#040(6日目・午後・セイン2)
「くそ! なんなんだコイツラ! 強すぎるだろ!?」
「チートじみた動きをしやがって! これが真のランカーの実力だってか!?」
「ありえね! 背中に目でもついているのかよ!?」
背中に目はついていないが…、相手の体格や装備がわかれば音や戦闘の流れで、おのずと仕掛けるタイミングや攻撃される場所は予測できる。
チートと言われても…、実際は小さなテクニックの積み重ね。1つ1つを見ると特に自慢できるものはない。ランカーは才能のあるものしかなれないが…、しかしそれでも普通の人間であり、超能力者ではない。誰にだって再現可能なテクニックを…、ただ実戦で使いこなしているだけだ。
「すげー! これがランカーの戦いか!?」
「つか、あのセインって誰だよ? にゃんころ仮面の知り合いっぽいけど」
「知るかよ。しかし、間違いなく上位陣の動きだ。たぶん、転生するまで元のキャラネームは隠しているんだろう」
「がんばれ! ユンユン! 負けるな! ユンユン!」
「「L・O・V・E ゆ~ん、ゆーん!!」」
しかし…、ギャラリーが激しくウザイ。
特に親衛隊のダンスパフォーマンスが死ぬほどウザイ。こっちは音も聞きながら戦っているんだから、静かにしてくれないかな?
「つか、
「いや、私、コンバートしたてで全然キャラ育ってないから。ダメージは回復してあげるから、2人で頑張って」
「お、おう」
あれだけの啖呵をきっておきながら、まさかの回復特化。むしろ守らなければいけない分、戦力はマイナスだ。
いや、べつに守る必要はないのか? うん、ないな。
「お・に・い・ちゃん。いま、よからぬことを考えていなかった?」
「イエ、タテニシヨウダなんて、カンガエテマセンヨー」
「私だってこの商売長いんだから、自分の身は自分で守るから! さっさとソイツラやっちゃって! それくらいできる人なんでしょ!?」
「はいはい。やります…」
「ぐっ! 盲目だ! コイツ、エンチャ…、「よっ!」ぐはぁ!!?」
「な! 一撃だと!?」
ニャン子の状態異常攻撃で怯んだPCの首を、すかさず[バンク]で跳ね飛ばす。対人戦では一瞬のスキが命取りになる。
ましてや自分がピンチだと口に出すのは問題外だ。本来ならPT会話で話す内容だが、気が動転していたか、あるいはPT上限の問題で、そもそもPTを組んでいなかったのだろう。
「よそ見はいけないにゃ!!」
「がっ!!?」
すかさず後頭部に裏拳を入れて1人落とすニャン子。まだキャラが育っていないので攻撃スキルは使えないが…、オープンアクション方式なのでリアルに存在する技なら殆ど再現できてしまう。
「な! おまえら、√落ちが怖くないのか!?」
よし、きた!!
「なにを今更。ここまで来たら、腹をくくるしかないだろう? まぁ、どのみちPKKする人材は必要だったからな。自警団の連中が育つまで! 俺たちが…、王都の平和を守ってやるさ!!」
「まぁ仕方ないにゃ。アチシラどうせエンジョイ勢だから、√攻略はそれほど優先していないにゃ。みんなのために、転生1回分くらいイベントを見送ってやるにゃ」
「「おおぉぉーー!!」」
俺のワザトらしい演技で、ギャラリーから割れんばかりの歓声が上がる。
これで観衆の目には、√攻略を見送ってまで平和のために戦うと誓った正義のヒーローに見えるだろう。もちろん、実際にC√のPCを狩る予定なので嘘はついていないが…、まさかそのままC√に転向するとは誰も思っていないだろう。
「チッ! だがまだ4対3、コッチが有利だ! 俺たちだってランカーを目指しているんだ。こんなところで負けていられるか!!」
いや、1人は戦力外なんですけど?
「セインお・に・い・ちゃん! 何か言いたそうな目をしていないで、戦闘に集中しましょ~ね!」
「はいはい」
「チッ! 余裕こいてんじゃねぇ…、ぞ!」
「あまい!」
「がっ! 腕が!?」
スキを見て攻撃したつもりだろうが、それは"スキ"ではなく"余裕"だ。
まんまと迂闊に踏み込んだPCの手首を切断する。とは言ってもそこはゲームなので実際に手が宙を舞うことはない。しかし、派手なダメージエフェクトで大幅なステータス低下が見て取れる。
「足を止めちゃダメにゃ」
「ぐへぇ!?」
ダメ押しでニャン子の追撃が後頭部に炸裂する。これで残り3人。
「なんなんだよコイツラ、強すぎだろ!?」
「いや、お前らが弱いだけだから。まるで"自分たちはソコソコ強いです"見たいに言うの、やめてくれない?」
「な! ふふ、ふざけんな!!」
俺に煽られて、なんとか言い返してみたはいいが…、声が震えてしまっている。
上を目指すなら、こうやって精神面から相手を追い詰めたり、相手の癖を利用するなどのテクニックも必要になる。
「ほい、あと2人にゃ~」
「え? いつのまに!?」
「はっ! ほら、あとはお前1人だぞ」
「な、そんな…、無理だよ…、こんなの…」
結局、残った1人も戦意喪失して、膝をついてしまった。
実力差もそうだが、彼らは上を目指す手段を根本的に間違えている。結局は初心者狩り。勝って当然の相手を選り好みして倒しているだけではプレイヤースキルやメンタルは鍛えられない。
点数稼ぎばかり意識して、自分を高める努力を怠るヤツがなれるほど…、ランカーの座は容易くない。
こうしてPK集団との戦いは、あっけなく幕を閉じた。
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