#046(7日目・午後・セイン)
「よっと!」
ボフリ! と安っぽい音をたてて中ボスの"スライム
「ありがとうございます! せん、セイン!!」
「あぁ、まさかこんなところで出会うとは。しかし考えてみればビーストとは一緒に知り合ったのだから、あたりまえか…」
ユンユンをつれてビーストのところまで来ると、なぜかスバルと…、例の後輩だろうか? 初心者PCを加えて、スライム相手に大騒ぎしていた。
「あ、なにかドロップしましたよ」
「あぁ、ホントだ。 …お、[祝福の指輪]じゃないか。一応レアだぞ」
[祝福の指輪]は状態異常耐性を上げるアクセサリー装備だ。特定の異常を無効にできるアイテムに比べると信頼性はおとるが、当然それらは高価になる。対してコチラは繋ぎや汎用装備と考えれば充分に使える部類だったりする。
そもそもアクセサリー枠はエンチャント前提であり、このランク帯で装備自体に特殊能力がついているものは店売りには存在しない。
「綺麗な指輪ですね。スライムから出てきたと考えると、ちょっとシュールだけど」
「中ボスはこの手の半端な性能の装備を落とす確率が高いからな。まぁいいや…、俺は使わないからヤルよ。そもそも最初にタゲってたのはスバルたちだし」
「え? いいんですか!? じゃじゃじゃじゃぁ、お願いします!!」
そっと左手をさしだすスバル。
「いや、他人のPCの装備を変更する機能はないから。普通に自分で装備しろ」
「え、あぁ、そうですよね…、そうですよね…」
「「(じと~~~)」」
妙なところで凹むスバルはどうでもいいとして…、後輩の女性PC2人が、いぶかしげな視線を送ってくる。
なるほど、憧れの先輩が他のPCと仲良くしているのが気に入らないのだな。俺も昔からアイのファンの娘たちに邪魔者扱いされてきたからよくわかる。うんうん。
「すまない、邪魔をしてしまって。今日はビーストに用事があってきたんだ。無粋なマネをするつもりはないから、俺のことはお構いなく」
「あ! すみません、危ないところを助けてもらったのに、お礼もまだで」
「ぐししし~、面白いものを見てしまった」
「アルミ!」
「うっス!」
「スクワット300回」
「うっス!!」
よくわからないが、仲はいいようだ。
とりあえずラチが明かないので、大量のスライムに埋もれているビーストのもとへ行く。
「お久しぶりですねビースト。元気そうで何よりです」
「セインちゃんも、お久しぶり。ちょっとまってね~」
そう言って周囲攻撃で群がっていたスライムを一掃するビースト。彼が大量のスライムを抱えて、あえてダメージを受け続けていたのには理由がある。
各種ギルドに所属しないでスキルを覚える場合、対応した行動をとることで熟練度が上がり、一定にたっするとスキルが覚醒する。分かりやすく言うと、転生モノの小説でよくあるアレだ。
ビーストはレスラーのように相手の攻撃をあえて受けて、投げ技や吸収技あるいはダメージ反射技につなげる戦法を得意としている。それらのスキルの覚醒条件をみたすために、あえてダメージを受け続けていたのだ。
「あの、オネエ様、この方は…」
ビーストの陰からそっと顔を出す女性PC。俺を怖がっているようだが…、見た目だけ見ればガチムチのビーストの方が遥かに怖いと思うのだが…、筋肉はOKなのだろうか?
「セインちゃんね。上位プレイヤーだから覚えておくといいわよ」
「はぁ…」
そういえばこのPC、どこかで見た気がするが…、どうにも思い出せない。まぁ、たぶん気のせいだろう。
「見てのとおり、なんだか懐かれちゃってね。それで、会わせたい人がいるって聞いたけど?」
「そうでした。えっと…」
「あああ、あの! バーチャルアイドルをやっているユンユンです! このたびはL&Cに引っ越して…。…。」
ガチガチになりながらも必死で挨拶をするユンユン。まるで新卒の面接みたいだが…、とりあえずビーストもこの手の話はなれたもので冷静に応対している。見た目はアレだが、ビーストは社会人で場数も踏んでいる。まさに大人の対応だ。
「うんうん、同じ動画配信者として頑張りましょ。√的にはあまり接点はないと思うけど、応援してるから」
√はともかく、ビーストが映れば間違いなく数がとれる。自力で再生数を稼ぎたいと思う気持ちもあるだろうが…、そこは生活がかかっているので利用できるものは利用していかなければならない。
「おっと、忘れる前に、コレ、王都で露店を回していたら手に入ったので、よかったら貰ってください」
「あいかわらず律儀ね~。あら、[健康のネックレス]じゃない。たすかるけど…、どうせならワタシも[指輪]がよかったわ~」
[健康のネックレス]は、狸の魔物"グリーンラクーン"の魔結晶をエンチャントした[ネックレス]で、効果は自然回復速度アップ。ハッキリ言ってゴミ装備だが…、永遠とダメージを受け続けるビーストなら役立てられるだろう。
「それじゃあ後はよろしくおねがいします」
「え、いってしまうのですか?」
「野暮用があってな。ビーストには動画用の画がとれるように頼んであるから。そんじゃ!」
「え、ちょま!?」
制止の声を無視して俺はその場を後にする。これで、安心して野暮用にとりかかれる。
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