#034(6日目・午前・セイン2)
「えっと、久しぶり。調子はどうだ?」
「はい! おかげさまで、今日は会えてうれしいです!!」
久しぶりに会ったのは、初日に知り合った初心者PCのスバル。
スバルとは、あれからメールのやり取りが続いていたが…、クルシュナに買い出しに行くついでに、すこし会って話すことにした。
「なんか反応がワンコみたいだな?」
「え! そうですか!? えへへ~」
スバルってこんなキャラだっけ?
妙にテンションが高かったり、ワンコ呼ばわりされて素直に喜んでいるのは、なんとなく違和感がある。
「そういえば、相変わらずソロなのか?」
「はい、まぁ…、今日からはちょっと事情がかわるんですけど…」
「あぁ、そうか、アテが外れたか…」
メールではそんなことは書いていなかったので、しばらくはソロをつづけるものだと思っていたが…、どうも昨日までだったようだ。
「え? もしかして、ボクをPTに!?」
「いや、違う」
「ぐっ、そ、そうですよね…」
人生どん底のような表情のスバル。コイツ絶対にウソが下手だ。
「いや、完全に違うわけでもないんだが…。今日、個人ギルドを設立する予定なんだよ。それでギルドの"招待メンバー"にどうか?っと思って」
招待メンバーとは仮のギルド員で、ギルド権限やギルド倉庫は利用できないが…、ギルドホームに自由に出入りできるゲスト用の枠だ。
「すみません、ちょっと攻略サイトを確認します!」
「いや、まぁそれくらい聞いてくれれば答えるが…、ようは今よりも連絡が取りやすくなるって話だ。まぁ友達?との付き合いがあるようだから、この話は…」
「まってください! あの子たちは、ただの後輩で、ボクとしても本意じゃないと言うか…」
「あぁ、リアルの付き合いか。大変だな」
「でも、なんで急に? その、正直に言って予想外でした」
俺もこの話は、悩んだ末の決断だ。偽装ルートはバレたら終わり。不確定要素となる初心者は、本来取り込むべきではない。それでもスバルに声をかけたのは…。
「まぁなんだ、これから情報がモノを言う活動をするから、
「それに?」
「これでもスバルの才能は認めているつもりだ」
「!!?」
ハトが豆鉄砲をくらったような顔をするスバル。
別にウソは言っていない。初心者であれだけ動ける者はそうはいないし、頑張っているのも知っている。しかし、作為的にスバルをおだてたのも事実だったりする。
「俺はしばらく王都で…、賞金稼ぎのような仕事をする」
「え?」
「PCの依頼をうけて、ターゲットを狩るのを口実に…、PCのキル数を稼ぐわけだ」
「なるほど。つまり、犯罪をおこなっているPCを調査して、その情報を報告すればいいんですね!」
「いや、そこまでは言っていない。あくまで情勢とか、現場の空気感が知れればそれでいい」
発想の飛躍っぷりが、ちょっとアイっぽい。俺はあくまでクルシュナの情勢が知りたいのと…、√偽装をする予定がなかった初日に、うっかり俺がC√だと話してしまったPCを身近に置いておくためだ。
このまま自警団の依頼をすすめていけば、いつかはスバルをターゲットに指名される日がくる。そうなれば恨みを買って、俺がC√だとバラされてしまうだろう。
まぁ初心者PCの主張を本気にするものはいないだろうが…、人はえてして自分の都合のいい事実を信じるものだ。スバルの主張は信じていなくとも、その場の空気に流されてってことは充分あり得る。
「えっと、それじゃあ協力者は多いほうがいいですよね?」
「いや、それは困る。わるいけど、スバルの後輩?が信用にたるとは限らない」
俺としては、あくまで真相を知っているスバルをおさえておきたいだけ。不安要素を増やすようなマネはできない。
「うぅ…、うぅ…」
考え込むスバル。プライベートなことに口をはさむつもりはないが、どうにも複雑な事情があるようだ。
「まぁなんだ、答えを急ぐ必要はない。俺はこのあと予定があるから、いったんログアウトするけど、その後は…、あ」
「どうかしました?」
「いや、そう言えば今日は土曜日だった」
「はい、そうですね。L&Cをはじめる前は、まだ寝ていた時間です」
「俺もだ。いや、まぁなんだ。午後は知り合いがログインするから時間はさけない。それで、その後輩がL&Cをつづけていくとは限らないんだろ?」
「そうですね…」
L&Cというゲームは初心者につめたい。ついでに課金要素もないので金の力も使えない。必要なのは、体を動かして戦う"センス"とネットゲームに時間を費やせる"環境"だ。
それがない者は、重いデスペナと装備ロストでアッサリ詰む。全財産をはたいて買ったレア装備が、その日のうちにロストとか…、わりとどころか本気でへこむ。
「別に急いでいないから、また状況がかわったらメールしてくれ」
「はい! そのときはお願いします!!」
そう言えばニャン子の存在をすっかり忘れていた。アイは露店の管理で動けないが、ニャン子は普通に狩りが出来る。別に一緒に行動しなくてはいけない訳でもないのだが…、勝手にコロコロ予定を変更するのも失礼だろう。
こうして、なれない多人数プレイを煩わしく感じながらも…、俺はクルシュナをあとにした。
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