#031(5日目・夜・セイン)

 カンカンカン ピロリ~ン!


「今、何割終わった?」

「そうですね、倉庫にある分も含めると、3割くらいでしょうか?」

「おっふ。まぁ気長にやるか」


 夜、王都の鍛冶工房。ここでは装備の補修や強化などがおこなえる。今は、装備の更新と並行して…、溜まったゴブリンドロップの装備を修理して、安全域まで強化する作業をしている。


 ちなみに工房は酒場の個室と同じで別空間になっている。L&Cはなんでもありだが、重要なエリアはちゃんと妨害が出来ないように区分けされている。


「よかったら、兄さんも何か狩りにいきますか?」

「いや、付き合うよ。倉庫の往復もしないといけないし」


 装備の改修作業は1つずつNPCに話しかける形で進行するので、どうしても時間がかかる。速さだけなら3人がかりで分担する手もあるが…、ジョブ経験値をアイに集中させるために1人でやってもらう。


 ジョブ経験値とは、ジョブのレベルを成長させるための経験値で、戦闘経験値と違ってイベントやアイテムを使用するなどの行動でも入手できる。


「お~ぃ、安いアイテムを買い占めてきたにゃ~」

「お疲れさまです。ニャン子の装備も完成しましたよ」

「おぉ~、ファミじゃなかった、サンクスにゃ~」


 ボケはスルーするとして…、ニャン子には、適当に露店を巡回して転売できそうな品を調達してもらっていた。



・追加装備

革の防具+3(各種):最低ランクの防具で性能は期待できないが、その分軽いので動きを阻害しない。


"力の"バンク+5:ウルフの魔結晶をエンチャントしたバンク。追加効果で"体"のステータスが微増する。


"毒の"スティレット+5:スネークの魔結晶をエンチャントしたスティレット。攻撃時に5%の確率で対象を毒状態にする。


"変異の"バグナウ+5:マッシュの魔結晶をエンチャントしたDランクの拳装備。爪がついており、斬・刺突属性の攻撃も可能。5%の確率で眠り・麻痺・混乱・盲目のどれかを付与する。


"衝撃の"モーニングスター+5:スケルトンの魔結晶をエンチャントしたDランクの片手打撃武器。攻撃時に5%の確率で対象をスタン状態にする。


"忍耐の"バックラー+5:トレントの魔結晶をエンチャントしたDランクの中型盾。追加効果で耐久値が増加する。


 精錬について。Cランクまでの装備限定で+5まで強化できる。効果は+1から+3までが性能や耐久値の微増で、装備の追加効果は変化しない。+4はエンチャントを可能にする処置で性能の変化はない他、失敗して装備が壊れるリスクがある。最後に魔結晶や属性をエンチャントすると+5になる。


 +3までの性能の向上は僅かで、費用も発生することから、繋ぎの装備などエンチャントする予定がない場合は未強化で使うことも選択肢に入る。



「やっとお互いの特色が出てきたな。まぁ、全員前衛なんだけど…」

「それは言わないお約束にゃ~」


 俺が1撃を重視したクリティカルアタッカーで、アイが回復アイテムと盾で攻撃を受けるディフェンダー、ニャン子が足と手数をいかして場をかき回すアクティブアタッカー。


 回復をアイテムに頼っているので金銭効率は浮き沈みが激しいが、全員ソロが可能で、事故死は少ない。


「こっちはまだかかるので、自由にしていてください。なんなら"染色"でもしてきますか?」

「あぁ、そうするかにゃ。今日は人が多いから、染色しているうちに露店も入れ替わりそうにゃし」


 染色とは装備の塗装サービスの事で、対応した色の花を持ってNPCに話しかけると装備の色を変えられる。手数料も安く、花もフィールドを歩いているといくらでも手に入るので個性を出すために利用しているPCは多い。


 と言うか、これがないと同じ服のPCばかりになって気持ち悪い。


「兄ちゃんは染色しないにゃ? 花ならいっぱいあるから、ついでにやってくるにゃ」

「いや、俺は目立ちたくないのでデフォルトでいいです。アイはどうする?」

「私も結構です」

「うぃ。ほんじゃぁいってくるにゃ~」


 そういってスタスタと工房をあとにするニャン子の背中を見送る。


「兄さん。その…」

「ん? どうした?」

「兄さんはニャンコロさんのこと、どう思っているのですか?」


 いつになく抽象的な質問をしてくるアイ。


「どうって…、べつに。まぁ偶然の出会いだったけど、やりやすい人で助かったとは思っているな」

「その…、仲がよさそうだなと思って…」

「仲は悪くないけど…、よくもないかな?」

「そんなことは!」

「ん~、説明しにくいけど、お互いの距離感がかみ合っている感じ? これくらいの距離で接してほしいって距離が、お互い同じくらいなんだよ。だから反発しないし、引き寄せあったりもしない」

「 ………。」


 複雑な表情で考え込むアイ。


 実際にニャン子がどう思っているかは知らないが…、俺としてはこれ以上親密になりたいとか、逆に離れたいとか言う感情はない。そう、このくらいの距離感がベストなのだ。


「その、なんだ…、明日は休みだろ?」

「 …あ、はい!」

「まぁあれだ。来るなら、待ってるよ」

「はい! 必ず!!」


 こういう答えのない問いかけは、話をそらすのが正解だと思っている。


 お互い離ればなれで暮らしているので、会えるのは土日だけ。この話をすれば、大抵は機嫌をなおしてくれる。




 その日は結局、装備の補修に時間をとられてまともに狩りは出来なかった。

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