#039(6日目・午後・セイン2)

「あなた達、観念なさい! 私が来たからにはもう終わりよ!!」

「「はぁ!?」」

「正義のバーチャルアイドル、"ユンユン"只今参上! みんな~、私たちが来たからには、もう安心! さぁ、王都で暴れる悪いお兄さんたち~、お・し・お・き、の! 時間だよ!!」

「え? 中国人?」

「日本人です!!」


 おもわずツッコミを入れてしまったが…、突如あらわれた妙に派手な色使いの女性PCに、場の空気は支配されてしまった。


「おぉ~、ユンユンだ! これで勝つる!!」

「見ろよ、ランカーのにゃんころ仮面とセインと…、あれ? もう1人は?」

「おっと、俺たち"ユンユン親衛隊"も忘れてもらっちゃ困るぜ!?」


 あれよあれよと言う間に、話が出来ていく。


 いつのまにかユンユン?と俺とニャン子が3人セットにされてしまった。どうやら俺たちは完全にノセられたようだ。


「な、なんなんだオメーたちは! つか、なんでこんなところにLのランカーがいるんだよ!?」

「くそ! 聞いてねぇぞ!!」


 それまで強気だった相手集団に動揺がはしる。いろいろと不可解な点はあるが、ここまできたら乗るしかないだろう。


「にゃんころちゃん、セインお兄ちゃん、いくよ!」

「いや、なんで仕切ってんだよ?」

「ぐにに、苦手なタイプにゃ~」


 わけがわからないまま戦闘がはじまる。


 相手は所詮、初心者を狩っていい気になっている中堅なので脅威ではないが…、どうにも横や背後が気になって集中できない。


「みんな~! とつげき~」

「なんなんだコイツラ!?」

「数に惑わされるな! ランカーを常に2人以上でカバーしろ!!」


 腐っても中堅。混乱した状況でも優先順位は間違えない。しかし…。


「2人で足りるかよ!」

「なに!?」

「必殺! にゃんこ百裂拳!! うにゃにゃにゃー!!(ただのワンツーパンチ)」

「まずい、この2人マジでつよいぞ!」

「はい、おまけ!」

「な!?」


 スキを見て<アイテム投げ>で次々と仮面を破壊していく。仮面系のアイテムはどんなカスダメでも1撃入れば破壊できる。弓と違って装備の枠を圧迫しないから、不意打ちで仮面を破壊するのに最適なスキルだ。


 それにニャン子の神業も光る。まだ強力なスキルを覚えていないので、やっているのはただの通常攻撃なのだが…、斬撃をナックルで受け流し、逆の手でダメージ判定のある部分に細かくダメージを通して、すぐに離脱。ソロのエンジョイ勢でありながらランカーにまで登りつめただけのことはある。1対多の戦闘を熟知した動きだ。


「おい、ユンユン!」

「なに? セインお兄ちゃん」

「おに!? いや、それより! 詳しい話は後で聞かせてもらう! とりあえず俺たちが片っ端から仮面を破壊するから、そっちでC判定をしろ! Nは俺たちが引き受ける!!」

「はぁ~い、がんばってね、お兄ちゃん!」


 とりあえず、アイがモニターの前にいない事を祈る。


 調子がくるってばかりだが…、ユンユンと、その親衛隊は意外に統率がとれていると言うか、場慣れしている。1人1人の戦力は、中の下程度。相手集団ともなんとか互角にわたりあっている。




 勢いに任せて親衛隊と自警団が次々に相手集団を倒していく。よほど混戦なれしていないと、こういった局面では自分の持ち味は発揮できない。相手も粘ったほうだと思うが…、しだいに小手先のテクニックを披露する余裕がなくなり…、気づけば勢いと数の勝負になっていた。


 お互いわけもわからないまま、数を減らし合い、残るは6人。C√が確定している連中はあらかた片付いたが…、最後の6人は、まだ殺人を犯していないニュートラル状態、N√のPCのみとなった。


「みんな~、ありがとう~。もう大丈夫だから、あとはユンユンに~、お任せだよ~」


 そして…、最後の大詰めと言ったところで、親衛隊が後方に下がる。頭の痛い話だが、勝ちが確定したとたん。親衛隊を撤収させてしまった。どうでもいいが、なんかこのノリ、子供の頃ヒーローものの特撮で見た気がする。


「えっと、じゃあ俺たちもココで」

「おつかれにゃ~」

「まった! 私1人で勝てるわけないでしょ!? アンタたちバカなの? ちょっとは察しなさいよ!!」


 なんで怒られたんだろう?


「チッ! なめてくれるぜ。思い出した。バーチャルアイドル、ユンユン。たしかVRゲームを転々とする配信者だ。まさかL&Cに"コンバート"してくるとは…」


 コンバートとは、他のゲームからキャラクターデータを持ち越してくることで…、今までは同じメーカーのキャラクターデータを持ち越して"ある程度キャラが育った状態からスタートできますよ"と言う機能だったのだが…、


 第7世代VR機は、ハード自体がコンバート機能をサポートするようになった。理由としてはデータ容量の削減と、複雑な演算処理の規格を統一することによりバグの発生を抑制するとかなんとか。


 しかしそのせいで、L&Cをはじめとする多くの古参VRゲームがユーザーデータの初期化を迫られるほどの大きな調整が必要になった。L&Cはなんとか使用感を変えないまま新規格に対応できたが…、多くのタイトルは多額の開発費を用意できずに、不完全な状態でサービスを開始したり、"別ゲー"と呼べるほどの大きな仕様変更がなされた。


 ちなみにコンバート機能に関しては、L&Cは相変わらずの塩対応で、コンバートしてもアバターの外見データを引き継げるだけ。わざわざ引っ越してくる旨味は全くない。


「兄ちゃん。さっさとコイツラ片して終わりにするにゃ!」

「そうだな。まずは目の前の問題を始末してからだ。事情は…、説明してもらえるんだよな?」

「ん~、勝ったらね~」


 だいたい察しはついているが、まずは目の前の脅威?を排除してからだ。




 思わぬ介入に戸惑いつつも、状況は意図したところまでもってこれた。これでやっと目的を果たせる。

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