#042(6日目・午後・スバル2)
「うぅ~、半日やっても全然レベルが上がらない。こんなのクソゲーだよ…」
「ははは、上がったと思ったら死んで初期レベルにもどっているからね~」
「ふふ、ふふふふ…、なんだか癖になってきましたわ」
あれから5時間近く、3人はスネークと戦っている。レベルこそ同じだが、経験者のアルミのおかげでなんとか戦えるところまできたが…、それでも安定して勝てるようになるには、まだ時間がかかりそうだ。
「そろそろ時間もいい頃合いだから、上がろうか」
「「「は~ぃ」」」
「うぅ~、いいところまで行けてたんだけど…、難しすぎません? このゲーム」
ミコトは毒づきながらも、なんだかんだ言って真剣に戦っている。性格なんだろうけど、携帯ゲームは色々と経験があるようで…、そこで勝ってきたプライドというか、意地があるようだ。
「ん~、ボクは他のゲームを知らないから、特に不満はないかな? 逆に簡単に死んじゃうゲームはちょっと怖い…、かな?」
「たしかに、VRゲームで死ぬのになれちゃうのって、なんだか危ない気がしますね」
ミコトは一番がんばっているが…、残念ながらマシンや運動神経の問題で一番足を引っ張っている。もちろんナレてくれば動きはよくなるだろうし、レベルを上げればステータスやスキルで足りない部分を補える。
あるいは詳しい人に見せてみるのもいいかもしれない。運動もそうだが、案外ちょっとしたアドバイスで化ける人はいる。なにより、"マジメ"は立派な才能だ。
「ははは、ミコはマシンスペックの問題もあるからね~、近接戦は無理かも~」
「そんなに違うの?」
「旧世代機の寄せ集めで、無理やりパッチあてて動かしているだけだから。転職して魔法職になるのがいいと思うよ~」
「ちなみに何レベルになったら転職できるの?」
「10」
「まだ1なんだけど」
「ははは」
アルミは経験者だけあって知識は私よりある。運動神経もいいので3人の中では1番つよいが…、姉のお下がりのVR機で軽く遊んでいただけなので、ミコトと逆で真剣みに欠ける。7になってからは殆どプレイしておらず、皆を引っ張るどころか一緒にヤラレて笑っているだけだ。
「つか、ヤ…、じゃなかったアルミ! アンタ動きがなまってるよ!!」
「うっス! 最近、サボってました!!」
「陸上やめたのなら煩く言うつもりはないけど…、気が緩み過ぎ! ゲームでも、やるからには真剣にやんな!!」
「うっス!!」
なまっていても、後輩根性はいまだに抜けていない。センスはいいのだから、あとは真剣みと言うか、何か目的を見いだせれば大きく化けると思う。
「ふふふ、ふふふふ、いいですね、癖になってしまいます、"コレ"」
一人で体をくねらせて悶えているコムギ。
コレとは"疑似痛覚再現システム"のことだ。イマイチ体を動かしている感覚がないと言うから確認したら、案の定、痛覚が初期設定のOFFになっていた。
VR機には五感を再現する機能があるが、痛みに関しては初期値がOFFに設定されている。ゲームとは言え、リアルな感覚を味わえるVR空間では、わずかな痛みでも錯覚を起こして本当に体を斬られたと勘違いしてしまう人もいるからだ。
そのことに気づいてからのコムギは…、痛覚の設定をマックスにして疑似的な痛みを楽しむようになった。
正直に言って、見ていて気持ちわるい。
「それで、明日はどうするの? みんな、L&Cが大変なゲームだってのは身をもって体験できたと思うけど」
失礼だが、できれば投げ出してほしい。こうやって皆でワイワイやるのも楽しいとは思うが…、やはり私は"楽しければそれでいいじゃない"って考えは好きになれない。やはり、やるからには勝ちたいし、真剣に打ち込んでちゃんと強くなりたい。
「ツム~、どう?」
「はい、やりがいがありそうなゲームで気に入りました。半日続けていても酔いませんでしたし、明日もお願いしたいです!」
