#047(7日目・午後・セイン2)

 パンパカパ~ン "天御柱"がギルドとして認可されました。


 部屋中に安っぽいファンファーレの音が響きわたり、ついに俺たちのギルドが誕生した。正直に言ってあまり興味はなかったが…、できてみるとちょっと感動している自分がいる。


「おめでとうございます兄さん。これで私たち"2人"の新居ができましたね」

「いや、ちょっとアイにゃん。さり気なくアチシをハブろうとしないでほしいにゃ」


 懸念事項だった自警団の介入もなく、無事にギルドを設立できた。俺の作戦が功をそうした…、のかは分からないが、ビーストをダシにユンユンを王都から遠ざけることで安心して手続きができた。


 いくらユンユンに手足となって動く親衛隊がいたとしても、肝心の本人が現場に立ち会えないでは意味がない。逆に言えば、本人が立ち会えない時は親衛隊も撤収している可能性が高いのだ。


「うげっ、意外に設定項目が多いんだな」

「さぁ兄さん、私たちの新居にいきましょう」

「お~ぃ、無視しないでほしいにゃ~、ニャンコはこれでもギルドエンブレムを描いてきた健気なニャンコにゃ~」


 現在、ギルド員が俺とアイしかいないが、ギルド員ごとに権限を設定できたり、ギルドスキルやギルドホームの増改築など設定項目はウンザリするほどある。


「そうですね。それでは兄さんに近づく泥棒ネコを追い払うと誓うなら…、"番猫"の役職を与えてもいいですよ?」


 あと、任意で役職名を設定できるようだ。役職名自体には特に追加効果はないが、役職名にギルド権限を付与する形になっているので、役職名が同じPCは必然的に同じ権限を持つことになる。


「いや、べつにかまわないけど、それならアイにゃんは"ギルドマスターの嫁"とかにするにゃ?」

「およよよよ! お嫁さんだなんて! ぐふふふ、しょうがないですね。サブギルドマスター権限でギルドに入れてあげましょう」

「(アイにゃんはブレないにゃ~)」


 とりあえず役職名は意味がないので未設定でいいや。


「よし、とりあえずギルドホームにいくぞ。一応、外見も3つから選べるみたいだから、実物を見て選ぼう」

「兄さん、まるで新婚気分ですね。うっ、想像したら…」

「ちなみにギルドホームも自作スキンが使えるにゃ。自作するのは大変だけど、フリーのスキンも公開されているから、そこから選ぶのもいいにゃ」

「 …じゃあニャン子の役職はデザイナーにしておくので、ビジュアル面の設定は全部まかせる」

「にょわ!?」


 適材適所。向いてない俺が下手にイジルより、得意な人に一任するのが安心確実だ。




 専用のワープゲートでギルドホームへと移動する。


 ギルドホームエリアには、各ギルドのギルドホームが所せましと立ち並んで…、いるわけではない。それぞれのホームが同一座標の別空間に存在している。


 ホーム内から外を見ると…、王都の中に普通に建っているように見えるが、それぞれのギルドホームが同じ場所に並列存在していると言う、ネットならではの不思議空間だったりする。ついでに追加料金で次元が他の街にまでつながったりもするので…、さながら動く城状態だ。


「これが我が家ですか。なんと言うか…、普通の王都の一軒家ですね」


 俺が選んだものなら何でも諸手で賛同するアイも、さすがに今回は微妙な表情を見せる。そもそもデフォルト設定なので俺は選んでさえいない。


「デフォルト設定だと、まんま、"王都の民家"だな。えっと…、あと選べるのは"王都の酒場"と…、なんで"日本の古民家"があるんだ?」

「完全に制作者の趣味にゃ。ちなみに登録した街で3つ目は変化するにゃ。たしかクルシュナは"ガレージハウス"だったはずにゃ」

「なんだ、そっちの方がよかったな…」

「ははは~、兄ちゃんも男の子にゃ~」

「兄さんは実用的なのが好きなのです。ガレージハウスなら段差も少ないでしょうし、そこにしましょう」

「いや、だから選べないにゃ。この兄妹、基本、人の話聞かないにゃ」

「ん~、じゃあ酒場で」

「では私もそれで、2対1で酒場に決まりました」

「猫はまだ何も言ってないにゃ~」


 設定を変更すると、民家から西洋風の酒場に一瞬で切り替わる。1階は広いホールにバースタイルのカウンター。奥にはキッチンと言うか、作成スキルを使うための工房がある。2階は個室が6つ。そもそも睡眠=ログアウトなのでベッドに意味はないが、それでも防音になっているので個別に話がしたい時などに使えそうだ。


 3人で色々と見てまわるが、ハッキリ言って普段会議で使っている酒場と作りは大差ない。結局、見どころもなくアッサリ終わった。


「なんというか、1階だけで事足りそうだな。追加料金を支払って拡張する意味が分からない」

「まぁやり込み要素だから優先度は限りなく低いにゃ。けど…、一応、ゲストを招いて会議をしたりもできるから、大手ギルドは限界まで拡張するらしいにゃ」


 ホームは部屋ごとに段階的に入場制限を設定できる。掲示板だけのやり取りもできるが、専用IDを発行して招待客限定で自由に出入りできるゲストエリアを作ったり、冒険者ギルドのように部外者でも自由に出入りできる設定にもできるようだ。


「家に他人を招くとか、正直に言って気持ち悪いですね。できればペットだって飼いたくないのに」

「アイにゃんが正直すぎて涙がでてくるにゃ~」


 泣く仕草をみせるニャン子だが、どことなく楽しそうに見える。一見するとコミュニケーション能力が高そうに思えるが…、6時代は結局どこのギルドにも馴染めずソロを貫いていたPCだ。まぁ女性PCにガッツく男は多いので一概に言えないが…、友情とか信頼を振りかざす暑苦しい関係よりも、俺やアイのように適度に距離をとってくれるドライな相手の方がやりやすいのだろう。


「とりあえず、設定は見終わったので…、倉庫整理でもするか」

「はい、覚悟していました」


 地味に大変なのが倉庫の移動だ。とくに今回はL√のクエストも意識しているので、お互いの倉庫にクエストアイテムや各種素材が大量に保管されている。それをイチイチギルドの倉庫に移動して、それぞれ分類わけしていくのだから、結構な時間がかかる。




 こうして、俺たちのギルド"天御柱アマノミハシラ"の活動がスタートした。

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