#037(6日目・午後・セイン2)

 午後。初の休日と言うこともあり、一度は見なくなった初期衣装のPCで、王都アルバは大いに賑わっていた。


 アイに露店をまかせて、俺とニャン子はペア狩りに出かけようとしたのだが…、城門まで来ると、ただでさえ騒がしい王都が一層騒がしい…、と言うより、物々しい雰囲気につつまれていた。


「大変だ! "初狩り"がでたぞ!!」

「おい! 誰か腕に自信のあるヤツはいないか!?」

「城門が封鎖された! ログインしたばかりのプレイヤーは外に出るな! 真っ先に狩られるぞ!!」


 どうやら初心者狩りがでたようだ。


 初心者狩りとは、言葉の通り、新人PCやゲームを開始して間もないPCを狩る行為だ。初日にもクルシュナで堂々とやるバカがいたが…、今回は少し事情が違う。


「兄ちゃんどうするにゃ? 助けに行くかにゃ??」

「そうですね。自警団も動いているでしょうから、様子をみましょう。すこし、嫌な予感がします」

「うぃ~」


 L&Cをよく知らないプレイヤーには勘違いされるが…、じつはL&CでPKをおこなう者は非常に少ない。


 一応PK行為自体は殆どのエリアで許可されているが、他のPKが可能なゲームと違って、L&CのPKは大きなリスクがともなう。ましてや人通りの多いエリアでPKをすれば、即、指名手配されて、そのアバターは使い物にならなくなってしまう。


 クルシュナでの初狩りは、未所属のPCを選別して行っていたのでリスキーではあるが、勝機はそれなりにあった。対して今回は、完全にリスクが釣り合っていない。はじめからキャラを捨てるつもりの愉快犯の可能性が高いが…、まだ断定するには情報不足だろう。




 城門付近のエリアは、門と侵入不可エリアの堀川、そして吊り橋で構成されている。


 犯人は18人。吊り橋を塞ぐかたちで展開しており…、自警団や一般PCと睨み合っている。


「どうどうと王都の城門を占拠しやがって! すぐに仮面を外して投降しろ!!」

「ふっ、仮面をはがしたかったら、自力でやるんだな。悪いが、お前たちにはC値の糧になってもらう」


 強気な犯人たち。装備やレベルに余裕があるようだが…、やっていることは綱渡り。すでに何人かキルしているようなので、あとは何でもいいから一撃入れて仮面を破壊してしまえば指名手配は成立する。


 やはり、キャラを捨てる覚悟でスタートダッシュを狙っているようだ。相手は適当に"成果"あるいは"被害"をうけたところで撤退する作戦だろう。これだけの人数がいれば何人かは取りこぼす可能性が高いから博打としては成立している。


「ふざけんな! まわりは皆迷惑しているんだ! こんな勝手が許されると思うなよ!!」

「ふっ、そうやって時間稼ぎをして、自警団の仲間を集めるつもりだろ?」

「ぐっ!」


 自警団の狙いは言葉で時間を稼いで、仲間を別の門からまわり込ませての挟み撃ち。数にまさる自警団は、PK集団を挟み撃ちにして確実に仮面を破壊する作戦だったようだ。


 対してPK集団は、不利な局面のはずなのに余裕の表情を崩さない。自信があるのだろうが…、どうやら奥の手か、別の狙いでもある雰囲気だ。




 ほどなくして自警団の第2陣が到着する。


「観念しろ! お前たちは包囲されている!」

「おせ~よ、ザコが! 一体どんだけまたせんだよ!」

「な!?」


 奇襲したはずが、あろうことか奇襲した相手に遅いと怒鳴られる始末。もちろんこれは訓練などではない。犯人の狙いは一般PCだけでなく、自警団もまとめてキルする予定だったようだ。


「お前たちにNPC狩りを邪魔されて、こっちは迷惑してんだよ! 悪いがお前らには…、ここで死んでもらう!」


 もちろん、キルしてもすぐにリスポーンできる。 インベントリーのアイテムはドロップするが、仲間に拾わせたり倉庫に預けておけば被害はない。デスペナルティーは痛いが、それでも半日程度で取り戻せる程度だ。


 当然、そんなことは連中も分かっているだろう。PK集団の狙いは、衆人環視のもとで自警団を叩きのめすことにある。


 こんな初期段階からNPCを狩ってC√を確定させようとするPCは、まず間違いなくランキングを狙っているガチ勢だ。彼らは烏合の衆である自警団の戦力を恐れていない。少なくとも1対1なら確実に勝つ自信があるだろう。


 つまり、こうしてわざとリスクを背負った上で勝つことで、自警団の戦闘能力の低さを大衆に知らしめる。そして人気を削ぎ、さらには団員を減らしてイベントエリアの警備を出来なくするのが狙いなのだろう。


「はじめから俺たちをおびき寄せるために王都でPKをしたのか…。しかし! 俺たちが優位なのはかわりない! 死ぬのはお前たちだ!!」


 犯人もよく人数を集めたが、それでも自警団はその約2倍、今日は休日なので時間をおけばもっと増えるだろう。普通に考えれば自警団が完全に有利だ。


「おいおい、L√プレイヤーが人を殺していいのか?」

「はぁ? 何を今更、"犯罪者"を殺しても、√落ちするわけないだろう!?」

「それは相手が"殺人犯"だった場合だろ?」

「な! まさか!?」

「ごめいとう。俺達の中には√が確定していないPCが混じっている。兵士相手なら、即犯罪者判定がつくが…、お前たち自警団は違う! 所詮はただの一般PCで、殺さない限りは無罪だ!!」


 現実では傷害罪だろうが…、L&Cの世界には、ゲーム上のルールはあっても法律はない。つまり、裁判がないのでグレーゾーンは全て白になる。


 もちろん、運営に通報する方法もあるが…、あくまで運営が取り締まるのはチートやセクハラなどの違反行為であって、善悪に関する迷惑行為では動かない。


「くっ、卑怯だぞ! 正々堂々戦え!!」

「別にお前らみたいなザコなんていくら集まったって怖くないんだけど…、まぁこれも"保険"ってやつだ」


 PK集団の用意した保険は2つの意味がある。1つは自警団に攻撃を躊躇させる目的。迂闊に犯人を殺せば、逆に自警団の側が"犯罪者"になってしまう。


 たとえ相手がギルド未加入でも…、自警団の団員はまず間違いなく冒険者ギルドなどの各種ギルドに加入している。その場合、"非犯罪者を殺す"行為は犯罪になってしまう。


 そしてもう1つがL√ランカーの介入を抑制するためだ。L√のガチ勢は自警団の活動には非協力的だが…、敵対しているわけではない。だから条件さえ揃えば助けてくれる。とくに今回は城門を封鎖しているので、ランカーだって迷惑しているはずだ。それならノリのいいヤツが協力してくれても不思議はない。


 しかし、相手にC√が確定していないPCがいるとなれば話は別だ。さすがに彼らも、自分たちが√落ちするリスクを背負ってまで初心者を助けようとはしない。


「好きかって言いやがって。だが俺たちだって信念がある! 仮面も割らずにおめおめと逃げれるか!!」

「いいぜ、だったらかかってこい。相手になってやる!」


 戦力的には自警団優位の状況だが…、精神的には完全に犯人側が主導権を握っている。自警団は基本的に正義感の強い初心者を集めただけの烏合の衆。これでは数の優位をいかすのは難しいだろう。




 こうして自警団とPK集団の戦いの幕があがった。

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