#043(6日目・夜・セイン)

「おぉ~、結構売れたな」

「はい、微妙な装備ばかりでしたが、新規PCが予想よりも多かったため早いペースで売れました」


 夜、工房で軽く商品の補充をしながら、露店の成果を確認していた。


「これだと明日のうちに商品がなくなってしまうにゃ」

「商品によって売れゆきに差があるし需要にも限界があるから、そう簡単にはいかないでしょうけど…、そうだな、アイ、明日は需要の高いEランク装備をさばいたら、露店は閉めていいぞ」

「いいのですか? ねばればDランクも売れそうですが」

「Dランクは、来週売る商品用にとっておく。1週間もしないうちに需要は逆転しているはずだからな」


 Eランク装備は本当に短期間の繋ぎでしかない。もちろん軽いなどの利点はあるので愛用するPCもいるが…、優先すべきは短期間の売り上げではなく、効率よく商品を回してジョブ経験値を稼ぐことにある。だから売り切ることに固執する必要はない。


「それでは少しでも売れる商品を補充するためにゴブリン村へ行きますか?」

「へたにEランクを集めても在庫になるにゃ。どうせならDランクの装備を落とすコボルトがいいにゃ」

「ん~、個人的にはギルドの名前を考えてほしいんだよな」


 見事に意見が割れてしまった。


 短期的な効率を求めるならアイの案がいいだろう。Eランク装備は少なくとも明日はまだ売れるはずだ。それに[ゴブリンの魔結晶]がでれば売るにしても使うにしてもオイシイ。


 しかし、長い目で見るとコボルトも捨てがたい。経験値は断然上だし、運に頼らず確実に稼げる。アイが製造スキルを覚えたら[コバルト鋼]で魔法装備を作って、死霊系や精霊系の魔物を狩るのも悪くない。


「いやいやいや、ちょっと待つにゃ。兄ちゃん、もしかしてギルドの名前、考えてなかったのにゃ!?」

「ん? そうだけど??」

「いや、自警団の一件がなかったらもうとっくにギルドを結成して、ギルドホームで会議していたはずにゃ!」

「いや、どちらにしても商品補充のために…」

「そういう話じゃないにゃ!」


 ちなみにギルドホーム内でも製造は可能だが、関連NPCがいないので、スキルを覚えて自力で武器や回復薬を製造できるようになるまで利用できない。


「いや、申請する時に、辞書ツールを見ながら適当に決めればいいかと…」


 正直に言って、ギルド名などの重要そうな名前を考えるのは苦手だ。もう中二病は卒業したので痛カッコイイ名前も思い浮かばない。かといってネタに走るのも違う気がする。


「私は兄さんが決めたものなら異論はありません。将来産まれてくるこど…」

「ちょっとブラコンは黙っているにゃ! それじゃあ"ギルドエンブレム"はどうするつもりだったにゃ!?」

「なくてもいいかと…」


 ギルドエンブレムとは、その名のとおりギルドを象徴する印で、ギルドホームにかかげられるほか、染色を利用して装備にプリントもできる。


 しかし、あっても追加効果はないので…、ぶっちゃけ目立つぶん損だ。


「表示するかは別にして、ギルドの顔なんだからちゃんと考えないとだめにゃ!」


 そう言えば、ニャン子は意外に神経質で気を使うタイプだった。それが嫌で、普段は猫言葉のロールプレイで別人格に成りきっている。


「じゃあ、ニャン子はどんなのがいいと思います?」

「そうにゃ~、"ニャンコロ大家族"とか?」

「じゃあそれで」

「ごめんにゃ、今のは冗談だから忘れてほしいにゃ」


 ニャンコロ大家族なら目立つのはあくまでニャン子で、俺は裏方ポジションという印象が強くなる。


 うん、全然ありだ。


「それでは、"ブラザーコンプレックス"で、どうでしょう?」

「え? 妹はそれでOKにゃ!?」

「なにか問題でも?」

「パス、なんかそれだと俺に注目があつまりそうだ」

「それなら却下で」

「いや、気にするところはもっと他にあるにゃ!!」


 なぜだか、今日のニャン子は妙に荒ぶっている。まぁ女の子ならそういう日もあるのだろう。


「それじゃあこうしましょう。アイとニャン子で名前をだしあって、いい名前を上げたほうの希望する狩場に行くって事で」

「なにサラッと押し付けてるにゃ。エンブレムなら描いてやるから、真面目に考えるにゃ!」


 そういえば…、気が付いたら俺がギルドマスターに決まっていた。


 いやまぁ、消去法で俺しかいなかったわけだけど…。


「つか、絵とか描けたんですね?」

「ん? まぁにゃ。ドット絵でも、3DCGでもなんでもござれにゃ。マシンも自作しているから、困ったことがあったら聞くにゃ」

「それは頼もしいですね。そのときは是非」

「うんうん、まかせるにゃ」


 ニャン子もなにげに多才だったりする。そもそもランカーにまで登りつめる人が、凡才なわけがないのだが…。


「兄さん。日本神話にでてくるイザナギとイザナミは兄妹であり、夫婦なんですよ」

「いや、なんの話にゃ! 静かだと思ったら何考えてるにゃ!?」

「ちなみにアダムとイブも兄妹です」

「いらないにゃ! そのブラコン豆知識はいらないにゃ!!」


 そう言えば神話の神々はたいてい近親相姦か体を切り離して分裂するパターンだよな。まぁどうでもいいけど、神話方面か…。


「じゃあ、"天御柱アマノミハシラ"でどうかな?」

「なるほど、つまり兄さんと私の子供ですね」

「まつにゃ! 意味はなんにゃ!?」

「イザナミとイザナギの子供です。わかりやすく乱暴に訳すと、神風、強風などの天災、あるいは神の威光などを意味するものだと思ってください。つまり天罰や厄災の神様ですね」

「お、おぉ、思っていたよりマトモにゃ…」




 結局その日は、そのままニャン子がエンブレムを制作するということでログアウトして、アイと2人で軽くゴブリンを乱獲して終わった。

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