「まぁツムが言うなら。私も負けっぱなしじゃ気分悪いし。とりあえず課金しちゃった1ヶ月分は遊んでモトを取り返したいかな」
「ははは、私も付き合うよ~」
意外なことに、3人はまだ心が折れていない。かく言う私も、その気持ちはよくわかる。
このL&Cと言うゲームは、自分が強くなっていく感覚がよくわかる。それはレベルや装備の問題ではなく、操作する人の判断力や戦略面でだ。他のゲームでは勝てない時はレベルを上げたり、装備を整えるなどして足りないモノを補う。そしてレベルや装備に頼って勝って、それで満足してしまう。自分は一切、強くなっていないのに…、勝てたことで満足してしまうのだ。
しかしL&Cはそうはいかない。腕を磨かないと装備は役に立たないし、判断ミスであっさり死んでレベルも下がってしまう。かわりに、腕さえあればレベルや装備を超越できる。つまり、レベルや装備は飾りでしかないのだ。アバターの表面的なステータスや装備ばかりを気にしている者には見えない世界。
本当の強さが、そこにある。
「はっ! そういえばリンお姉様は!?」
「いや、姉ちゃんとは一緒にプレイしていないから、会いたかったら本人に聞いて~」
「なんで知らないんですか!? 折角のお姉さんなのに!!」
コムギのお姉様マニアックスはさて置き…、どうやらアルミのお姉さんもL&Cをやっているらしい。それもかなりの上位プレイヤーだとか。
残念ながらL√らしいので接点はないだろうが、そこまで凄いなら1度お手合わせしたいものだ。
「いや、ゲームの中でまで姉ちゃんの面倒、見たくないし~」
しかも現実世界では、ズボラで人見知りらしい。
「はぁ~、せっかくのお姉様なのに、なんて勿体ない…」
「ははは、それは姉がいなかったからそう思うだけだよ~」
「そうかもしれませんが…、リンお姉様はオチャメなところもあって…」
「それより! 先に明日の予定を決めましょ! そうやってダラダラお喋りしていると、せっかくの休日が無駄になるわ!」
マジメなミコトが話を遮る。できればつき合わされているボクのことも気づかってほしいが…、とりあえずマジメな人がPTにいるのは助かる。
「とりあえず、どっちの√にするか選んだ方がいいよ~。L√ならイベントをこなせば必要なスキルが手に入るから、早めに決めて必要アイテムを集め出した方がいい」
「でも、アルミはC√なんでしょ? いいの? 私たちが別のストーリーを選んでも」
「ん~、私は姉ちゃんと会いたくなかっただけだし、そんなにやり込んでないから…、どちらも進めないでブラブラしていただけだよ~」
「ツバ…、スバルお姉様はどうなのですか?」
「ゲーム内では男なんだけど…、えっと、ボクはC√だよ。まだ確定していないけど」
「そうですか…、困りましたわね、お姉様方がバラバラになってしまいました」
「困るとこ、そこなんだ…」
「いつもの病気なんで、気にしないでください」
「あぁ、そぉ…」
ほんとうにコムギはブレない。方向性はアレだけど…、それさえ気にしなければ普通に良い子だ。
「わかりました。それでは体験と言うことで2つのルートの特徴を見てまわりましょう。それで改めて話し合って選ぶルートを決めると言うことで」
「ははは、りょうか~い」
「まぁミコがそういうなら」
この3人、意外なことに最後に纏め上げるのはコムギだったりする。
行動力はあるけど、主体性のない、アルミホイル。
計画性はあるけど、決断力のない、ミコト。
ちょっと?変なところはあるけど、明確な目的意識を持っている、コムギ。
チグハグに見えて、意外とバランスはいいようだ。
そんな話をして、その日は解散となった。
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