#041(6日目・午後・セイン3)
「すんませんでしたーー!!」
「「えぇ~~」」
PK集団の襲撃事件も一段落して、俺たちはユンユンに事情を説明してもらうために酒場へと移動した。したのだが…、
個室に入るなり、ユンユンは天高く飛びあがり、体を捻りながら半回転。そして空中で体を丸めて、そのままの姿勢で落下。俗にいう…、かは知らないが、フライング土下座である。
「あの、ユンユンさん? とりあえず面を上げて事情を説明してください」
「うぅ~、やっぱり苦手なタイプにゃ~」
ユンユンは、もっとこ~、我がままで、俺たちを無理やり利用してくるものだと思っていたが…、意外なことに腰は低かった。
「えっと、ユンユンって言います。一応、しがないVRアイドルをしています。…。」
ユンユンは、VR限定の仮想アイドルで、VRゲームでの活動や歌などのパフォーマンスを動画にあげて生計を立てている。正確に言うなら、アイドルではなく動画投稿者に分類されるのだろう。
あまり裕福な生活はできていないようだが、それでも何とか活動が軌道に乗って、アイドルの仕事だけで生活できているようだ。
よく知らないが、多分バーチャルアイドルの中では、これでもいい方なのだろう。
「それで、なんであんなマネを? 自警団を焚きつけたり、俺たちのギルドに絡もうとしたのも、アナタの差し金なんですよね?」
「はい…、お察しのとおりです。…。」
自警団の集まりがよすぎると思っていたが、アイドルが絡んでいたのならうなずける。もともと別のゲームで活動していたユンユンは、L&Cデビューの舞台に今回の騒動を選んだのだ。
もちろん、今回のPK集団の襲撃は偶然だったが、掲示板を利用してL√のランカーが出てこないことなどの情報を流して、C√PCをそそのかしていた。つまり、偶然ではあったが、似たようなことが起こるのは時間の問題、必然だったわけだ。
そしてC√のPCが何らかの騒動を起こすまでに、戦力として期待できる俺たちを強引にでも仲間に引き入れるか…、あるいは今回のようにどさくさに紛れて勝手に仲間だと印象付ける作戦だったようだ。
「しかし、どうしてL&Cに? ぶっちゃけ、新規に優しくない鬼畜ゲーの分類ですよ? もとのゲームをつづけるなり、新規参入ボーナスのあついタイトルが他にいくらでもあったでしょう?」
「いや、それが…、やっていたタイトルは今回のバージョンアップで仕様が大きく変わって、別ゲーになっちゃって。他のタイトルも、基本、課金ゲーで継続的に課金しないと勝てないんです。とくにバージョンアップで今まで溜め込んだレアアイテムも全部消えちゃいましたし…」
極論だが、ゲーム会社はあくまで"会社"であり、"面白いゲーム"を作るのを最優先にしてはいない。時には業績を維持するために儲けを優先した調整が必要になるし…、話題作りのために不要な要素を加えたり、お金がかかる割に見返りが少ない既存システムの改善を後回しにしてしまう。
そして極めつけは追加アイテムのパワーインフレだ。たしかに強力なアイテムが追加されるのは嬉しいが、それでは苦労して強力な既存アイテムを集めた労力と資金が無駄になってしまう。一時的に業績は上向くだろうが…、そんな事を続けていては、いつかユーザーの心は離れてしまう。
「なるほど、それでキャラデータがリセットされたこのタイミングで、L&Cに乗り換えたわけですか」
「はい…、いくらアイドル活動で稼いでも、全部ガチャに消えちゃって…、もう行く場所が無いんです…」
VRMMOは数あれど、微課金や定額課金で中堅以上の地位まで成り上がれるタイトルは極わずか。ましてや、それが仕様変更や管理の問題が安定しているタイトルとなると…、L&Cしか残らない。
もちろんL&Cが玄人向けの高難易度ゲームで、素人が簡単に成り上がれるものではないのだが…、それでも配信者として再生数の稼げるタイトルを選ぶ必要がある。
その点において、L&Cは申し分ない。ビーストのようにすでに生計を立てている配信者は存在しているし、独特のゲームシステムからL&Cをプレイしていないユーザーにも動画の需要はそれなりにある。
「それで、これからどうするつもりですか? なかなか華々しいデビューは出来たと思いますけど」
「それなのですが…、お願いです! お二人のPTに加えてください! ついでにギルドにも入れてください!!」
仮想空間とは言え、地面に頭を擦りつけてまで土下座するアイドル。正直に言って痛々しすぎる。
とは言え…。
「事情は分かりました。ですが、お断りします」
「そんな! 生活がかかってるんです! もうアルバイトもキツい歳なんです! お願いです! 何でもしますから見捨てないでください!!」
プライドをすてて泣きすがるユンユン。これがアイドル活動でギリギリ生計を立てている中堅VRアイドルの裏の顔である。
「兄さんから離れてください、殺しますよ」
「へ?」
突然現れるなり物騒なことを言い放つのは俺の本当の妹。俺はともかく、アイに泣き落としは通用しない。1人の例外を除いて、アイを説得できたものはいないのだ!
「話はモニター越しに見ていました。あろうことか、兄さんを…、お、おお、お兄ちゃんだなんて!!」
やはり見ていたのね。
一応メッセージで、もしもの時はフォロー出来るように控えていてもらったが、ユンユンの介入によってアイの出番はなくなった。
「あぁ、報告にあったもう1人のランカーさん? え、もしかして3人兄妹ですか??」
「いや、なんというか…」
「そんなことはどうでもいいです! なにがお兄ちゃんですか、図々しい!!」
「そこをなんとか!」
「アナタには親衛隊がいるじゃないですか。あの人たちと仲良くやっていてください」
結局その場は、生活がかかっていて引くに引けないユンユンと、その事を全く気にかけないアイとのやり取りが平行線になり…、改めて話し合いの場をもうける形で解散となった。
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