人」

「アルミ、そんなにスクワットがしたいの?」


 アルミはアルミでボクに嫌らしい目つきで絡んでくる。もちろん悪気はないのだろうが…、なんでこんなにボクに懐いてくるのか、まったく理解できない。自慢じゃないがボクは結構スパルタだ。もしかして…、アルミって、コムギと同じタイプだったの!?


「そんなことないっスけど…、あの人、ビーストとも知り合いだったみたいだし、間違いなく上位PCっスよ。王都の案内を頼んでもよかったんじゃないっスか~」


 その手があったか!


 って先輩がそんなに付き合いがいいわけはない。そりゃ愛花に比べれば遥かに人当たりはいいけど…、あれで結構容赦ないと言うか、使えないものはバッサリ切り捨てるタイプだ。


 ボクだって我がままを言って先輩と同行し続けたかったけど…、残念ながらボクにその実力はない。普通なら女の子は、ちょっとドジで人懐っこい方が好かれるらしいが…、先輩はそういうのは本気で邪険にしてくる。あの兄妹、そういうところは本当にそっくりだ。


 それでもなんとかギルドというか、協力者としての価値は見いだしてもらえた。メールのやり取りも続いているし…、もっと頑張って先輩と肩を並べられるくらいに強くなりたい。


「セインは、そんなこと軽々しく頼める相手じゃないよ。それこそ、ビーストさんに頼むのと同じ」

「うへっ。それはムリっスね。ユンユンさんを送ってきたから、てっきりもっとフランクな人だと思ってたっス」


 先輩は結局、ユンユンさんをビーストさんにあずけて、どこかに行ってしまった。先輩は昔からビーストさんと知り合いだったみたいだし、口利きでも頼まれたってところだろうか?


「というか、あの人、今話題のランカーですよね?」

「え? ミコト、知ってるの?」

「知ってるって言うか…、昨日、王都を守った英雄の1人ですよね? たしかランカーなのに、√攻略を見送ってPKKをするって宣言した」

「PKK?」


 なぜミコトが先輩のことを知っているのか!? そもそもPKKとか英雄ってなに? 正直に言って先輩のイメージとは違う。


「いやぁ、ミコトちゃん、結構深いところまで調べてるんだね…、まだ正式発表していないのに」

「もしかして、言ってまずかったですか?」

「そういうわけじゃないんだけどね…、いろいろと複雑って言うか…」


 どうにも煮え切らない反応のユンユンさん。


「昨日、何かあったんですか?」

「ん~、その事なんだけど…。…。」


 ユンユンさんの話によると、どうやら昨日、王都にC√PCの集団が襲撃を仕掛けたそうだ。


 そしてソレを救ったのが自警団をはじめ、先輩やユンユンさんだという事。そしてその状況は近日中に動画として配信される予定なのだとか。


 現在、ユンユンさんは先輩を、協力者かアドバイザー的なポジションで動画に参加してくれないか交渉しているそうだ。


「えっと、ボクがいうのもなんですけど…、セインって、そういうのは嫌うと思うんですけど…」

「うん、その点については正直に言って、もう諦めムードかな? でもね、じゃあどうするの?って問題があるじゃない?」


 ユンユンさんには生活がある。なにより動画投稿者として適当なことは言えない。もうすでに勧誘のために大勢の人を巻き込んでしまったので、なにかしらの"落としどころ"が必要なようだ。


「そうだ、スバル君。あなた彼と仲いいのよね?」

「えぇまぁ…。一応、目をかけてもらっています」

「だったらこうしましょう! 私たちでPTを組むの!!」

「はい?」


 話の内容を要約するとこうだ。

①、ユンユンさんとボクたちでPTを結成する。とうぜん接続できる時間帯が違うので常に一緒に行動するわけではないが…、そこはあえてこのままでいく。


②、そしてユンユンさんの動画に、3人は表向きのPTメンバーとして、ボクはアドバイザーとして出演して…、それぞれの立場で意見や感想を話しあい、それを動画のネタにする。


③、先輩はあくまで後援者であり、普段は動画には出演しないが…、ときにはアドバイスをくれたり、有事の際は昨日のように助けてくれる、お助けキャラ的な存在…、だと視聴者に"思い込んでもらう"。


④、実際はボクやユンユンさんが嫌われない程度の関係を維持する。かなり気長な話にはなるが、時間をかければ気が変わったり、棚ボタでいい画を撮らせてもらえるかもしれない。


「いいじゃないですか! やりましょうよスバルさん!!」

「いやでも、ボク、C√なんだけど…」

「それなら問題ないわ。基本的に動画に√色を出さない方針ですから、それに…。…。」


 あれよあれよという間に話が進んでいく。3人も完全にその気になってしまった。正直に言ってボクとしては気乗りしないのだが…、考えてみればボクにとっても悪い話ばかりではない。


 このままダラダラと先輩の知り合いポジションにおさまっていては…、目的を果たせるのがいつになるか…。結局、中学時代もこうやって何のアピールもしないまま"ただの後輩"として終わってしまった。もう、同じ失敗は繰り返したくはない。




 結局その日は、各自で一晩じっくり考えて、後日あらためて擦り合わせをする話で纏まった。

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