#038(6日目・午後・セイン2)

「やれやれ~!」

「おぉ~、自警団VS初狩り集団の戦いだ!」

「おい、だれか配信しろ! SNSに流そうぜ!?」


 観衆は意外なほど状況を面白がっている。しょせんは仮想現実。キルされたりアイテムをロストするのは嫌だが、現実の自分には被害はないし、なにより…、ほとんどのPCが"L&Cはこう言った事があるゲーム"だと分かった上でプレイしている。火事と喧嘩はなんとやら。ある意味、主張がズレているのは自警団の方…、と言う見方も出来る。


「陣形を崩すな! まずは弓で牽制射撃だ! 仮面を割ることに専念しろ!」

「ふっ、それくらい予測済みだっての!」


 基本に忠実な自警団は、盾持ちで前線を構築しつつも、弓兵で仮面を破壊することに専念する。


 仮面さえ破壊すれば相手が犯罪者か[手配書]で判別できる。ためらいのある団員には"攻撃できる相手"か分かるだけでも充分な安心材料になる。


 しかし、そんなことは百も承知の相手集団は、飛びかう矢を盾ではじきながら、ジリジリと自警団との距離をつめる。


 ゲームの仕様上、弓での攻撃は盾で無効化できる。もちろん耐久値は削られるが…、弓持ちが少ないのもあり、ほどなくして優位だった包囲陣形はアッサリ崩壊した。


『ん~、なんかダメそうにゃ。助けなくていいにゃ?』

『まだ焦る段階じゃないですよ。自警団の数的優位はかわらない。混戦ならなおのこと、数にまさる自警団が優位です』


 2対1と20対10は、同じようでまったく違う。手慣れたヤツなら2人くらい同時に相手できるだろうが…、それが10や20、ついでに仲間との連携も考えるとなると話も大きくかわってくる。つまり、ここからは連携力も重要になってくる。それなら普段からPTプレイになれている自警団が有利だ。


 それに自警団は、とりあえず1撃入れて仮面を破壊するのに専念すればいい。つまり、仮面が外れた相手を無理に追撃する必要はないのだ。


 2対1と言わず、3でも4でも、とりあえず1人ずつ確実にダメージを通せばいい。


 あとは…。


「ぐはっ!!」

「いっちょ上がり~」

「よし! アイツは黒だ! 誰か<マーク>を入れろ!!」

「やべ!?」


 自警団が1人やられたことにより、仮面を装備したPCの1人が犯罪者であると確定した。


 あとは猟師スキルの<マーク>で確定した相手を強調表示できる。わざわざ仮面を破壊しなくても、相手が犯罪者か分かればそれでいいのだ。


 自警団は死んでも仲間にドロップを拾ってもらえるので、死ぬリスクはデスペナによる経験値ロストのみ。つまり半日棒にふる覚悟さえあれば、強引に相手を判別できる。


 さらに!


「またせたな!」

「加勢するぞ!」

「チッ! また増えやがった。おい! 戦士は無視して猟師を潰せ!!」


 自警団の数的優位は2倍程度ではない。相手集団は人数を確保しやすい休日を選んだようだが、それは間違いだ。


 自警団のメンバーが現在何人にまで膨れ上がったかは知らないが…、大半のメンバーは各地で狩りをしている。キルされたメンバーも装備を整えれば再戦できるので実質無限湧き状態だ。


「おぉ、自警団が押し返してきたぞ!」

「がんばれー!」


 一度はアッサリ陣形を崩されたが、徐々に勢いを取り戻す自警団。その背中を歓声が後押しする。


「チッ! やはりこの数はキツかったか。仕方ない、野郎ども! 腹を括れ!!」

「「おぉー!!」」

「な! こいつら、ゴリ押しに切り替えてきたぞ!」

「ひるむな! こっちが有利なのはかわりない! 着実に1撃入れていけ!!」


 相手は仮面を守るために、攻めが消極的だった。しかし、指名手配されてもアバターをリセットすれば前科は抹消できる。


 数日のロスにはなるが、それ以上にココでの勝利には意義がある。


「戦士で前衛を構築しろ! 陣形を整えて数の優位を活かすんだ!!」


 経験が浅いと言うことは、成長の余地があると言うこと。自警団に指揮能力がある者がいたこともあり…、彼らは実戦の中で着実に成長していた。


「ふっ、やるじゃねぇか。正直、なめてたよ」

「だったら諦めて投降しろ!」

「や~なこった! おい! 出番だぞ!!」

「な!?」


 突然、自警団を応援していた野次馬が、背後から彼らを襲う。


 相手集団は中堅の集まりで…、それにしてはやり方がキレイすぎると思った。やはり奥の手を仕込んでいたようだ。


 アニメや漫画でよく見る作戦。あらかじめ人質の中に仲間を紛れ込ませておいて、ここぞと言う時に意表をつく。ベタだが有効な手だ。


 奇襲を受けて、完全に勢いは相手集団に持っていかれた。一度戦線が崩壊すると、初心者集団である自警団は脆い。立てつづけにキルをとられ、諦めてしまっている者すらいる。




 よく頑張ったとは思うが…、これまでだろう。


『さて、一応、義理もありますし、助けに行きますか?』

『ん~、アチシから見ると、どっちが敵なのかわかんにゃいけど…、まぁここは自警団を助けておかないとにゃ』


 自警団を助けたいという気持ちと、粘着していた相手がやられてザマーと思う気持ち、そして自分がC√に転向する事実。それらが混ざり合って、何とも言えない複雑な表情をみせるニャン子。


『むずかしく考える必要はありません。これは、大手を振って殺人称号をえるチャンスです』

『ぷっ、兄ちゃんはやっぱりC√にゃ~』


 俺たちは自警団を助けるために√攻略を見送って手を血で染める。これなら"L√PCの味方"という立場を維持したまま、どうどうと殺人数を稼げる。欠点は、世間がよりいっそう、"自警団の実行部隊"と見てくる点だが…、利点を天秤にかければ助ける方がまさるだろう。


 いっそ"裏の"暗殺部隊ポジションにおさまれば、今みたいに面倒な勧誘に悩むことはなくなる。俺が目指しているのは、あくまで"1歩離れた位置での共存"なので、連中に直接行動を指示されたり、監視されなければいいのだ。


『それじゃあ、行きますよ』

『うぃ~』


 PK集団の背後にさり気なく回り込み、そっと…。


「あなた達、観念なさい! 私たちが来たからにはもう悪事は終わりよ!!」

「「!?」」


 奇襲をしかけようとしたその瞬間、突然後ろで宣言をするバカがあらわれる。


 つか、コイツだれ!?




 予測していない人物の登場に戸惑いつつも…、PK集団との戦闘に介入する。

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