#036(6日目・午後・セイン)
「まずいな。どう見ても自警団の張り込みだ」
「いっそ、他の街でギルドを設立しますか?」
「いや、ん~、それでも結局、依頼を受けるために支部が必要になるしな…」
午後、俺とアイは、王都アルバの"ギルドホームエリア"に来ていた。しかしそこには、数名のPCが不自然にたむろしていた。
十中八九、自警団の連中だろう。他に見張るところがあるだろうと思うが…、彼らの活動には、実力と影響力をもっているニャン子の存在が必要だ。
たぶん、メンバーの中に経済や心理に詳しい奴がいるのだろうが…、活動自体は青臭いわりに、意外なところでズル賢い。
「ギルドホームの増設って、たしか1Mだったよな…」
「そうですね。余剰資金は、昨日、露店用の商品にしてしまったので手持ちはほとんどありません。ですから、日をおいて様子をみるか…、他の街でギルドを設立して、資金がたまったらあらためて王都にホームをかまえるかですね」
個人ギルドを設立すると、その街のギルドホームエリアにギルド員専用の家があたえられる。そこでは酒場の個室よりも広いスペースでゆったりくつろげるほか、ギルド員で共有できる専用倉庫や、外部のPCから依頼を預かる掲示板などが使える。
さらに追加資金を支払うと、ホームを拡張したり、他の街にもホームを設置できる。さらに追加料金を払えば、各ホームを繋ぐ転送ゲートを設置したり、大手ギルド専用のダンジョンに入る権利など特典は様々だ。
「よし、とりあえず出直そう。急いでいるわけでもないし、すこし様子を見る」
「はい。私と兄さんの新居です。じっくり選びましょう」
「お、おう…」
ちなみにニャン子は目立つので別行動をとっている。頭を見れば顔を知らなくても判別できるニャン子に比べて、俺たち2人の知名度は驚くほど低い。
本来ならこう言うのは、仲間うちで大々的にやるものだろうが…、お互いソロがいたについているので、どこか素直に盛り上がれない部分がある。
*
「うげっ、アイツラ、ギルドホームまで見張ってるにゃ? 勘弁してほしいにゃ」
「えぇ、まさかここまで徹底しているとは。悪意はないにしろ、やっていることは粘着、完全に迷惑行為です」
大通りに戻って露店を確認しながらニャン子と相談する。木の葉を隠すなら森。ここならほかにも[猫耳]を装備したPCはいくらでもいるので、下手に酒場に行くより目立たずに話ができる。
しかし、ゲセないのは自警団だ。なぜここまでニャン子にこだわるのか?
自警団はガチ勢には相手にされていないものの…、団員数自体はかなりの人数だ。べつにニャン子に固執しなくても、人海戦術で充分な成果があげられると思うのだが…。
もちろん、対人が出来る戦力が欲しいのは理解できる。しかし、それはあくまで最終手段であり、ここまでするほどの重要とは思えない。もしかしたら、自警団も一枚岩でないと言うか…、過激派と呼べるような派閥があるのかもしれない。
「それで、今日はどうするにゃ? 何もしないにゃら、アイにゃんもいるし、コボルト狩りにいきたいにゃ~」
コボルトのドロップを集めると、Cランクの顔装備、[獣の鼻]が作れる。専用スキル<嗅覚追尾>が使えるほか、各種ケモミミと同時に装備するとセットボーナスで…、
シッポが生える。
ちなみにシッポに追加効果はない。頭装備がケモミミに制限される分、総合的にはマイナスなのだが、そんなものはエンジョイ勢のニャン子には些細な問題だろう。
「いえ、私は用事があるのでログアウトします」
「え? てっきり今日は1日中ログインしているものだと思ってたにゃ」
「一応言っておいたほうがいいか。基本的にアイは、土日は商品の販売に専念します。VR機の前にはいるので、メッセージを送れば確認できるし、必要があればその都度ログインしてきます。でも…、土日はいつもこんな感じだと思ってください」
俺もアイも基本はソロであり、別行動が多い。場合によっては2人で狩りをすることもあるが…、お互い前衛型でとくに連携スキルは使わないので、同じ狩場にいても別行動が多かったりする。
それに…、アイは今、俺のところに来ている。俺はいいと言っているのだが、アイは世話焼きなので休日はよほどの理由がない限り、俺のところにきて身のまわりの世話をしてくれる。
「いがいにゃ。アイにゃんなら絶対についてくると思ったにゃ」
「私にだってゲームより優先するものはあります。それに…、ふふ、ふふふふふ…」
「「 ………。」」
とは言っても、長い時間一緒にいても気まずいだけ。身のまわりの世話と言ってもそれほどやることはない。だから俺はL&Cに専念して…、アイは露店を管理しながら勉強などをしている。
それで、勉強が一段落つくと、頭の中を整理するためにひと眠りする。だから俺がログアウトすると…、大抵アイは俺のベッドで寝ている。
別に俺のベッドを使うのはかまわないのだが…、アイは服が煩わしいのか、極めて薄着で寝る。まぁなんというか…、あの姿は人さまにはとても見せられない。
こうして、俺たちはギルドの件を保留にして、狩りへと出かける事にした。
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